26:「ダメです!」「でも」
ジョセフを護衛につけ、ガヴリールのお茶会に行く――そのクラウスの提案に対し、私の答えは一択だ。
「分かりました。クラウス様。……その私……」
「何でしょうか」
「護身術を習いたいのですが」
「!?」
クラウスはしばし絶句し「ダメです!」と即否定。「でも」と私。「護身術は、身につける過程で、怪我をするかもしれないのですから」とクラウス。「それはそうですが……」と私が答え、そこで二人して沈黙となる。
絶対に、ダメかしら?
上目遣いでクラウスを見ると、彼は盛大にため息をもらす。
「……分かりました。ガントレットを使った防御術を、トニーに教えるように伝えておきましょう。あくまで防御ですからね、セシル嬢。そしてそれを習ったからと言って、過信はしないでください」
「ありがとうございます、クラウス様! 基本的に私は、騎士の訓練も受けられたクラウス様に、守っていただきたいと思っています。ですので、あくまで『もしもの時』のためです!」
「そうしていただかないと困ります。私の出番は奪わないでくださいね、セシル嬢」
クラウスはそう言うと、またも私の左手をとり……!
一身にその寵愛を受ける左手に嫉妬しつつ、でもここには仕立屋はもちろん、そばにメイド長とヘッドバトラーがいて、少し離れた場所にジョセフとトニーもいる。ゆえに左手への嫉妬より、恥ずかしさが勝ってしまう。
心臓がドキドキし、頬も熱い。
「待たせるとよくないので、準備をしましょうか。ジョセフ、こっちへ来てくれ」
クラウスが私の左手をはなし、ジョセフを呼んだ。
◇
ガヴリールはお茶会を、自身の部屋でやるという。そこで私は、ジョセフと並んで皇宮に向け、渡り廊下を歩いていた。
「……セシル様はなぜ、護身術を覚えたいのですか?」
自分から話しかけることは、用事がある時以外皆無のジョセフに話しかけられ、心底焦ってしまう。
「そ、それは……」
「ウッド王国にいる時、護身術など話題に出しませんでしたよね」
その通りなのだ。
ボニーに襲われた直後に、護身術を習いたいと口にすれば、皆の理解を得られたと思う。でもアイス皇国滞在二日目の昼間に、そんなことを言い出すと……。
「セシル様はアイス皇国で、自身の命が狙われるかもしれない――そう感じられているということですね」
ギクリ。
その通りなので、何も言えなくなってしまう。
「そんなことにならないよう、お守りするつもりですが……。お気持ちは分からなくないです」
!
も、もしやジョセフは、皇妃が二人の側妃を害した可能性に気づいているの……?
「証拠がないのです。とにかく証拠が。そして本人は自分がやったと白状するわけがないのですから」
ビンゴ!
やはりジョセフも気づいているんだ。
でも……証拠。そう証拠がないから……。
「護衛対象が、自身が危険な状況にあると認識しているか、していないかで、護衛の難易度は大きく変わります。何より本人に自衛の気持ちがあれば、危険な場所には近づかなくなりますから。……ある意味、これでよかったのかもしれません」
さすが護衛騎士のジョセフ! 理解があって助かったわ!
「でもセシル様。護衛術の練習で、怪我はしないでくださいね、絶対に。もしセシル様が手を骨折するようなことがあれば……。私がトニーの腕をへし折ります」
「え……!」
「セシル様が怪我をすれば、クラウス様がどれだけ悲しむか……。クラウス様の悲しむ顔など、見たくありませんから」
……!
ようやく気づく。
ジョセフは……私が自衛意識を持つことは、悪いこととは思っていない。でも護衛術を学ぶことは……。私がへまをすれば、トニーが大変なことになってしまう。
汗が吹き出しそうになったところで、皇宮の建物に入った。
すると並んで歩いていたジョセフが、一歩前を歩き出す。私の後ろには、少し離れて護衛騎士二名がついて来ている。
皇宮は……皇妃の目が届く場所。どこに皇妃の目や耳があるか分からない。よってさっきの話の続きをするつもりはない……ということね。
ジョセフの分かりやすい行動に納得しつつ、廊下を進んで行くと……。
荘厳なシルバーレリーフで飾られた扉が見えてきた。
扉の左右には警備の騎士。
ジョセフが立ち止まり、扉をノックすると、返事が聞こえる。
ゆっくり細く扉が開き、中から従者が顔を覗かせた。
ジョセフが名乗り、私は皇族の紋章がついた扇子を見せる。
扉がゆっくり開き、中に入ると、そこはエントランスホール。
四畳ほどの空間があり、床はマーブル模様の大理石。壁の大理石には鏡が何枚も埋め込まれ、部屋が広いと錯覚しそうになる。
「こちらへどうそ」
案内され扉の中を進むと……。





























































