16:遂に――
その佇まいはクラウスを思わせた。
だがその男性は……。
銀色のファーのついたグレーのマントの下の白銀のテールコート。白のシャツに銀色のタイとベスト。まるで銀狼を思わせる風貌からは、鋭利な刃物のような鋭さを感じた。威圧的なオーラからは、彼が支配階級の上位者であることを知らしめている。
クラウスの高貴なオーラとは全然違う。
なんだか彼は……怖い。
!
指には皇太子を示すシグネットリングをつけている。
挨拶をしないと……!
そう思うが、なんだか圧倒され、声が出ない!
「キリル・ティモフェイ・ローゼンクランツ、我が兄であり、皇太子であるあなたにお目にかかれ、光栄です。こちらはウッド王国から迎えたわたしの婚約者であるセシル・リヴィングストン、リヴィングストン公爵家の長女。どうか、わたくし共々も彼女のこともよろしくお願いします」
クラウス!
肝心なところでちゃんとサポートしてくれる。
さすがという思いで彼のことが増々好きになってしまう。
クラウスのおかげで呪縛が解けた私は「セシルでございます。キリル殿下、よろしくお願いいたします」と頭を下げる。
私を一瞥したキリル殿下は、冷めた声で儀礼的な挨拶とお土産の御礼の言葉を口にする。それを終えると、皇太子妃と共に着席した。その態度は第三皇子と同じ。興味はない――と断言されている感じだ。
見ると全員が黙り込み、二人の皇女は下を向いていた。
キリル殿下は“氷の皇子”と呼ばれているが、まさにその通りと思えてしまう。第三皇子と違い、着席した後、皇太子妃とも話さない。無口。
でもトニーは、クラウス以外は喜怒哀楽があると言っていた。だからキリル殿下もきっと喜怒哀楽はあると思うのだけど……。今のところ、彼は“氷の皇子”だ。
とはいえ。
キリル殿下から何かされたわけではない。挨拶に対し、儀礼的に返すのはある意味どこの国でも同じ。そんなハグして熱烈大歓迎なんて最初からないのだから。
そう思い、キリル殿下から視線を逸らそうとした瞬間。
一瞬、彼と目が合った気がした。
銀色の瞳に、なんらかの彼の感情が浮かんだのように思えた。
!
クラウスが……。
テーブルの下にある私の手を、自身の手でぎゅっと握ってくれていた。
ドキドキしながらその顔を見ると「大丈夫です。何があっても必ずお守りします」と言ってくれているように感じる。
ずっと流れていた音楽がピタリと止んだ。
同時に、皆が席から立ち上がった。クラウスは私の手をエスコートするように添え、席から立つのを手伝ってくれる。
そこで部屋に入ってきた。
皇帝陛下夫妻が。
皇帝シアドア・グリゴリー・ジョージ・ローゼンクランツは――キリル殿下に似ている。
襟足の長い銀髪に、グレーがかかった銀色の瞳。年齢としては、私の父親より少し上なのだろうが、若々しく見える。多分、肌が綺麗なせいだ。それに白のファーがついたシルバーグレーのマント、白のテールコートにグレーのタイとベスト、シャツはシルバーグレー。この装いも、キリル殿下と似ており、若さを感じさせた。
キリル殿下と違うのは……。
彼こそが現皇帝であり、“氷帝”という別名を持つというのに、威圧的なオーラがない。むしろ優しい感じがする。
思わず皇帝陛下をじっと見ていると。
殺意が込められたような視線を感じ、心臓がギクッと反応していた。その視線を追いかけ、全身がまさに凍り付いた。
“氷の華”。
その命名は正しい。
ホワイトブロンドの髪は綺麗にまとめあげられ、真珠のついた黄金の髪飾りでまとめられている。眉尻は上向き、目尻もたっぷりのアイシャドウと共に上向きになっており、金色の瞳と相まって、とてもクールな印象を与える。
鼻は高く、唇はぽってりとして真紅のルージュが似合い、実に官能的。
シルバーのファーがついた黄金のドレスは、その体の凹凸をあますことなく浮き彫りにしている。これで皇子二人と皇女二人、合計四人の子供を産んだのかと驚嘆せずにはいられない。肌はまさに雪のような白さで、首や顔に皺もなかった。
とても……美しい。まさにひれ伏したくなるような美しさ。
だがその金色の瞳には、私への嫌悪感が溢れており、その視線の冷たさは、まさに氷点下。
おじいちゃん植物学者のピーター子爵の言葉を思い出す。
――「美しい氷の華に睨まれると、その体は凍り付く。一度睨まれたら最後。あとは指でツンとされた瞬間、凍った体は砕け、ジ・エンド」
そう、彼女こそが、皇妃エリザベータ。
「さて、座ろうか。今日はクラウスの婚約者を迎えての晩餐会になる。楽しく語り合おうではないか」
皇帝陛下の声はとても穏やか。そして気さくな感じは、ウッド王国の国王陛下を思い出させる。
「音楽も頼んだよ」
皇帝陛下の言葉に、厳かな雰囲気の演奏が始まる。
「もう少し軽やかな音楽でいいよ」
こう指摘された演奏家達は、明るい楽曲を奏で始めた。皇帝陛下はそれに満足したようで、侍従長に食事を運ぶように伝えると、クラウスを見る。





























































