7:甘々な時間
ジョセフとトニーがいるので、抱きしめることはしない。
でも一気に距離が縮まり、私はドキッとして、胸が高鳴る。
「そんなにもわたしのことを……。大丈夫です。寂しい思いなんてさせませんから。姿絵などなくても問題ないとセシル嬢が思えるよう、努力します」
クラウスは全身全霊の自分の想いを、私の手の甲へのキスで示してくれた。
あ、また私の手に……。
いつもあのクラウスの形のいい唇のキスを受けるのは、私の「手」。
アイス皇国は、ウッド王国より未婚の男女の身体的接触を制限していると、妃教育の一環で習っていた。挨拶は基本、握手。例外は、舞踏会や特別の感謝を示す時の手の甲へのキス。チークキスもハグも禁止。
ちなみに未婚の男女が手をつないでいいのは10歳まで。抱きしめ合うのもダメらしい。とはいえ、さすがにこれは人前では皆さん守っていても、そうではない時は……とのこと。実際、舞踏会などでは柱や扉の陰で、隠れてイチャイチャする男女はいるが、皆見て見ぬふりをしていると……これまた妃教育で教えてもらった。
でもクラウスは皇族の一人であり、性格も真面目なので、きっとダメと言われていることはやらないと思うのだ。
今はまだウッド王国にいるので、クラウスも想いが高まった時に、私を抱きしめてくれることもあった。それでも帰国が迫っていることもあり、かなり自制していると思う。
そうなると……。
クラウドからの愛情を一身に受けることになるのは、私の「手」なのだ。
うーん。以前も思ったけど、自分の一部なのよ。嫉妬なんておかしい。ばかばかしいこと。
そう思いながらも自分の手を睨んでしまう。
「セシル嬢、手に問題が!?」
「!? い、いえ、問題など」
そこで咳払いをして、気持ちを落ち着かせる。
「……努力いただけるということ、ありがとうございます。ただ、寂しいなど甘えたことを言っているのは私ですので、お気になさらないでください」
「いえ、甘えたい時は甘えてください」
即答の返しはあまりにも甘い言葉で、私は腰が抜けそうになる。
「!? 今度は何が問題ですか!?」
クラウスが私を慌てて支え、その瞬間、彼のマグノリアの高貴な香りを感じてしまい、ますます体に力が入らない。
絶対に後ろでジョセフとトニーが呆れてこちらを見ていると思うのですが……。なかなか全身に力が入らず、本当に困ってしまった。
すると。
クラウスは私をフワリと抱き上げ、ゆっくりと歩き出す。
「ク、クラウス様!?」
「早起きをして疲れてしまったのでしょう。大丈夫。川はもうすぐそこですから」
「でも……私はどこも……」
クスリとそれはもう優美に微笑むと、いつか聞いたことのあるあの言葉を告げる。
「わたしからセシル嬢を抱き上げる口実を奪わないでください」
これを言われてしまうと……。何よりこうやって抱き上げられるのは……嫌なわけがない。だって大好きなクラウスに思いっきり触れることができるし、彼のあのエレガントなマグノリアの香りを思う存分堪能できるのだから。
「さあ、到着しましたよ」
ゆっくりクラウスから降ろされた瞬間。
本当はダメだと分かっているけれど、離れがたくなり、ついその上衣をぎゅっと握りしめてしまう。
すぐに私の行動に気づいたクラウスは、浅紫色の瞳を一瞬煌めかせ、マントの中に私を隠すようにして、そのまま自身の胸の中へと抱き寄せる。
もう全身があの優雅な香りに包まれ、さらにクラウスの鼓動が頬を通じて感じられた。
私の心音と同じぐらい、いやそれ以上にクラウスもドキドキしているのだと伝わってくる。さらに彼の腕の中はポカポカと暖かい。
どれぐらいそうしていたのだろう。
クラウスは「セシル嬢、そろそろ座りませんか」なんて言わない。さっき、「寂しい思いなんてさせない」と言っていた。それに「甘えたい時は甘えてください」とも言っている。そしてこれは間違いなく甘えている状態。
想像するに。
私から「クラウス様。座りませんか」と聞かない限り。
クラウスはこうやって私が胸に身を寄せていることを容認してくれるのではないのかしら?
ここはアイス皇国ではない。ウッド王国。
男女が抱き合うことを禁止していない。
ずっと、ずっとこのままが良かった。
完全に離れがたい状態になっていると、遠慮がちなジョセフの声が聞こえてくる。
「クラウス様、セシル様、もし川をご覧になるならご覧いただき、もしご覧にならないなら……あと10分後に声をかけます。集合時間に間に合うように」
律儀なジョセフに思わず笑ってしまう。
「セシル嬢、川はご覧になりますか?」
ようやくクラウスが口を開いた。その声はいつもの涼やかな声ではなく、甘みのある優しい声に感じる。
「いえ、このままで」と言いかけたが、せっかくここまで来たのだ。川を見ようと提案し、そして遂にクラウスの胸の中を離れ……。
振り返って川を見てビックリしてしまう。
なんて澄んで美しい川なの! 浅い川だからか、川床がはっきり見えている。太陽の光を受けた水面は、キラキラ輝いていた。川に近寄り、しゃがんでその水に触れると……。
冷たすぎず、ちょうどいい感じ。
「ウッド王国は本当に自然が美しいですね」
クラウスが吹き抜ける風にアイスシルバーの髪を揺らし、しみじみと呟いた。





























































