5:あの時の告白を思い出す
気球は紅葉する山の手前に広がる草原に着地した。
あらかじめ、この辺りに着地すると、気球に乗っていない騎士達には伝えてある。よって彼らは全力でここに向かっているはずだった。それでも風に乗り、移動した気球と馬車では速度が違う。彼らが到着するのを待つ間は……。
朝食となる。
もう一つの赤い気球には、護衛の騎士の他、調理人とメイドが各二人ずつ乗っていた。さらに朝食で使う食材を、黄色の気球にのせていたので、早速準備開始となる。
護衛の騎士は気球の片付けと、朝食の準備の手伝いとなる。その間、私達はこの場を少し離れ、紅葉と自然を楽しむ。
草原からつながる森の入口のあたりをウロウロしただけだったが、紅葉はもちろん、マルメロの木を発見し、その実を収穫することができた。持ってきた籠にいれ、持ち帰ることにする。これをジャム、コンポート、ジュースなどに加工として楽しむというわけだ。
「皆様、朝食の用意が間もなくできます。戻りましょう!」
トニーの声に私達は、気球着地地点へと戻っていく。
戻るとちゃんとテーブルと椅子が用意されており、そこには既に美しい銀食器が並べられ、果物や花まで飾られていた。
クラウスに案内され、席に着く。
全員が着席し、朝食がスタートする。
野外での食事とはいえ、ピクニックは貴族の間で大流行していた。例え外の食事であっても気は抜かない。あらかじめスープなど作り置きしたものを持参し、温めて出してくれるのだ。
肉料理は鴨肉のコンフィなど冷めても楽しめる料理が出される。魚料理は煮込んだものをよく温めだしてくれた。デザートのクレープは熱々にジャムを添えて出してくれる。
鳥の鳴き声が聞こえ、ヒンヤリした秋の風を感じ、足元には草原の草が生えているのに。
バターの香りが漂い、上質な茶葉の紅茶が提供されている。しかも有名陶磁器メーカーのティーカップとソーサーで。
そうなるともう、ここがどこなのか分からなくなってしまいそうだ。
そんな朝食が終わったが、まだ迎えの馬車は到着していない。そこで一時間の自由行動となった。
エドワード様は、おじいちゃん植物学者のピーター子爵、ナンシー男爵夫人、近衛騎士隊長のセオと何名かの近衛騎士を連れ、森の中へ向かうという。先程、カリンを発見した場所とはまた別の方向に向かうらしい。まさに探検を楽しむようだ。
一方の私は、クラウス、ジョセフ、トニーと共に、エドワード様とは真逆になる方向、地図によると川がある方角へ向かうことにした。
クラウスにエスコートされ、このメンバーで歩いていると……。
いとこの伯爵家から近い森と河に、クラウスと向かったことを思い出してしまう。
森には思いがけずパン屋を焼く木こりがいて、焼き立てのパンを手に入れることができた。そして四人で昼食を楽しみ、その後、クラウスは私に指輪をプレゼントしてくれて――。
あの時の告白は……。
契約婚をしたいと言われているとか、いろいろと勘違いしてしまい、クラウスを慌てさせることになった。私のことを本当に好きだと言っていると理解した後はパニックになり、クラウスと深呼吸をしていた。
今、思い出すと、シュールだわ。
「セシル嬢、もしかして森に出掛けた日を思い出していますか?」
いつも通り洗練されたエスコートしながら、クラウスが私をチラリと見る。サラサラのアイスシルバーの揺れる前髪の下からのぞくその眼差しは、実に雅。私は「はい」と返事をしながら、少し後悔する。やはりカールにもう一枚だけ、クラウスの姿絵を描いてもらえばよかったわ、と。
そう。
婚約してしばらくした後。
妃教育がお休みとなる日曜日を使い、宮廷画家である幼馴染みのカールに頼み、クラウスと私の絵を描いてもらっていた。私が椅子に座り、クラウスはその場に立っているという婚約を記念した1枚だ。後日、模写したものを実家であるリヴィングストン公爵家に届ける約束になっていた。
さらに。
こっそりカールに頼み、私はクラウス単独の姿絵をお願いしていた。もう椅子に座る私がごっそりいないバージョンでいいからと拝み倒し、描いてもらったのだ。その時のカールは……。
「え、セシル、本気でそれ、僕に頼んでいる?? 婚約、したよね? 一つ屋根の下に暮らしているんだよね? いくら妃教育が忙しい、国からの課題が忙しいと言っても、朝食と夕食は一緒に食べるのだろう? 毎日顔を合わせるのだろう? それなのに……一緒に暮らしている婚約者の姿絵が必要なの?」
エメラルドグリーンの瞳を大きく見開き、驚愕の表情でカールは私に尋ねたが……。





























































