42:落ち着かない護衛騎士達
表情を緩めたクラウスは、こんなことを話し出した。
「ウッド王国の国王陛下は、優しいのだね。どうもわたしは年上の男性からは気に入られるようだ。でも良かったよ。わたしに配慮してくれるなら、そのボニーという女性には、厳罰が下されるだろう。そうなればわたしの婚約者は、狙われることが、もうないだろうからね」
「婚約者……! やはりセシル様は、クラウス様のお気持ちを受けてくださったのですね!」
トニーの瞳がキラキラ輝いている。
「そうだよ。せっかく両想いになれたのに、とんでもない邪魔が入ってしまった。一度目はボニーという女性。二度目はトニー、君だよ」
クラウスは冗談で言っていたのに、トニーは青ざめ、ジョセフは「だから止めろと言ったのに」とトニーの背中をはたいている。
「さて。セシル嬢。その手ではもうダンスは無理でしょう。夕食を食べたら帰りましょうか」
「クラウス様、ダンスは無理ですが、せっかく来たのですから。夕食もいただき、演劇も見てから帰りましょう」
私の言葉にクラウスは、驚いた顔になっている。
「手は……手は痛くないのですか、セシル嬢?」
「骨折したわけではないですし、鎮痛効果がある塗り薬をつけていただいています。それに薬も飲みましたから。……来年、私はこの国にはいないですよね……? でしたらしっかりこのイベントを、クラウス様と楽しみたいです」
クラウスの頬がほんのりとピンク色に染まる。浅紫色の瞳は喜びで輝いていた。上品に微笑んだクラウスは、嬉しそうに頷いた。
「そうですね。来年は……。ではセシル嬢。無理のない範囲で楽しみましょう」
「はい!」
こうしてまずは腹ごしらえをするため、屋台があるエリアへ移動することになったのだが。
手はこんな状態なので、エスコートのために手をどうこうすることは却下となった。代わりにクラウスは、私の肩を抱き寄せ、ゆったりと歩き出す。
すると不思議なことが起きた。
これはもう、クラウスの貴公子オーラが全開になっていたからかしら? クラウスに肩を抱かれ、歩き出すと、人混みであっても道が拓ける……!
一瞬でも彼を見た人は、自然と一歩後ろへ下がり、道を譲ってくれるのだ。
おかげで無事、屋台のエリアに到着できた。
クラウスはトニーともう一人の騎士を私の護衛につけ、ジョセフともう一人の騎士を連れて、屋台へ料理を買いに行ってくれた。
「セシル様。クラウス様のプロポーズ、受けてくださったのですね!」
トニーが満面の笑みで私を見た。
「ええ。なぜ即答しなかったのか。そう思うぐらい、今となってはクラウスが大好きだから」
素直に気持ちを打ち明ける私に、トニーはとても嬉しそうにしている。
「もうこの一週間、クラウス様がクラウス様ではなくなって、ホント、僕達は大変だったんですから」
「え、そうなの?」
トニーによると、私とデートをしている最中のクラウスは、いつも通り……というかウッド王国滞在中の普通の姿だった。ところが私を屋敷に送り届けた後は……。
何度もため息をつき、吐息を漏らし、アンニュイな表情となり、切なそうにしている。
そんなクラウスの姿、アイス皇国でも見たことがなければ、ウッド王国においても初めて見るもの。護衛の騎士達はみんな、そんなクラウスを見て、落ち着くことが出来ない。落ち着かないが、どうすることもできない。
ハラハラ、ドキドキしながら、彼の姿を見守ることになる。
「クラウス様がそんなお姿になった原因。それはセシル様ですから。一緒にいる時は幸せなのに、離れると会いたくてたまらなくなる。セシル様が大好きなのに、振り向いてもらえるか自信がない。心は千々に乱れ……。まさに恋する男子でしたよ、クラウス様は」
「そ、そうだったのね……」
クラウスのそんな姿は想像できるような、できないような。というかできれば実物で拝見させていただき、写真を沢山とり、20種類ぐらいの缶バッジにしたいかも。
「お待たせしました、セシル嬢」
笑顔のクラウスが戻って来た。
クラウスが屋台で手に入れてくれた料理は、どれも出来立てでとても美味しそうなものだった。
屋台というくくりでまとめられているが、調理しているのは宮殿の調理人たち。高級食材を使っているわけではないが、素材の味を生かした料理がズラリと並ぶ。
「これは雛鳥を丸ごと一匹焼いたもので、この岩塩とガーリックオイルで食べるそうですよ。今、食べやすいように切り分けますから」
クラウスはアイス皇国の第二皇子なのに、率先して動いてくれる。そこにはもう、ホント、感動してしまう。苦労が多いと人は、誰かに優しくできるのね。
こんがり焼けたチキンは、クリスマスに見かけるローストターキーの小ぶりサイズ。それをフォークとナイフを使い、綺麗にスライスしていく。あっという間にお皿に取り分け、6人分が用意された。
つまり、ジョセフやトニー達騎士の分も、クラウスは取り分けていた。















