6:推し活は……
もう推し活は卒業する……つもりでいた。
クラウスと一緒に暮らすにあたり、エドワード様の推し活グッズはすべて断腸の想いで処分している。さすがに姿絵は、火にくべるとエドワード様自身に悪いことが起きそうだった。ゆえにカールに預かってもらっている。
エドワード様が許可すれば、カールが描いた彼の姿絵は、販売も可能だ。何せ宮廷画家の作品、しかも描かれているのは王太子。普通に売れる。一番いいのはエドワード様が買い取り、王宮内のどこかに飾ってくれることだった。
それについてカールは「うーん。あの姿絵は、どこかにセシルの雰囲気が感じられる。王太子殿下に見せたら『私の姿絵を描きながら、セシル嬢のことを考えていたのか?』って言われそうだよ」と言っていた。でもそう思われても仕方ない。なにせその姿絵のモデルは、エドワード様をイメージした服を着た私だったのだから。
このまま行くとエドワード様の姿絵の上に、別の絵が描かれる可能性が大だった。まあ、焼いたり破いたりで処分できないなら、そうするしかないわよね。カールの絵がもし未来まで残り、鑑定されたら……物議をかもしそうだけど。
ともかくそんなことまでしながら推し活グッズを処分し、推し活そのものからの卒業を考えたものの。
グッズは処分できた。既にエドワード様を前世のような推し目線で見ることはなくなった。でも。推し活精神……のようなものが私の中には残っている。どうしても素敵な異性がいれば、形にしたくなってしまう。
形にする……つまりはグッズ化し、それを愛でたい……。
カールが言う通り、私はクラウスと一つ屋根の下に暮らしている。毎日顔だって合わせ、会話だってしているのだ。でも……足りない!
まず、一つ屋根の下で暮らそうと、そして婚約者であろうと、当然ですが、寝室は別々。毎晩、寝る直前ギリギリまでクラウスと過ごすわけではない。さらにすぐ寝付けることがあれば、寝付けないこともある。そして寝付けないとなった時。普通なら読書をする。でも前世の感覚があるので、「スマホ……」と思ってしまうのだ。
当然スマホなんてない。そしてリヴィングストン公爵家の屋敷にいた時、同じように寝付けない時は……一人推し活をしていたのだ。
一人推し活は地味だが、自己満足感と達成感は半端ない。心身ともに満たされ、一人推し活の後は、熟睡できた。だが既にエドワード様のグッズはない。代わりになるものが欲しいと思った。
その結果が……クラウスの姿絵。
一つしかないその姿絵を、寝付けない夜、この一年近く、拝み、抱きしめ、話しかけ、アクリルスタンドのように飾っていた。唯一のクラウスの姿絵だし、それは十分に素敵なもの。でももう一枚、バリエーションが欲しかった。それは彼の雅な眼差しの表情!
流し目とはも違う、少し伏し目がちな瞳。
その瞳の上で揺れるサラサラの前髪。
この瞬間は信じられない程、絵になるのだ。
背景に花びらを散らし、風をふかせ、光のエフェクトをかけて……。
あの雅な瞬間の姿絵があれば、私の一人推し活はさらに充実したものになっただろう。
というか、アイス皇国にいったら、もうクラウスの姿絵は手に入らないかもしれないのに。例えカールにドン引きされても、もう一枚作ればよかったな。
「セシル嬢」
不意にクラウスが立ち止まった。
もう、川は目前だった。
せせらぎの音が聞こえ、鳥や虫の鳴く声もよく聞こえている。
「どうしたのですか? 森のことを思い出し、とても嬉しそうな顔をしていたと思ったのに。今はとても悲しそうな顔をしていますよ?」
クラウスの手がそっと伸び、私の顔に触れた。
ひゃぁぁぁ!
顔に触れられると、ドキドキしてしまう。
しかも。
実に上品で、でも心配そうな瞳が私に向けられているのだ。
憂いを帯びた浅紫色の瞳を見ていると、その高貴なオーラとあいまって、失神しそうになってしまう。
「あなたの悲しみは、わたしで取り除けることではないですか?」
「!?」
私が悲しい顔をした理由。それはクラウスのあの雅な表情の姿絵が手に入らない現実に、打ちのめされたからだ。
もしクラウスが私の望むタイミングであの表情を見せてくれれば、即解決だがそんなこと言えるわけがない!
かといって、このまま何も言わなければ、ただただ心配させることになってしまう。
「そ、その……クラウス様のことが好き過ぎて、会えない時間でもクラウス様のことを思い出せるよう、姿絵が欲しいと思ったのです。でも間もなくアイス皇国へ向かうので、幼馴染みの宮廷画家に頼むこともできないと……少し、悲しい気持ちに」
私の言葉にハッとした表情になったクラウスは、優美な動作なのに、力のこもった腕で私を抱き寄せた。





























































