プロローグ~妃教育、始まります!~
クラウスと婚約し、リヴィングストン家の屋敷から馬車で30分程の屋敷で一緒に暮らし始めた。引っ越した直後は……いろいろ大変! 家具の搬入とかそういったことは、優秀な使用人が対応してくれる。だから問題ない。
大変なこと、それは……。
アイス皇国からやってくる妃教育の教師たち!
クラウス曰く、その道の権威であるのだが……。皆様、私より当然、年上。いろいろ経験も豊富であり、そして――。
みんなタイプが異なる!!
自由人もいるが、保守的なタイプもいた。自由人は引っ越してくるなり、ウッド王国のあちこちに行きたがる。保守的なタイプは早速、アイス皇国と変わらぬ生活を求め、あれやこれやを要求するのだ。
実際の手配は使用人のみんなが頑張ってくれる。でも話を聞くのはクラウスと私。そして彼らは年齢を重ねている分、世渡り術に長けていた。
保守的なタイプは、自身の要求をクラウスには言わない。なぜなら保守的な彼らにとって、伝統の象徴である皇族は尊び、敬う対象。よって私に対し「アイス皇国のあの懐かしい味を楽しみたい」と言い、マリが以前話してくれた、凍らせた魚を薄くスライスし、塩・胡椒でいただくコールドフィッシュなる料理を要求する。
コールドフィッシュは、ウッド王国で普通に食べられる料理では勿論ない!
永久凍土が広がるアイス皇国ならではの料理なのだから。だがなぜか保守的なタイプの教師たちは、コールドフィッシュを食べたいと口を揃える。
もうそうなると知恵比べだ。
秋の入口に差し掛かっているとはいえ、残暑は厳しい。あと数カ月すればアイス皇国からコールドフィッシュを取り寄せることもできるが、今は無理だ。でも彼らに「待つ」という概念はない。
そうなるとアイス皇国から招いた料理人に相談し、苦肉の策で新たな料理を生み出すことになる。
それは……。
細かくクラッシュした氷に塩と胡椒をまぶし、スライスした新鮮な魚と一緒に、オリーブオイルとハーブで混ぜ合わせる。シャリシャリとはいかないが、クラッシュした氷が口の中で、独特の食感を生み出す。
コールドフィッシュの味はシンプル。あとは食感と温度。それに近いものを再現でき、お酒との相性がよければ……。
ただ、彼らは保守派。これを受け入れるか悩んだが――。
喜ばれた。
まずこの無理難題に対し、ウッド王国で用意できるもので代用料理を作った点を褒められた。多くが「あと数カ月待てば、コールドフィッシュを取り寄せることができる。そこまで待って欲しい」と私が言うと思ったらしい。何せその方法が一番簡単で間違いがない。
その日が来るまで、私がのらりくらり受け流すと思っていたというのだ。
さらにお酒との相性が、コールドフィッシュ以上に良いところは絶賛されたのだ。結局、酒の肴になれば、なんでも良かったのでは……?というのは後になって気づいたこと。ともかくこういった保守派タイプの無理難題に応える日々が続く。
一方の自由人な教師たちは、自身の奔放な願いを私ではなく、クラウスに話す。クラウスは皇妃から嫌われ、宮殿にいるより領地視察で国内のあちこちを旅していた。その結果、好奇心が旺盛。ゆえに自由人な教師たちから話を振られると――。
「セシル嬢。ウッド王国にはドラゴンの樹というものがあると、アイス皇国から招いた植物学者が言っていました。わたしも初めて聞いたのですが、見に行きませんか?」
クラウスが浅紫色の瞳をキラキラ輝かせ、私に尋ねる。
彼は完全に好奇心を刺激され、無垢な気持ちで私に聞いていた。
この時の私は、コールドフィッシュ問題で頭を抱えている最中。
でも愛するクラウスが、ドラゴンの樹を見たいと言っている……。
でもドラゴンの樹はウッド王国においても珍しい木。そこら辺に生えているわけではない。ということを、植物学者はクラウスに話していない! 私が知る限り、王都から馬車で三日かかる森で見ることができるというが……。移動の往復時間を考えると、一週間近く、コールドフィッシュ問題を放置し、クラウスとその植物学者を連れ、旅行するのは……。
それに!
教師たちは言いたい放題だが、妃教育は既に始まっている。クラウスも自身のすべき母国からの課題に取り組んでいるが、それはスケジュールが組みやすい。例えば天気が悪くて外出できなければ、課題である本の執筆を屋敷の中で行うなど、自分の裁量で調整可能。でも私の場合は違う。
もうまるで義務教育の学生。時間割がきっちり組まれ、それに沿い学び、隙間時間で教師たちの要求に答えているのだ。
ドラゴンの樹……。
どうする、私……。
教師の要求に答えるのは勿論、クラウスの見たい気持ちにも答えてあげたくなってしまう。無論、ドラゴンの樹が王都から遠い場所でしか見られないと知れば、クラウスは絶対「無理するのは止めましょう。植物学者にはわたしから話しておきます」と言ってくれるだろう。
でもそれは……最後の最後で万策尽きた時だ。
まずは自分で打開策を模索しよう。
そこで私は妃教育の合間、つまりは休憩時間で紅茶を飲みながら「ドラゴンの樹、ドラゴンの樹」と呪文のように呟くことになった。
お読みいただき、ありがとうございます!
読者様の続編希望の声に応え、皇妃対決編、始まりました!
平川禅先生の描き下ろしフルカラー表紙絵も登場☆彡
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