33:私の気持ち
森の散策をクラウスとしたその日の夜。
夕食の席。
それはもう前日同様、家族からの質問攻撃だった。
正直に好きとクラウスから言われたが、自分の気持ちが分からず、返事まで時間をもらうことにしたと告げると……。
「なるほど。セシルは先日までラングフォードのバカ息子と婚約していたわけだからな。それに奴にさらわれ、男性不審になっている部分もあるかもしれない。無理をする必要はないだろう。猶予があるというなら、様子をみさせてもらうといい」
「なぜ即答しなかったのか~」と言われると思ったら、そんなことはなかったので、少し驚いてしまう。父親がそう言う一方で、兄はこんなことを言う。
「自身の立場を笠に着て、強引に婚約まで持って行くこともできたのに。しかも72歳も年上の未亡人女王と結婚させられるかもしれない。僕が彼の立場だったら。セシルがダメなら別の相手を見つけようと動いたと思う」
兄が言うことは、尤もだと思う。さらに兄はこんな風にクラウスのことを分析する。
「別の相手を見つけないと、とてもじゃないが、気持ちが落ち着かないと思うな。それに返事を猶予する女性なら、もういいってなってもおかしくない。それを待つというのだから……よほどセシルのことが好きなのだな」
兄の発言を聞いた弟まで、まだ15歳なのに、こんなことを言った。
「ある意味、貴族の結婚なんて、愛がなくても仕方ないですよね。それをここまで愛されて結婚できたら……。多分、姉さまを待つのは溺愛ですよ。今、そう言う溺愛が、貴婦人が読む書物では流行っているらしいですよ、姉さま」
最後に母親はこう付け加えた。
「第二皇子の立場を考え、時間的な猶予があるとしても、可能な限り、早くお返事してあげなさい。明日でバカンスシーズンは終わります、なんてタイミングで『やはりごめんなさい』ではあまりにも可哀そうですよ」
それは……確かにそうだろう。
少なくとも私が断った後に、次の相手を見つけるぐらいの猶予があった方がいい。
そのために必要なことは……。
クラウスと会う。
会って話し、自分の気持ちを確認する。
ということで翌日以降、私はクラウスと毎日のように会うようになった。
◇
クラウスと毎日会う日々を過ごすこと一週間。
この一週間、何も一日中、クラウスと一緒にいたわけではない。
昼食を一緒に食べる、お茶会をする、オペラを観劇して夕食をともにする、エドワード様の計らいで王宮の迷路のような庭園を二人で散策、街でお忍びウィンドウショッピング、音楽会を楽しみ夕食をとる、美術館に行ってお茶をする……などなどをそれぞれの日で過ごしたわけだが……。
正直。
それは……夢のような時間だった。
相手が自分をどう思っているか分からない。
のではない。
完璧に好きだと分かっている状態。
かつ、彼は私に好きになって欲しいと心から願っている。
それはつまり……。
クラウスの全力投球の愛を感じながらの、もはやこれはまがうことなきデートだった。
エスコートはされる。
でも手をつないだり、スキンシップがあるわけではない。
礼節を重んじ、必要以上のことは一切しないのだ、クラウスは。
でもその一挙手一投足に、私への愛を感じる。
しかも“氷の貴公子”という別の名を持つクラウスが、私の前では感情豊かな表情を見せてくれるのだ。
こんなに異性と過ごすことでドキドキした経験、前世でもない。
一応は婚約者だったアンドリューとは。
デートはしたこともある。
キスこそしたことはないが、手をつないだり、腕を組んだりは、したことがあった。
でもドキドキが止まらない……ということはない。
それはどこかで断罪回避という言葉が、ちらついていたせいもあるかもしれないけれど。
自分の気持ちが分からない。
そんなことを言っていたが。
この一週間、クラウスと過ごし、気が付いた。
こんなにドキドキして、楽しかったのだ。
そして帰り際に、こう感じていた。
まだ一緒にいたい……と。
推しであるエドワード様を応援していた時とは、全然違う感情を私は知り、それがクラウスが言っていた「気づけば恋に落ちている」状態だと理解した。
何より、私の恋心が加速したのは、クラウスの律義さのせいもあると思う。
好きだと既に告白している。一緒にいたい気持ちは私より強いと思う。
それでも私と交際しているわけではない。
だから夕食の時間に間に合うよう、屋敷へと送り届けてくれる。きちんと礼を尽くし、素敵な笑顔を残し帰って行く。外食をした場合でも。食後の馬車の中で、どんなにいい雰囲気になろうとも何もしない。きちんと屋敷まで送り届け、優雅に挨拶をして帰って行くのだ。
これで好きにならないわけがない。
好きか嫌いか判断できるぐらい、クラウスがどんな人物であるかも分かった。
私に皇子の妃が務まるのか。
それは……やったことがないからまさに未知数。
そうではあっても、彼のためなら、彼のためになら頑張れる。
心からそう思えたのだ。





























































