25:予想外のお誘い
ヘッドバトラーがクラウスに伝えたことは、それは……。
「クラウス様が発見された鉱石のグレーティングが完了したそうです。そこでもし可能であれば、お茶の時間に、対面でレポートの報告をしたいと使いをよこしてきました。無理でしたら、レポートを置いて帰るとのことでしたが……」
黒のスーツに白髪の紳士なバトラーは、困ったように続ける。
「いかんせん、鉱石を扱う学者には、風変わりな者が多いようで、クラウス様のお立場を分かっていないようなのです……。事前に連絡をしていると言っても、当日のこのタイミングでは、もはやアポなし訪問も同然です。断りますか?」
すると鴇色のシャツに、梅紫色のスーツ姿のクラウスは、クスクスと実に優雅に笑う。
「アレクセイのことだね。気にしていないよ、彼はそういう人物だから。お茶の時間に応接室に案内して欲しい。そうそう。ウッド王国で手に入れた鉱石チョコレートも、出してあげると喜ぶだろう」
鉱石チョコレート。
それは鉱物に見立てたチョコレートで、フレーバーにより、色のバリエーションも様々。ウッド王国で今、人気だった。皇妃対策の一環で入手しておいたが、鉱石を扱う学者であれば、確かに興味を持ってくれそうだ。
「セシル嬢、アレクセイのこと、お茶の時間に紹介しましょう」
クラウスの言葉に返事をしようとした時、オルガが、遠慮がちにクラウスと私に声をかけた。
「クラウス様、セシル様。大変申し訳ないのですが、ガヴリール第三皇子様が、セシル様をご自身のお茶会に招待したいそうです」
「ガヴリールが?」
クラウスが、髪色と同じ美しいアイスシルバー色の眉を、くいっとあげる。
皇女二人には愛想よく振る舞い、私にはけんもほろろな対応したガヴリール第三皇子のことを、思い出していた。
なぜ、私をお茶会に? しかも私、だけ?
「……珍しいな。ガヴリールがお茶会。しかもそのお茶会に……セシル嬢だけを誘うなんて」
クラウスは独り言のように呟き、考え込む。
その様子から察するに、ガヴリールは、普段お茶会などしない人物なのだと理解する。さらにそこに私だけを誘うことは、クラウスが違和感を覚えるぐらいの事態なのだと分かった。
そうなるとそれは……なんだか行かない方がいいように思える。行くならクラウスと一緒がいいだろう。
そう思ったが……。
普段お茶会をしない人物がわざわざお茶会をして私を呼ぶということは……何か意味がありそうだ。それにもし、何か私にすることが目的なら、表ルートで声をかけないと思う。
つまりヘッドバトラーにわざわざ話を通さず、自身のバトラーを寄越し、その場でメッセージカードを見せ返答させる……それが妥当に思えた。
ヘッドバトラーを通じて打診すれば、ガヴリール第三皇子が私をお茶会に誘ったと知る人は増える。そうなれば悪さは……しにくくなるだろう。
「セシル嬢は、ガヴリールのお茶会に興味を持っているようですね?」
クラウスは私の表情変化に敏感!
さらに心が読めるのかと思うぐらい、いつも的確で驚いてしまう。
「そうですね。ヘッドバトラーを通じて声をかけてくださっているので、何か悪巧みを考えているわけではないと思います。同じ王族であり、これからも縁が切れるわけではないですから。それに新参者の私にせっかく声をかけてくれたので、話を聞いてみてもいいのでは……そう考えました」
私の言葉を聞いたクラウスは、浅紫色の瞳を細め、微笑を浮かべる。
う、美しいわ……。
「今朝のセシル嬢を見ていると……私の想像以上にしっかりされていると思いました。あなたであれば……大丈夫かもしれませんね。私はアレクセイに会うので、セシル嬢はガヴリールのお茶会に行くといいでしょう」
クラウスはやっぱり私の良き理解者!
「ただ、念のためでジョセフをつけましょう」
「え、でもジョセフは常にクラウス様の共にあるべきなのでは!?」
「私はトニーを連れて行くので、大丈夫ですよ」
トニーがダメなわけではない。
でもこれまで私に護衛をつけようと考えた時。
それはいつもトニーだったのに。
「セシル嬢、あなたは自分の価値を、時々忘れてしまうようです」
「えっ……」
するとクラウスがその細い指を伸ばし、私の顎を持ち上げ、自分の方へとむける。未婚の男女の不用意な接触は禁じられているのに! もう心臓が爆発しそうになる。
「あなたとわたしは、もう一つです。セシル嬢に何かあればわたしは……。あなたを守ることは、わたしを守ることでもあるのです。ですからジョセフと一緒に、お茶会へ行ってください」
ついに心臓は大爆発し、私の体からは力が抜ける。
へたりそうになる私を、クラウスは両腕でしっかり支えてくれた。
ソファに……座っていてよかったとしみじみ思う。
美貌のクラウスから凛として放たれる言葉には、なんだか魔力がある気がする!
そして今の問いに対する返事は、一択だ。





























































