20: 口に出してダメな話では!?
クラウスも私も嫌われている、皇妃から。でもそれを言うなら、皇妃の実子ではない第四皇子のライトだってそうよね?
「ボクの母親って、元は皇宮で働いているメイドだったって乳母が教えてくれた。皇妃があんなだから、皇帝陛下は気持ちが休まらなくて、一時期手当たり次第で、女性に手を出していた。その中の一人がボクの母親だった。表向きはさ、体面を取り繕うため、側妃ということにしたけど、実際は違うってこと」
コーヒーを飲みながら、頭を整理する。
思いがけずタブーとなっている話を、ライト自らカミングアウトしてくれた。これは気になることを聞ける気がする。
「ライト第四皇子様の母君は、今はどうされているのですか?」
行方不明となっているが、もう本当に一切連絡がとれない状況なのかしら? もしや皇妃を恐れ、どこか遠くに身を隠しているなんてこと、ないのかしら……? そう思い、尋ねてみた。
「皇妃に消されたと思うよ」
「え!」
「クラウスお兄様の母君もそうだと思う。表向きの理由は、体のいい作り話だとボクは思うけどね」
こ、これは……。
思っても口に出してダメな話のような気がする。
思わず誰かに聞かれていないかと周囲を見るが、メイドは話が聞こえるような場所にはいない。それにこの世界にはまだ、盗聴器はなかった。トニーは少し離れた位置にいが、彼はそもそも盗み聞きなんてしない。だから大丈夫……だけど、衝撃な話だ。
いや、そもそも……。
「い、今の話はあくまでライト第四皇子様の想像ですよね? 何か証拠があるわけではないですよね?」
「そうなんだよ。そこは皇妃が用意周到だからさ。実際、クラウスお兄様の母君は、流行り病にかかっていた」
ライトはコーヒーと一緒に出されていたクッキーを口に運び、そしてこう打ち明けた。
「でもさ、回復の兆しはあった。クラウスお兄様は騎士の訓練で山にいたんだ。それで急いで下山して戻って来たけど……容態が夜のうちに急変し、そのまま彼の母君は亡くなってしまった。容態が急変した夜、皇妃がお見舞いに行ったって噂もある。でも流行り病で亡くなったと発表され、真相は闇の中」
これには衝撃を受ける。だって、どう考えても怪しい。でも……証拠がないんだ。だから皇妃が何かしたなんて、誰も言えない。だからこそ流行り病でなくなったことになっている……。
「ボクの母親はさ、ボクを身ごもったと分かった後、実家に戻り、そこでボクを産んだ。同時に側妃になる手続きが始まって、一足先に赤ん坊だったボクは皇宮に連れて行かれた。で、ボクの母親も皇宮に来るとなっていたけど……。そこから行方が知れないって。皇妃はさ、新たな側妃が来ると知って、頭に来て離宮にいたらしいけど。ボクの母親の実家は、その離宮に近い村にあったんだ」
……! きな臭い情報に息を飲むしかない。でも実家が村……? ライトの母親は、確か異国の民族の姫君だったはずでは……?
「皇宮で働いているメイドだったのに、村の出身?って思うだろう。でも違うんだ。ボクの母君は少数民族の長の姫君だった。でもその一族は戦で負け、ボクの母君は、その村の老夫婦に育てられた。母君は美しかったようで、まずは宮殿で下働きとなり、やがて皇宮で働くようになって……。側妃になれたなら、夢物語のお姫様になれたのにね」
よく理解できた。理解できたし、美しいライトの母親が、側妃として皇宮に上がることが決まっていたのに突如、皇妃の離宮の近くの村で行方不明になったとなると……。
ライトが自分の母親は、皇妃に消されたと考えてもおかしくない。
というか、皇妃はクラウスに沢山意地悪をしているが、それは意地悪の範囲で収まっていると思った。もし誰かを害するようなことをしているのなら、もうそれは犯罪。許されることではない。皇帝陛下は、皇妃の罪に気づいていないの……?
「あ、その顔。そんな恐ろしい皇妃をなぜ父君が……皇帝陛下が放置しているのか、って顔をしている」
図星だ。だから思わず黙り込むと。
「そもそもアイス皇国では、離婚が認められていない。それに離婚には理由が必要だけど、理由が見つからない。だって皇妃はきちんと役目も果たしている。王太子と第三皇子、二人の皇女も産んでいるだろう。それに誰にも意地悪していない。二人の女性を闇に葬った証拠もないから」
そうだ、そうなのだ。
皇妃の意地悪は意地悪ではない。
私がお腹をすかせているから、晩餐会をスタートさせましょう。
クラウスと私が緊張して可哀そうだから、無理に食事に同席する必要はないのでは。
そういう言い方をするのだ。
何よりも証拠がない……。
「それに皇妃って、もし父君が……皇帝陛下が自分を裏切ると分かったら、平気な顔して暗殺しそうだし。皇帝陛下もそこ、気づいているんじゃないかな。証拠があればそれを盾に戦える。でも丸腰では無理。自分の命を守るためにも、静観しているのかなって思うなー」
ライトは実にあっけらかんと話しているけど、私は背中に汗が伝う。だって……。





























































