35:拝みたくなる美しさ
カールとのお茶会を終え、夜の舞踏会に備え、着替えをすることにした。
今日は家族も私が行く舞踏会に、それぞれ行くことになっている。使用人も今日は通常の半分に休みを与え、舞踏会へ参加できるようにしていた。
ちなみに家族には、この舞踏会でクラウスに自分の気持ちを伝えることを、話していない。
同じ舞踏会に足を運ぶので、気恥しいというのもある。それに予告することで、変に緊張しそうだし、「頑張れ!」みたいに応援されるのも、なんだかプレッシャーになりそうだったからだ。
それであっても。
マリはなんとなく気づいていたのだろう。
言葉に出さないが、今日のドレス選びは念入りにしてくれた。
生地がライラック色のものを選んだのは、クラウスの浅紫色の瞳とプレゼントされた指輪、今日は髪留めとしてつける紫の鉱石を意識した結果だ。
ライラック色の生地の上に重ねられているレースは、見頃からスカートの上部までは、スパンコールで作られた小花が飾られている。スカートの真ん中から裾の方には、煌めくグリッターとパールが散りばめられていた。
少しの明かりでもドレス全体が輝いて見え、とても美しく感じる。
「このドレスはレースの重なり具合、光の辺り具合で、ライラック色に濃淡が出て、本当に息をのむほど綺麗ですよ。セシルお嬢様!」
マリに絶賛され、嬉しくなってしまう。
「イヤリングはパールで、髪はどうなさいますか?」
「そうね。アップシニヨンにして、いつもの髪留めでまとめてもらえるかしら?」
「おまかせください」
こうして身支度は完了した。
兄と弟は既に舞踏会へ向かっている。
両親はクラウスが私を迎えに来た後、夫婦揃って舞踏会へ顔を出すつもりだ。
つまりエントランスで私と一緒に、クラウスの到着を待ってくれた。
結局、今日までの一週間。
舞踏会には行っていない。
連日、スーツ姿のクラウスだったが、今日は正装をしているだろう。
どんな衣装かしら?
自然と期待で胸がドキドキしている。
「クラウスさま、間もなく到着です」
使用人に声を掛けられ、思わず背筋がピンと伸びる。
「セシル、素敵なドレスだ。きっとクラウス第二皇子も褒めてくれるよ」
父親が緊張をほぐすようにそんなことを言ってくれるので、思わず頬が緩む。
そして、クラウスを乗せた馬車が到着した。
御者が扉を開き、そこから現れたクラウスは……。
「ほおっ」「まぁ」
両親が揃ってため息をもらす。
私はあまりのことに、声が出ず、代わりに息を飲んでしまった。
クラウスは……白に近い青紫、ラベンダーアイス色のテールコートを着ていた。中のタイは濃い紫、シャツはラベンダー色。髪がアイスシルバーだから本当に、この装いはよく似合っている。浅紫色の瞳との相性も抜群。
何よりもこの正装での動作の美しさが秀逸過ぎる。
ただ微笑んで歩いてこちらへ向かってくるだけで、拝みたくなる美しさ。
まさに見惚れている状態の中、クラウスは両親への挨拶を終え、私と向き合った。
「セシル嬢。今日も本当に……美しいですね。ドレスの煌めきがあなたを最大限に引き立てています」
クラウスは……なんて褒め上手なのだろう!
ドレスの美しさを褒めるのではなく、ドレスは私の美しさを引き立てているに過ぎないと言ってくれているのだ。これにはもう感動してしまう。
「ありがとうございます。クラウス様。今日のクラウス様も大変洗練されて、素敵です」
初めて面と向かって、しかも両親もいるのに、クラウスのことを褒めていた。自然と口をついて出ていたのだけれど。言った直後から恥ずかしさで、顔が赤くなるのを感じている。
クラウスを直視できずにいたが、気づくとクラウスは無言。
あ、あれっ(汗)
恥ずかしさより、どうしたのかしら?と思い、顔を上げると。
片手で顔を覆うようにして視線を伏せているクラウスの頬は、かなり赤みを帯びている。信じられない程照れていた。そんなクラウスを見て、なぜか両親まで顔が真っ赤になっている。
「さ、さあ、二人とも、舞踏会へ行っておいで」
父親がそう言うことで、クラウスは我に返り、まだ頬を染めたまま、潤んだ瞳を私に向ける。その瞬間、私はまさにズキュンとハートを射抜かれ、その場で崩れ落ちそうになった。
突然崩れそうになる私に、クラウスは瞬時に気付いてくれた。なぜ突然崩れそうになるのか。きっと不思議に思っただろう。でもそれをおくびにも出さず、その顔は瞬時に真剣そのものになり、腕で私を支えてくれている。
支えてくれたのは助かるのだが、クラウスとこんな至近距離で接するのは初めてなので、今度はそちらに心臓が反応してしまう。
全身が瞬時に熱くなり、耳までジンジンする。
この様子を見た両親は「おや」「まあ」と反応するので、増々私は赤くなってしまう。
「セシル嬢。失礼いたしました。褒めていただき、ありがとうございます。それでは参りましょうか」
私からゆっくり腕をはなすと、クラウスはエスコートをするため、手を差し出した。
「は、はいっ」
なんとかか細い声で返事をして、屋敷を出て、馬車へ乗り込んだ。





























































