17:言葉に込めた想い
クラウスを見た皇帝陛下が口を開いた。
「クラウス。そちらの美しい婚約者を、ぜひ我々に紹介してもらえるかな?」
「ええ。勿論です、皇帝陛下」
クラウスは自身の胸に手をあて、恭しく皇帝陛下に頭を下げてから、私の紹介をしてくれた。その話を聞いた皇帝陛下は……。
「ウッド王国からよくこの国へ嫁いでくださった。緑豊かな母国に比べると、ここは冷たい氷ばかりの土地だ。特にこれからは凍てつくような寒さが続く」
そこで料理を運ぶメイドが入ってきたので、皇帝陛下は一度言葉を止め、配膳するよう伝える。メイド達は一斉に料理をテーブルに置き、バトラーたちはグラスにワインを注ぐ。
クラウスと私のグラスには葡萄ジュースが注がれた。
「この寒さを一人で乗り越えるのは辛い。愛する者と手を取り合い、温めあうことで乗り切ることができる。……寒さが厳しい、そう感じても。決して挫けることなく、互いを信じ、乗り越えて欲しい」
……!
伝わってきた。皇帝陛下のこの言葉に込めた意味を。
この皇宮において一人で生きていくのは辛い。でもクラウスはずっと、皇妃の陰謀があり、婚約者を迎えることなく寒い冬を重ねてきた。でも今、クラウスは私という婚約者を得た。手を取り合うことで、この寒さを乗り越えて欲しい。
ただ、皇宮の寒さは相当厳しい。つまり皇妃は限りなく冷たい……そう感じても、挫けずにお互いを信じあい、乗り越えて欲しい――。
表立って、分かりやすい言葉でクラウスと私にエールを送ることはできない。それは恐ろしい皇妃がいるから。でも皇帝陛下は、クラウスと私の婚約を喜び、陰ながら応援したいと思っていると理解した。
「皇帝陛下、心のこもった温かいお言葉、ありがとうございます。確かに寒さは……厳しいかもしれません。でもそれを知った上で、私はこのアイス皇国に参りました。決してクラウス様の手を離さず、共に歩んでいきたいと思います」
私の言葉を聞いた皇帝陛下は、嬉しそうに何度も頷いている。
良かった。私の気持ちがちゃんと皇帝陛下にも伝わった。
隣に座るクラウスを見ると、その瞳は限りなく優しい眼差し。
その顔を見ると、頬が思わずほころぶ。
「皇帝陛下」
鼻にかかったような媚びた声。
皇妃の一言に、皇帝陛下が息を飲んでいる。
その様子は「何を言われるのか」と構えているように見えた。
「とても素敵なお話でしたわ。感動的でもっと聞きたくなってしまいました。でもそちらのセシル様の顔をご覧になって。もう涎が垂れてしまいそう。お可哀そうに。お腹がぺこぺこなのね。長旅でろくなものも食べられなかったのでしょう。大丈夫よ、セシル様。今、皇帝陛下が乾杯をしてくださるから。ねえ、陛下」
な……!
昼食だってたっぷり食べている。ティータイムでもしっかりケーキもいただいた。そんな涎を垂らしそうな顔って……!
要するに皇妃は、皇帝陛下が優しい言葉を私にかけるのが不快だった。さらにクラウスと私がほっこりするのを見てムカついた。加えて晩餐会をとっと終えて欲しかった。何より自分が主役ではなく、おいてきぼりなのが許せなかったのかしら?
ここで何か一言物申すこともできるが……。
いや、こんな小さなこと、スルーだわ、スルー。
ここで私が「私、そんな顔をしていません!」なんて言ったら「まあ、クラウス様の婚約者は恐ろしい方ね。わたくしは気を使っただけなのに」なんてことになりかねない。つまり、皇妃の思うツボ! 私は反応するつもりはないというアピールも込め、グラスに手を伸ばす。
つまり「どうぞ、乾杯してください」と無言で伝えた。
クラウスは私の意図をすぐ理解し、自身の手もグラスに伸ばす。
もしクラウスが、私を庇おうと何か言ったら……そう思ったが、そこはちゃんと分かってくれた。いや、当然よね。クラウスはいつも私を見て、気持ちを汲んでくれるようとするのだから。皇妃の意地悪にも気づいているし、私の思いもちゃんと分かってくれている。
さらに皇帝陛下もこちらの意図を理解し、乾杯の音頭をとってくれた。そして晩餐会がスタートする。
皇妃は早速、内輪ネタで盛り上がり始めた。
つまりは二人の皇女が飼っているウサギの話、皇太子から贈られた彼の著書の話、第三皇子が最近描いた絵の話……などだ。
二人の皇女がウサギ好きという話は、クラウスから教えてもらっていた。でもさすがにそのウサギの誕生日が昨日であり、誕生日パーティーをしたなんて……知らない!
皇太子の著書も本になって発売となったのは今朝らしく、情報として入ってきていなかった。でも私達は帰国したばかり。そこは……仕方ない。
第三皇子が絵を描くのが好きということは、これまたクラウスに聞いていた。でも皇妃のために描いた絵については……分からない。
だがこの話題は朝食か昼食でもしていたようで、クラウスと私以外の間では、会話が成立している。会話に参加できていないのは……私とクラウスだけだ。
何の絵を描いたのか、聞いてみる……?
私が口を開こうとしたその瞬間。
クラウスが私に気を使ってくれたのだろう。「私とセシル嬢は、そのウサギの誕生日パーティーには参加していないのですが、どんなパーティーでしたか?」と、二人の皇女に尋ねてくれた。
だが二人の皇女が答える前に、皇妃が返事をした。





























































