24:友も同然に
シュガークラフトの一件を通じ、皇妃の中で私は「使える人間」として認定されたはず。
使える人間なんて、ただのぱしりみたいなもの。
それで構わないなんて……負けでは?
いや、そんなことはない!
皇妃にとって私は、にくき側妃の息子であるクラウスの婚約者――であるが、私を利用すれば、ウッド王国の手に入りにくい物が入手できる。そう思ってくれたなら、もう私の勝ち。
だって人間という生き物は、自身の決断を肯定するものだから。
素敵だと思って購入したワンピースがある。でもいざ家で着て見ると……。なんだかしっくりこない。でも「いいと思ってネットで見てポチっとしたのは自分」なのだ。本当は自分に合う色ではなかった――と頭の中で気づいていても、それは見ないことにする。
そうしないと自分で自分を否定することになるから。
皇妃も同じ。
私を使える人間と認定し、自分の懐に入れた後、何か違和感を覚えたとしても。皇妃は目をつむることになる。ぱしりとして使えると思ったのに。なんだか違うと気づいても、それには目をつむる。
だって使える人間認定したのは皇妃自身。もしかして使えない?と気づくことは、過去の自分の判定を否定することになる。
プライドの高い人間ほど、そんなことはしない。
プライドが高いゆえに、自己否定はしない。
目をつむる。気づきは無視、なかったことにする。使えない人間……そんなわけはない。彼女を使えると認定したのはこのわたくし。わたくしが間違った判断をするわけがない。一度入れた懐から、彼女を追い出すなんて……しないわ!――そうなる。
結局、人間とはそういう生き物。
なにせ自分が可愛い。自分を否定などしたくない。
プライドが高い人間ほど、その傾向が高くなる。
私は勉強が得意だったわけではなかった。
ただこれは面白いなぁと思い、覚えていた名言がある。
――敵が友となる時、敵を滅ぼしたと言えないかね?
前世では多くの人が、一度は聞いたことがあるリンカーン。
義務教育でも習う人物の一人。
これはそのリンカーンの言葉。
別に皇妃と友達になるつもりはない。
けれどどう考えても敵対すると面倒。
ならば逆に相手の懐に入り込んでしまえばいい。
一度懐に入り込んだなら。
皇妃はもう、そこから私を追い出せない。
お互いに友になるつもりがなくても、友も同然になる。
一年以上の時間をかけたのだ。
皇妃対策のプランは一つや二つではないから。
彼女の懐に入り込む――これもプランの中の一つだった。
上手く行くかどうかはフィフティ・フィフティ。
だがどうやら皇妃は、あっさり私を自身の懐にいれてくれた。
それがお茶会のお誘いだ。
私を喜ばすためではなく、お気に入りの貴族に自慢するためのお茶会であっても。そのお茶会は、彼女の懐の中で開催するもの。そこに私を招く時点で、彼女は負けた。自身の懐に私を入れてしまうのだから。
ところでシュガークラフトがなぜ最長でも10日間で手に入るのか?
父親を使いズルをする……なんてことはしない。
シュガークラフトは既に手元にある。
こうなる展開を見越して、今朝皆に配った以上に芸術的なシュガークラフトを、既に用意していた。それは離れの部屋にきちんと保管してある。
シュガークラフト以外もいろいろ用意していた。
多分、私は推し活をしていたぐらいだから、のめり込むと、とことん何かを突き詰めるタイプ。クラウスとの婚約で推し活は鎮静化し、でも推し活精神は残っていた。結果、私は皇妃対策に……のめり込んだのかもしれない。
でもそれもこれも。
クラウスと幸せに生きて行くための行動。
だって私は、皇妃が頂点に君臨する皇宮で生きていくのだから。
やり過ぎても、やり過ぎたなんてことはない。
これはもう生存本能が成せる技。
よって私は、喜怒哀楽をアイス皇国で捨てたクラウスに代わり、思いっきり皇妃に対し、笑顔を向ける。
「お茶会のお誘い、心から嬉しく思います。必ずや特別なシュガークラフトを、皇妃エリザベータ様のためにご用意しますわ」
◇
朝食の後は、クラウスが手配してくれた仕立屋が来て、早速、婚儀に向けた衣装作りの第一歩となる。アイス皇国の短い夏での結婚式。でも今は雪が降るぐらい寒い季節。胸元と背中の露出が多いドレスをイメージするのは、なかなか難しいが……。
「セシル嬢はとても肌が美しいですから。背中が大きく開いたデザインのウェディングドレスでも、きっと似合うと思いますよ」
秀麗な笑みを浮かべたクラウスがそう言ってくれるのなら……!
俄然やる気になり、頭の中はもう夏だ。
思いっきり大胆な露出のデザインのドレスでも「着こなして見せましょう!」という気持ちになってしまう。
だからドレスのデザインを選ぶのは、楽しくて仕方ない。
あらかじめ用意されたデザインの中から、自分のイメージに近いものを選び、そのデザインからどんどんブラッシュアップし、イメージを固めていく。同時に、使用する生地を決めて……。
あっという間にお昼となり、仕立屋と三人で離れのダイニングルームで食事をして、食後もドレスのデザインについて話すことになる。
三人でソファに座り、話しこんでいると、オルガメイド長とヘッドバトラーが来て、二つの要件を伝えた。





























































