21:狂気の一面
さっきからライトが話していることは、かなり危険だと思う。もし皇妃が耳にしたら、ただでは済まないのでは!?
「……ライト第四皇子様は今の話、私以外の人にも話しているのですか? こんな話をしていたら、あなた自身の命も危ないのでは?」
思わずライトの身に危険が及ばないか心配になり、尋ねると……。
「ボクはね、ちょっと過去に派手に暴れたことがあって。皇妃はボクの狂気の一面を目撃することになった。そこで皇妃は、ボクが死を恐れていないこと、ボクに手を出すリスクを知ったと思う。以後は触らぬ神に祟りなしだよ。とっと成人し、爵位を授かり、皇宮から出て行くことを願っていると思うよ」
一体ライトは何をしたの!? その瞬間、ライトが二人の皇女のことを「メス豚」呼ばわりしていたことを思い出す。狂気の一面。それを私は垣間見たのだろうか……?
「セシルお義姉様には一目惚れ。だってすごく綺麗だから。そのブロンドと碧い瞳。さらに皇妃に対する姿勢。その心意気はとても気に入った。ボク、気に入った相手のことはとことん好きになる。でも嫌いな奴は嫌い。皇妃にいつも付和雷同する皇女二人は、大嫌い」
理解した。だからあんな言葉を投げつけたのね。それは分かるけど……。
「ライト第四皇子様、お気持ちは分かるのですが……。それでも『メス豚』はどうかと思います。私も女性なので、自分が言われたみたいでドキッとして」
ライトの黒い瞳が底なし沼のように暗く沈んでいく。
し、しまった――。
これは暗黒面が表出している兆しでは!?
「分かったよ。じゃあもうその言葉は使わない。セシルお義姉様のこと、気に入っているから。それにセシルお義姉様は豚ではないですし」
……セーフだった。
でも気に入っている……。
それは良かったような、なんだか怖いような……。
「ライト、セシル嬢、そろそろ21時になります。ライトはそろそろ寝る時間ですよね?」
クラウス!
いいタイミングで来てくれたわ。
いろいろ情報をもらえたけど、これ以上話すと、底なし沼に取り込まれそうと思っていたから!
ライトも「はーい」と素直に応じてくれて、これで本当に解散となった。私はクラウスにエスコートされ、歩き出す。
「クラウス様、勝手に隣室に移動し、ライト第四皇子様と話し込んでしまい、すみませんでした」
「いえ、気にしていませんよ。わたしこそ『すぐに戻ります』と言いながら、結構、キリル殿下と話し込んでしまいました。ですからセシル嬢がライトと話し、時間をつぶせたことに安堵しました」
なるほど。そうだったのね。
……でも何を話していたのかしら?
「10日後、舞踏会が開催され、そこでセシル嬢とわたしの婚約が公式に発表されることが決まったそうです。ウッド王国にも招待状を送ることになりました。その日から10カ月後に、式を挙げるのでどうかと話していたのです。本当はあの晩餐会で食事をしながら、話したかったのですが、この話題に乗り気ではない人物がいますから……」
つまり……皇妃だ。
でもそれなら、別途話し合う席を設けてもよかったのでは……?
「こっそり皇帝陛下と打ち合わせしたり、皇妃抜きでその他の王族が集まって話し合いなどしようものなら……いろいろと面倒なことになります。そこであんな風に立ち話で、割と重要なことを話すのが、わたしの場合はよくあることなんですよ」
なんて涙ぐましい。
皇妃にそこまで気を使わなくてもと思う反面。
ライトと話すことで、私は認識を改める必要を感じていた。
皇妃は……いざとなると人を害するような人物の可能性がある。
私はアイス皇国に、クラウスと幸せになるためにやってきた。非業の死を遂げるつもりなどさらさらない。
妃教育は終わったが、どうやら私にはまだまだ学ぶべきことがありそうだ。
うん、護身術も習おう。
「セシル嬢、式は10カ月後でもいいですか? 明日から準備を始めれば、間に合うと思います。……実は一年前からわたしの方で、水面下で準備を進めていました。ほぼ準備は整っているので、安心してください。本当はセシル嬢の意見も聞きながら進めた方がよかったとは思うのですが……勝手に進めてしまい、すみません」
これにはもう驚いてしまう。
妃教育に私は追われていたが、クラウスだって山のような課題に取り組んでいたはずなのに……!
それに前世知識になるが、結婚式の準備を進めるカップルの多くが、喧嘩になることが多いとか。新婦に丸投げ新郎、新婦の問いかけに適当返事の新郎、ドレスより料理優先新郎など、それはもう大変なのだとか。それを思えば自ら率先して動いてくれるクラウスは……素晴らしいと思う!
しかも話を聞くと、水面下で進めてくれたことは……招待客をもてなすお酒の選定、アイス皇国内の招待客のリスト作成、海外の招待客のリスト作成など、私ではできないようなことばかり。
逆にこれからの10カ月間で、クラウスと私がやるのは、衣装と宝石を選び、料理のリクエストなどだ。……正直、それは楽しいこととしか思えない!
結婚式そのものの仕切りは、侍従長を中心に各種専門の役職の方がしてくれる。10カ月という期間が必要なのは、招待客の調整と衣装や宝石の制作期間のため、となる。
「クラウス様。私以上に忙しかったのに、いろいろ水面下で進めてくださり、ありがとうございます。これからは私も頑張りますので、一緒に準備を進めましょう」
「ええ、セシル嬢。そうしましょう。明日は早速、ドレスの仕立屋を呼んでいます。素敵な衣装をオーダーしましょう」
「はい!」
もう嬉しくて、嬉しくて。
離宮に戻るまでの馬車の中。
クラウスに寄り添い、手をつなぎ、本当に幸せだった。





























































