27:その意図は?
案内された部屋の中へ入った瞬間。
眩しい!
正面一面が窓ガラスで、部屋に冬の太陽の陽射しが溢れている。
目がチカチカしている状態だったが、ガヴリールの声が聞こえてきた。
「セシル様、お招きに応じていただき、ありがとうございます」
初対面の時とは違う声音。
これは……二人の皇女と話していた時と同じ声では?
「ジョセフ、君が護衛? 驚いたな。クラウスお兄様は、よほどセシル様のことを気に入っているようだ。……本当はセシル様と二人きりがよかったけれど、いいよ、ジョセフ、君はそこの椅子に座るといい」
私は部屋の中央に用意されているテーブルの前の椅子に、ジョセフは部屋の隅に置かれていた椅子に、それぞれ腰をおろすことになった。
ようやく明るさに慣れ、テーブルの上を見ると、なんだか見たことがないお菓子が並んでいる。
少し硬そうなキャラメル菓子。白や淡いピンクのメレンゲ菓子のようなもの。揚げたパンみたいなものもある。
「では始めようか」
声にガヴリールの方を見る。
長めのホワイトブロンドの髪は後ろで一本に結わかれている。耳には瞳と同じ紺碧色のピアス。オイスターホワイトのセットアップ姿で、背筋をピンと伸ばし、椅子に座っている。
紅茶が注がれ、数種類のジャムが用意された。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
紅茶を飲もうとした瞬間。
「へえ、今朝の策士ぶりとは別人のように無防備」
ガヴリールの声に、カップを持ったまま動けなくなる。
「朝食の席でのセシル様は……実に素晴らしかった。頭の回転の速さ、適切に選ばれた言葉遣い、絶妙なタイミングの提案。でも今は……。その紅茶に毒が盛られているとは、考えないの?」
ガタッと背後で音がして、ジョセフが立ち上がったと分かる。すぐに振り返り、ジョセフに大丈夫と示し、カップを一旦ソーサーに戻した。
「この状況下では、さすがに毒は盛りませんよね? どう考えても犯人はガヴリール第三皇子様になってしまいますし」
平静を装って答えたものの、心臓はもうバクバク。
正直、毒を盛られる想定は……甘いかもしれないが、していなかった。
ガヴリール第三皇子は、皇妃の子供。当然皇妃が嫌う私を、好ましいとは思っていないだろう。だからといって、いきなり害することはない……そう思っていた。
それに……。
私はガヴリール第三皇子を見て口を開く。
「紅茶は毒を盛るには、向いていませんよね? 茶葉にもよると思いますが、毒を入れれば、紅茶ならではの風味が失われます。紅茶を飲み慣れている人であれば、香り、一口目で気づく可能性が高いでしょう。よっぽどの劇薬でなければ、その場で吐き出して終了では?」
フレーバーティーは、この世界のこの時代ではまだ傍流。よってオーソドックスな香りから逸脱するものや味の違いで、毒の混入はバレやすい――そう予想したわけだ。
「毒を飲み物に混入させるなら、ワインでしょう。でも私はまだお酒を飲む年齢ではありませんけどね」
もうこの話は切り上げたい!という一心で、言葉を投げかける。私は毒について詳しくない。できれば可及的速やかに、この話題からは遠ざかりたいと思った。
「……なるほど。完全に油断していると見せかけ、その実、頭の中で計算済みというわけか」
全然、そんなことないのですけどね!
尤もらしく言ってみたけれど、どうやら正解……だったのかしら?
「すごい曲者ですね、セシル様」
それは褒めているのか、けなしているのか、判断に迷う。
それで……毒は入っていませんよね、紅茶に!
緊張で喉が渇いてしまった。
「よかった。最初からあなたに挑まなくて。今日のお茶会の飲み物やお菓子に、毒なんていれていませんから。安心してお召し上がりください」
ガヴリールは、毒なしを示すためなのか。
テーブルに並べられたお菓子を、手当たり次第に食べていく。
私はホッとし、紅茶をようやく一口飲む。
うん、オーソドックスな味わい。
大丈夫そう。
思わず安堵のため息が漏れそうになる。
「しかし、母君に……皇妃相手にあの態度。晩餐会の時とは別人のようだった。初日は様子見、そして対策は立てた、だから今朝は自分から仕掛けた。そんな感じですか?」
なぜガヴリールは、そんなことを聞くのかしら?
彼の立ち位置がまだ分からない。
敵か味方で判断するならば。
皇妃の味方だから限りなく……敵に思える。
「言っておきますが、自分は日和見主義ですから」
「え」
「母君……皇妃の愛情は全部、キリルが持っていきました。皇妃にとってはキリルが全て。次に他国との交渉で使える二人の皇女。クラウス兄様が自分の後に生れて来てくれれば、まだ自分の存在価値もあったものを」
それはつまり……皇太子のいわゆるスペアとしての価値ということかしら。





























































