47:大いに迷う
国王陛下との謁見……という名の元の夕食会には、妃殿下、エドワード様も参加し、我が家からは両親と私、そしてクラウスの総勢七名で、とても楽しく歓談することになった。
私とクラウスの婚約を、国王陛下は勿論、エドワード様も喜んでくれている。
その歓談の最中に偶然だが、アイス皇国の皇帝からの手紙が、国王陛下とクラウス宛に届き、その中で書かれていたことは……。
そう、クラウスと私の婚約を認めるというメッセージだ。
クラウスと国王陛下が早馬で手紙を送ったが、それには時間差があった。それでも同時に返事が来たということは……。きっとクラウスの手紙を読み、私を婚約者として迎えることに、皇妃が反応したのだと思う。でもそこへ少し遅れる形で国王陛下からの手紙が届いた。
既にウッド王国側で歓迎ムードであり、かつ89歳の未亡人の女王の国は小国。ここで女王を持ち出し、どうこうすることもできないと皇妃は悟り、渋々クラウスと私の婚約を認めたのだろう。皇帝は間違いない。認めてくれていたと思う。
いろいろな思惑の結果、婚約をアイス皇国側でも認められたわけだが。国王陛下はそんな思惑など関係ない。手放しで皇帝が認めたことを喜び、さらにお酒が追加され、両親もこれまで見たことがないぐらいお酒を飲んでいた。
こうして両国からも認められ、正式に私はクラウスの婚約者になることができたわけだ。
できたわけだけど。
皇太子妃になるわけではない。
それでも皇族の一人になるわけで。
そう、皇族の一員になるべく、いろいろと学ぶ必要があったのだ。
ただ、幸いだったこともある。
それは――。
「妃教育はアイス皇国で受けてもいいですし、ウッド王国で受けてもいいと、父君……皇帝から言われています。そこはセシル嬢の希望にあわせますよ。それに私は妃教育に取り組むあなたのことを、全力でサポートしますから」
クラウスからそう言ってもらえたことだ。
妃教育をウッド王国で受けるなら、アイス皇国から教師となる有識者を招き、そして二人で滞在するための屋敷を新たに手に入れることも、提案してくれている。
これには大いに迷うことになった。
妃教育では、アイス皇国の歴史や文化や儀式について学ぶと思うから、現地に行って学習できる方が、きっと効率的な気がしていた。
その一方で。
アイス皇国に行けば、これまでクラウスに散々嫌がらせをしてきた皇妃と対峙することになる。それは……もう避けようがないことなので、向き合う覚悟ができていた。でも丸腰で挑むのは危険。アイス皇国についてきちんと知ってから、つまりは妃教育を受けてからであれば、なんとか太刀打ちできる気がしていた。
今、私には選択肢がある。
妃教育をより深く学ぶため、アイス皇国へ向かう。
妃教育をウッド王国でみっちり受け、アイス皇国へ向かう。
どちらにするか悩み、両親に打ち明けると……。
「セシル。お前はこの父さんと母さんの子供であることに変わりはない。でもな、これからお前はクラウス第二皇子と共に生きて行くのだ。父さんや母さんに相談するのも、勿論構わない。でも一番最初に相談する相手、それは父さんと母さんではないのでは?」
私に甘かった父親は。
いつも「何かあったら何でもこの父さんに相談していいのだよ、セシル」と甘やかして育ててくれた。でも父親は今、娘から卒業しようとしている……!
それは何とも言えない寂しさを胸にもたらす。嫁ぐ娘ってみんな、こんな気持ちなのかしら。……って、私には妃教育が待っていて、しかも婚約したばかりで、結婚式の予定はまだまだ立っていない。
それでも父親も母親も、既に娘を嫁に出すモード全開。この感じだと、私、すぐにでもアイス皇国に行った方がいいのかしら?と思ってしまうが。
確かにこれはクラウスに相談してみよう。そうしよう!ということで、今日も私に会いに来てくれた彼に、相談してみた。
「そうですね……。わたしとしては、セシル嬢が家族や友人から離れるのが寂しいのではと、まず考えてしまいます。ウッド王国で妃教育を受けていい……というのは間違いなく、皇妃が父君に……皇帝に頼んだ結果でしょう。とはいえ、そのことで、あなたが家族や友人といられる時間が増えるなら。それはそれでいいことだと思えますけどね」
うう、クラウスはとても優しい!
「妃教育で学ぶ内容をより深く理解する……。それは確かにアイス皇国にいることで、自然と文化や歴史を感じることはできると思いますが……」
そこでクラウスはとても申し訳ない顔になる。
「妃教育というのはかなり大変なようです。わたしは皇子教育を子供の頃受けましたが、あれは……」
クラウスが遠い目をしている……!
あの忍耐強そうに見えるクラウスが……!
そ、それはつまり、クラウスが経験した皇子教育は……とても大変だった。ということだ(汗
「つまり、アイス皇国にせっかく来ても、連日の妃教育の厳しさに、そこがアイス皇国であることを忘れる……そんなこともあるかと」
そう言ってクラウスは苦笑した。
そこで私はしみじみ思うことになる。父親よ、ありがとうございます――!と。
確かにこれは相談してよかった。
私は……ウッド王国で妃教育を受けることを決めた。





























































