1:生存本能?愛の力?
「セシル嬢」
「はい、クラウス様」
「この一年、よく頑張りましたね。三年はかかると言われた妃教育を、まさか一年で終えるなんて」
クラウスの言うことは事実だ。
妃教育は……そう、とても大変なもの。
しかも私は前世同様、勉強なんて得意どころか大嫌い!
それがまさかの一年で教師たちに「もうセシル様に教えることはありません」と言わしめることになったのは……。
すべてはクラウスのため! 皇妃になんか負けない!
つまりは……愛の力のおかげ。
なーんていうと胡散臭くなりそうだが、妃教育は別に試験はないのだ。赤点と採ったから落第なんてこともない。ゆえにひたすらに干からびたスポンジが水をぐんぐん吸収するように、教師たちが授ける知識を頭にいれ、無理難題に対応していたら……。
一年が経ち、そして十名の教師から「もうセシル様に教えることはありません」と言われたのだ。
教師たちは、教えることはすべてアウトプットした。そして私はすべてインプットしたつもりでいるが……。果たして本当にそれが自分の血となり肉となっているのか。完全武装できているのか。それは……分からない。もし今、ペーパーテストが用意され、回答を書けと言われたら……白紙になる可能性もゼロではない。
ただ、この一年間の私は、神がかっていた気がする。
アイス皇国の歴代皇帝の名前と姿絵が、夢に出てきたこともあった。クラウスがプレゼントしてくれたアイス皇国から取り寄せた素敵な刺繍入りの鞄を見た瞬間。そこに刺繍されているアイス皇国固有種の花の名前を、すべて列挙することもできた。皇妃の無理難題に応えられるよう、ありとあらゆる物を収集し、アイス皇国に持ち込む準備もしている。それをリスト化している時の私は、数百通りのシミュレーションを脳内で瞬時にしていた。
間違いない。
転生した私の脳細胞は、前世より活性化されているようだ。もしくは本当に愛の力。むしろ皇妃の脅威に対する生存本能がそうさせたのか。
ともかく今日、この日、私は妃教育を終えた。
「セシル嬢の妃教育が順調と聞き、ここ三ヶ月間は、ラストスパートをわたしもかけることになりました。正直、わたしは……自分がここまでできると思っていませんでした。これもセシル嬢のおかげですね」
クラウスはそう言うと私の手を取り、左手の甲に実に優美に口づけをしてくれる。
白シャツに黒のベスト、濃い紫のタイに自身の瞳と同じ浅紫色のツイードの上衣のクラウスは、秋の深まる今の季節にとてもピッタリな装い。一方の私は、彼の瞳を意識したウールの浅紫色のドレスにいつも通り、あの紫のマーブル模様の宝石をペンダントとしてつけ、左指には婚約指輪が輝いている。
ちなみにこの宝石、クラウスの進言により、アイス皇国で宝石として認定するための準備が進められている。現地へ調査が入り、学者により評価が行われ、今はグレーティング行われているという。
つまりはランク付けがされている最中。このグレーティングが終わり、学者の評価、現地調査の結果がアイス皇国の宝石研究機関に提出され、宝石として認定するかどうかが判断される。
その件はさておき。クラウスは自身の偉業を私のおかげと言ってくれたが……。
「いえ、クラウス様。私は何もしていません。三ヶ月の間に、ウッド王国の鉱物図鑑を描き書きあげ、国王陛下から特別に許可を得て幻と言われるアドウッドゴシキドリを発見し捕獲、10年ぶりとなる新種の蘭を見つけたのは、クラウス様です。……偉業だと、国王陛下も喜ばれていました」
そう、そうなのだ!
クラウスは……私の最愛は天才かと思った。
アドウッドゴシキドリは、ウッド王国の国鳥であり、王旗にも描かれているが、その存在は長らく確認されていなかった。ゆえに空想の鳥と考えられていたが……。クラウスが植物採取に行った森で発見したのだ!
「でも本当に、あれは偶然だったのですよ。トニーが山葡萄を食べたがり、ジョセフがそれを手に入れようとしていました。その様子を見ていたら、見たことがある鳥がいたのです。見慣れた鳥だと見過ごしそうでした。でも見慣れた姿は、タペストリーや絵で見たもの。実物を見るのは初めてだと気づきました。そこでようやくそれが、ウッド王国の国鳥であるアドウッドゴシキドリだと気づけたのです」
そこで見逃さなかったところが、クラウスだと思う。
何かを持っているのだ、クラウスは。
間違いなく。
しかもその時、アドウッドゴシキドリの巣を発見できた。すぐに国王陛下に報告し、許可が下り、捕獲となった。現在、アドウッドゴシキドリは、王宮に設けられた巨大なドーム型の鳥園で保護され、飼育されている。巣には卵が六つあり、雛も孵ったという。
さらにその時採取した植物に、新種となる蘭まであったのだから……。
本当に、すごい!
「これから準備すれば、二週間後にはアイス皇国へ旅立つ準備も整うでしょう。ただ、アイス皇国はウッド王国に比べ、冬の到来が早い。既にアイス皇国は冬に突入しています。でもウッド王国は、今まさに、実りの秋で、美しい紅葉を楽しめますよね。アイス皇国は針葉樹林が多いので、紅葉は楽しめません。せっかくですからウッド王国で秋を満喫し、その後にアイス皇国へ向かいませんか?」
クラウスが素敵な提案をしてくれた。
既に妃教育は終わっている。クラウスは優秀だから勿論、既に課題を終え、かつ国王陛下を喜ばす大発見を、二つもしていた。
つまり秋を満喫する時間は……ちゃんとある!
こうしてクラウスと私は、アイス皇国へ旅立つ前に、ウッド王国の秋を満喫することにした。
【お知らせ】
~今日の晩御飯までに完結!~
『悪役令嬢を超える悪女の復讐劇
~悪役令嬢のメイドに転生~ 』
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・あらすじ・
突然訪れた覚醒――前世の記憶を取り戻すと
自分が乙女ゲームの悪役令嬢のメイドであることに気づく。
モブに転生したかと思いきや
とんでもない裏設定が発覚する。
実はこのメイド、悪役令嬢を超える悪女であり
復讐に燃えていたのだ……!
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