12:配慮……。
オルガはピンと背筋を伸ばした姿勢で話を続ける。
「荷物の搬入が終わりましたら、一度お部屋へご案内します。その後、昼食をとるダイニングルームへお通ししますね。昼食をおとり頂いている間に、荷物の片づけを済ませるようにします。午後はセシルお嬢様にこの離れをご案内しましょう。ティータイムで休憩いただいた後は、晩餐会が皇宮で行われます。そのためのご準備です。晩餐会で皇帝陛下夫妻、ご兄弟とその婚約者の皆様とお会いいただく流れとなります」
ローズジャムを入れたダージリンティーを飲む私に、オルガは今日の予定を説明してくれた。その説明を聞いた私は、首を傾げることになる。通常、事前に謁見の間で挨拶を行い、その上での晩餐会ではないのか。
「あの、オルガメイド長。私がアイス皇国の習慣について間違った認識をしていたら申し訳ないのですが……。謁見の間でご挨拶をせず、いきなり晩餐会で、皇帝陛下夫妻やクラウス様のご兄弟とその婚約者に会うのでしょうか……?」
オルガはハッとした表情になったが、口を開こうとする彼女を制し、代わりにクラウスが話し始めた。
「セシル嬢。あなたの認識は間違っていません。常識的に考えれば、アイス皇国だけではなく、他の近隣の国々でも、まずは謁見の間で挨拶をして……というのが通常の流れです。ただ皇妃は……こう考えたのだと思います」
クラウスが言うに、皇妃は私達が長旅で疲れていると考えたのではないか。謁見の間に呼び立て、挨拶をさせ、さらに晩餐会ともなると、着替えも必要。それは大変だろうから、晩餐会の一回で済むように、配慮したのだと。
「セシルお嬢様、クラウス殿下の説明の通りです。皇妃様は……あくまでお二人の体調を気遣い、今回の提案をされた……ということでございます……」
いきなり先制パンチを食らったと、私は理解した。
体調を気遣う……そんな気持ち、微塵も皇妃はないと思う。
目障りな私達と二回も会うのは、面倒だと感じた。
目障りな私達のために着替えるのは、面倒だと感じた。
これが正解だろう。
そうでなければオルガが、こんな申し訳ないという表情をするわけがない。
さらに。
本来、謁見の間で挨拶をしつつ、お土産だって献上するのに。晩餐会の席でお土産を配れと? そんなこと、するわけにはいかない。そうなるとメッセージを添え、メイドを使い各自の部屋へ、お土産を届けさせることになる。つまり、謁見の間での挨拶がないことで、こちらは着替える以上の手間が増えるわけだ。
オルガが教えてくれた予定はゆったりしていると思ったが、そんなことはない。ゆったりと思えている空白の時間で、メッセージを書きまくることになる。
皇妃は……このことも織り込み済みだろう。
そう思うとムカッとくるが、ここで取り乱したら相手の思うツボ。ここはそつなくこなし晩餐会に望むまでだ。
ということでローズジャム入り紅茶を飲み終わった後、晩餐会までの時間は慌ただしく動くことになる。
まずは自分が暮らすことになる部屋の確認。
クラウスが調度品など整えてくれたその部屋は、とても素敵だった。壁は白地に淡い紫のダマスク柄で、絨毯とカーテンは淡い紫。ソファのファブリックは落ち着いた紫色。ローテーブルやキャビネット、本棚などはすべてマホガニー材で出来ており、それはウッド王国から輸入した木材で出来ていると、オルガは教えてくれた。
寝室は、絨毯とカーテンは落ち着きのある濃い紫で、壁は木目を生かし、彫刻が施されている。調度品はマホガニー材で統一されており、ベッドの天蓋は落ち着いた赤紫色で、シルクのレースの刺繍がとても美しい。リネン類はスモークピンクでまとめられていた。
バスルームは、床も壁もバスタブも清潔感のある白。装飾は黄金が使われており、それは間違いなく純金。だって錆や痛みが全然ないのだから。バスタオル類も真っ白だが、照明が淡い明かりなので、目がチカチカすることはなさそうだ。
収納は、四畳はありそうなウォークインクローゼットが用意されている。一緒にアイス皇国までついてきてくれたマリとエラ他オルガの指示で動くメイド達が、服をはじめとした荷物の片づけを始めてくれていた。
部屋の確認が終わると、そのままオルガの案内でダイニングルームへ行き、そこでクラウスと共に昼食をとることになる。
初めて食べるアイス皇国での食事。
私が期待していると予測したのだろうか? クラウスはこの国の名物料理を用意してくれていた。牛肉と沢山の野菜で煮込まれた鮮やかなワイン色が特徴のスープ。ジャガイモをメインにしたニンジン、エンドウ豆、豚肉を使ったサラダ。スパイシーな香辛料に漬け込んだ牛肉、豚肉、羊肉の串焼きをじっくり焼き上げた肉料理などだ。
あのコールドフィッシュも、本場の味で楽しむことができた。















