15:曲者揃い
到着が遅ければ、皇妃は絶対に文句を言う。
それはクラウスの中で想定済みだったようで、私達は二人の皇女に続き、晩餐会のテーブルに着席していた。
しばらくは離れた席に座る二人の皇女、そしてクラウスと私だけで、後はジョセフやトニーなど護衛騎士、そしてハープ、フルート、クラリネット、チェロの楽器の演奏者がいて、今も素敵な音楽を奏でてくれている。
そこに登場したのは……。
ホワイトブロンドに紺碧の瞳の長身の男性。
長い髪は後ろで一本に結わかれ、耳には瞳と同じ色のピアスをつけている。紺色のマントにシルバーのテールコート。紺色のタイとベストで、ビシッと決まっている。
彫の深い顔立ちで、かなり大人びて見えるし、王族と分かるオーラはあるが、指に皇太子を示す指輪はない。
そう、アイス皇国の皇太子は、その身分を示すシグネットリングをつけている。王家の紋章である雪の結晶と剣がデザインされた指輪を持っていると、妃教育で習っていた。だが彼の指にそれはない。
ということはクラウスより年下の、第三皇子か第四皇子。
第四皇子は側姫の子と言われているが、どうも異国の民族の姫君が没落し、この皇宮でメイドとして働いている時に、皇帝のお手付きになったらしい。子供を産むため皇宮を去り、出産後、彼女の行方は知られていない。よって第四皇子は、容姿が他の三人の皇子と異なる。
このゴシップみたいな情報を教えてくれたのは、ナンシー男爵夫人だが、その情報は大いに役立ってくれた。謁見の間での挨拶なら、侍従がそれぞれの名前を読み上げてくれる。でも晩餐会ではそれがない。自分であてるか、クラウスに聞くしかない。
でも大丈夫。分かった。
クラウスが彼を紹介しようとするのを制し、私は先に挨拶する。
「ガヴリール・ニコライ・ローゼンクランツ第三皇子様、はじめまして。私はウッド王国から参りましたセシル・リヴィングストン、リヴィングストン公爵家の長女であり、アイス皇国第二皇子であるクラウス様の婚約者です。どうぞこれから、義理の姉、弟としてよろしくお願いします」
きちんと先にこちらから挨拶したことに、ガヴリールの形のいい眉が、くいっと上がる。だがすぐにこちらから視線を逸らし、儀礼的な挨拶――すなわちフルネームを名乗り、表面的な歓迎の言葉を述べ、贈り物の御礼を伝え、自身の婚約者である令嬢と共に、着席してしまう。
ガヴリールの別名は“氷の君”だけど……。
ピッタリだと思う。
なんて冷たい態度――。
「「ガヴリールお兄様!」」
二人の皇女が声を揃えて第三皇子の名を呼ぶと「やあ、シルビア、ヴィヴェカ。今日も二人とも、とても可愛いよ」そうガヴリールは応じ、にこやかに微笑む。「「本当ですか、お兄様~!」」とシルビアとヴィヴェカが反応し、ガヴリールの婚約者を含めた四人は和やかに会話をしている。
なるほど。
ガヴリールが“氷の君”になるのは、自分が無関心な相手、というわけね。
「セシル嬢、」
クラウスが申し訳ないという顔で私を見た。
何もクラウスは悪くない。そう伝えようと口を開きかけると――。
「やあ、みんな、こんばんは!」と明るい声と共に誰かが入ってくる。
シルバーグレーの髪に黒い瞳、整った顔立ちだが、他の皇子に比べ、鼻の高さ、肌の色が少し違う。間違いない。彼がきっと第四皇子だ。年齢も十二歳か十三歳ぐらいに見える。
確かに他の皇子と容姿は違うが、その姿は美少年と言って問題ないだろう。さらにやはり王族の一人と分かるオーラを感じる。伴っている少女も見事な宝飾品を身に着け着飾っていた。
第四皇子だと確信し、すかさず挨拶の言葉を伝えると……。
「セシルお義姉様! 綺麗な方だなぁ。髪は黄金みたいで、瞳は透き通った湖みたい。肌も触り心地がよさそう」
アイス皇国の第四皇子であるライト・チムール・ローゼンクランツが、私の手をとり、甲へとキスをした。
いきなりの手の甲へのキスにクラウスが「ライト」と抗議の声をあげている。
「やだなぁ、クラウスお兄様。嫉妬ですか? 怖いなぁ」
そう言うと別名“氷のプリンス”は可愛らしく肩をすくめた。
そんな態度をとられると、クラウスは黙り込むしかない。
この状況で何か言っても、それは大人げないことになってしまうと分かっているからだ。
「ライト第四皇子様。私はクラウス様の婚約者ですから。特別なことがない限り、体に触れられると、困ってしまいます」
私がそう言った瞬間。
二人の皇女が「何よ、お高くとまって」「手の甲のキスぐらいで」と囁いた。
すると。
「おい、メス豚、今、何て言った?」
!?
ら、ライトは今、なんと言いました!?
二人の皇女は「「ごめんなさい!」」と慌てて謝罪し、「やめるんだ、ライト」と第三皇子が押し殺した声で、ライトを牽制した時。
「騒がしいね」
決して大きな声ではないが、通りやすい声だった。
そして……声の質がなんというのか、冷たいのだ。
その声のおかげで、部屋の温度が急激に低下した気がした。
さっきまでの雰囲気は一変し、その場にいた全員が頭を下げている。クラウスもそうしているのだ。私も慌てて頭を下げる。
「……いいよ、楽にして」
そこで顔をあげ、声の主を見る。
銀髪に銀色の瞳。
高い鼻に形のいい唇。
スラリとした長身でその姿はどこなくクラウスを感じさせる。
だが……。





























































