エピローグ
私が妃教育をウッド王国で受けると決めると。
クラウスは迅速に動いてくれた。
小ぶりだが二人で暮らすには十分な屋敷を、リヴィングストン家の屋敷から馬車で30分程の場所で見つけてくれた。
この屋敷に、私とクラウス、ジョセフやトニー達護衛騎士、加えてアイス皇国からやってくる妃教育の教師たちも、住まうことになる。使用人の手配は、なんとエドワード様も協力してくれて、リヴィングストン家からも何人か来てもらうことになった。
さらにウッド王国から、屋敷の警備の騎士も、配備してくれることになっている。加えてこの屋敷に、アイス皇国第二皇子が婚約者と共にしばらく住まうことも、発表される予定だ。
「セシル嬢。妃教育に従事する教師と共に、郷土料理を得意とする料理人も手配することにしました。これでセシル嬢も本場のアイス皇国の料理を楽しめます。他にもアイス皇国の伝統衣装なども取り寄せましたから、ウッド王国にいても、ちゃんとわたしの国を感じられると思いますよ」
これから二人で暮らすことになる屋敷の見学を終えた馬車の中。
白シャツに自身の瞳と同じ、浅紫色のベストとズボンという軽装のクラウスは、とっても素敵な話をしてくれた。
アイス皇国の本場の料理を食べられると知ったら、マリは大喜びしそうだ。それに伝統衣装ってどんな感じなのかしら? 着るのがとても楽しみになる。
至れり尽くせりのクラウスには、本当に感謝だ。
一方で。
アイス皇国にいれば、公務をこなしているはずのクラウスが、妃教育を受ける私に付き添い、ウッド王国に長期間いて大丈夫なのかしら?
心配になった私は、ライラック色のドレスの上で組んだ手から視線をクラウスに向け、尋ねてみることにした。
「私が妃教育に追われている間、クラウス様はウッド王国にいても、大丈夫なのですか?」
「ええ、ひとまずウッド王国に関する本を滞在中に三冊書き上げるように言われています。そしてウッド王国の景色を描いた絵画を5点、ウッド王国固有種の植物のサンプル収集、それに……」
クラウスは、どうってことないという感じでウッド王国滞在中にするべきことを滔々と語っている。
「……あとは護衛騎士達と共に、毎日体を鍛えろと言われていますね」
どうやら妃教育に負けない……いやそれ以上のことをこなすよう、求められていると分かった。
「なんだか普通に公務をこなすより、忙しそうですね。私のためにウッド王国に滞在することで、クラウス様が忙しくなってしまった気がします……」
「そんなことはないですよ。セシル嬢といられるなら、どんなことでもする覚悟です。それに例えば植物の収集を終え、屋敷に戻った時。窓から妃教育に励むセシル嬢の姿を見ることが出来る。ただそれだけで、一日の労が報われると思います」
なんて私の心をときめかすような言葉を、サラリとクラウスは言えるのかしら? でもこれは私を喜ばせようとして言った言葉ではない。これが彼の本心。
そう思うと……ますますクラウスのことが好きになってしまう。
「クラウス様。それでしたら私も同じです。私は決して勉強ができる人間ではないので、必死に妃教育に取り組むことになると思います。それでもふと窓の外を見て、そこにクラウス様のお姿を見つけることができれば……。間違いありません。私こそ、がんばらなきゃ!と思えるでしょう」
「では問題ないですね。二人が共に頑張れるのですから」
そう言うとクラウスは、いつも通り、洗練された優雅な笑みを私に向けてくれる。
ああ、眼福。
この笑顔を見られるなら。
間違いなく私は頑張れる……!
乙女ゲーム『エタニティ・プリセンス』の推し活の最中に、不注意で事故死してしまったが。奇跡的にそのゲームの世界へ転生できた。
ただ、転生したはいいが、私は断罪が待つ悪役令嬢セシル・リヴィングストンとして生を受けてしまった。覚醒した10歳から断罪回避に悩み、そして……まさかの断罪回避成功。
これにはもう、驚き、大万歳だった。
あとはヒロインが私の元婚約者と結ばれ、全てうまくいくと思ったら……。
お金目当てで婚約破棄の撤回を求められた上に、正妻だの愛人だのとんでもないプランを提案された。
でも元婚約者による災厄は、推しだったエドワード様と国王陛下、そしてクラウスの尽力により、去ってくれた。ところが今度はまさかのヒロインの暴走……。
これには本当に驚いた反面、自分があんな反撃ができるとは思わなかった。
でも。
この負傷のおかげで、クラウスからは会う度に、お姫様抱っこをしてもらえた。さらには料理も食べさせてくれて……。
私の口元に料理を運ぶ度に「お口にあいますか、セシル嬢?」と微笑み、「熱くはなかったですか? 次は少し冷ましましょうか」と、ふーふーとしてから食べさせてくれたり……。もう完全に餌付けされ、甘やかされている状態。でも文句などなく、幸せを噛みしめている。
私は悪役令嬢として、禁じ手を行使したが、その結果、幸運なことにも幸せを手に入れることができた。もちろん簡単に、その幸せが手に入ったわけではない。それに……どう考えても嫁ぐ先の国では、恐ろしい皇妃が待っている。
でも私のそばには愛するクラウスがいてくれる。
彼はいつだって私の味方で、私も彼の味方だ。
これからは二人で手を取り合い、そう、絶対に幸せになってみせます!
♡*~The story of two of us just started now!~*♡
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