18:これが彼女のやり方
クラウスは二人の皇女に尋ねたのに。皇妃が話しだした。
「クラウス様、申し訳ありません。セシル様も。誕生日パーティーに招待しなかったのは、わたくしの落ち度ですわ。お二人が来てから誕生日パーティーをすればよかったですわね。本当に、ごめんなさい」
まるで今にも泣きそうな皇妃を見た二人の皇女は「クラウスお兄様の意地悪!」「クラウスお兄様ひどいですわ」と、クラウスを睨んだ。
「皇妃エリザベータ様、わたしはパーティーに招待されなかったことを責めているわけではありません。そのように聞こえてしまったのなら、申し訳ありません。シルビア、ヴィヴェカ、わたしは皇妃を責めてなどいません」
クラウスはそう言うが、二人の皇女は頬膨らませ、皇妃はしらじらしく目元を拭っていた。
これが……皇妃のやり方。
おじいちゃん植物学者のピーター子爵から話を聞いていたが、目の当たりにすると……。相当、頭にくる。だがここで何か言っても、状況は悪い方向へ持っていかれるとしか思えない。
このウサギの誕生パーティーではない話題に移ることを、願うしかなかった。
だが運よく、メインの肉料理が運ばれ、キリル殿下が狩りの話を始めてくれた。その話に皇帝陛下が反応し、第四皇子も鷹狩りの話を始めてくれる。
話題がウサギから離れたことにホッとして、私が口を開こうとすると。
「狩りで捉えたウサギは、ガリガリですわよね。あんなウサギ捕まえても、なんだか可哀そうに思えてしまいますわ」
そう言いながら、ジロリと私を見る。
皇妃は……私が何か言うならウサギの話を蒸し返すつもりなの!? もうそのアピールにしか思えない。
結局、晩餐会で私やクラウスは、ほとんど話すことができなかった。すると皇妃はこんなことを言い出す。
「ねえ、皇帝陛下。今日はせっかくクラウス様の帰還を祝い、セシル様のお祝いで晩餐会を開いたのに。お二人はほとんどお話されませんでしたわ。きっとわたくし達とのお食事に、緊張されてしまったのではないかしら? 明日からはお食事、お二人でとるようにしていただいては?」
それは……その方が気持ちとしては楽になる。間違いなく、食事も美味しくいただけるだろう。でも家族が揃う食事の席で、皇帝陛下が何かを表明する可能性があった。それに食事の席には、王族が全員揃う。何かこの国にまつわる話題が、出るかもしれないのだ。
ただの食事の席ではない。情報交換の場でもある。それにクラウスと私が出ないとなれば、あえて皇妃は朝食の席で、いろいろなことを皇帝陛下に話すよう、促すだろう。それにこんなことも想像できる。
偶然、全員が揃った夕食の席。
皇妃は、ティータイムに私が来なかったが、どこか具合が悪いのかと問う。そこで私がティータイムについて知らなかったと答えると……。
「あら、今日は女性の皇族同士、親交を深めるためにティータイムを一緒に過ごしましょうとお伝えしましたわよね、朝食の席で。あ……そうでしたわ。セシル様は朝食にはいらっしゃらないものね。わたくしが悪かったですわ、ごめんなさいね」――そう言うと皇妃は涙ぐみ、二人の皇女は「お母様は何も悪くありませんわ!」「朝食に来ないセシル様が悪いだけです!」と反応する。
あくまで想像なのだけど。とてもリアリティを感じた。
別にこの程度の些細なことなら、私が気にしなければ済むこと。でもクラウスが王族の一人として知っていた方がいいことを聞き漏らし、遅れて知るようになるのは見過ごせない。
つまり同席しないことは、情報収集の観点からも好ましくない。かつクラウスの公務にだって影響が出かねないのだ。
聞くと昼食はそれぞれ公務があるので、ばらばらにとるが、朝食は必ず全員一緒にとるとのこと。夕食は晩餐会や舞踏会もあるため、時間があえばダイニングルームで共に食べましょうという緩い設定になっていると、オルガが言っていた。
「……なるほど。皇妃は別々にと言ってくれているが、クラウスはどうだ? それにセシルは?」
皇帝陛下がクラウスと私に視線を向ける。
これは皇帝陛下も判断しづらいだろう。
皇妃から徹底的に嫌われているクラウスのことを思えば、食事に同席しない方が、彼の気持ちが楽になると、皇帝陛下も分かっている。その一方で、王族と顔を合わす機会がなくなることの意味も分かっていた。さらに今、クラウスは一人ではない。私という婚約者もいる。
「皇妃の言う通り、食事は二人でとればいいだろう」とも「いや、食事には二人とも顔を出すように」とも、皇帝陛下としては言いにくい。
命じることができる立場にはあるが、皇帝陛下は“氷帝”などではない。多分、優しく不器用な人なのだ。
「皇帝陛下夫妻のお気遣い、心から感謝いたします。食事をどうするかは、セシル嬢ともこの後話したいのですが、いかがでしょうか? お時間をいただけると幸いです」
さらにクラウスはこう付け加える。
「何よりわたしもセシル嬢も、家族と会えるこの晩餐会を楽しみにしていました。声を発することは少なかったかもしれませんが、皆様のお話はしっかり聞かせていただいたつもりです」
皇妃は腕組みし、冷めた一瞥をクラウスに投げつけている。でもそんな一瞥を気にせず、クラウスは話を続ける。
「一年ぶり以上で帰国し、いろいろとわたしは疎くなっていました。まずは皆様の話を聞くことになったと思います。セシル嬢は皆様とは初対面。二人してどうしても様子を伺う状態になりましたこと、お許しいただけると幸いです」





























































