29:もう一度会えたら……
指輪だった。
オープンリングのこの指輪は、リング部分がつながっていないので、サイズ調整が可能な指輪。そしてその指輪には、あのマーブル模様を描く紫色の宝石が飾られている。しかも紫色の発色が、私が今、ペンダントとして着けている物より格段にいい。つまり、とても美しい。
「この鉱石はアイス皇国のネーロイ河という場所でわたしが見つけました。……わたしは領地視察ということで、国内のあちこちを旅することが多かったのです。でもどうもこの河の周辺でしか、見つからない鉱石のようですね」
「それは……とても珍しい鉱石ということですよね?」
クラウスは優雅に頷きつつも、少し困った顔になる。
「珍しいのですが、宝石として認知されているわけではないもの。ただ、わたし自身が気に入っていたので、この指輪を用意していました。でも良かったです。セシル嬢がこの鉱石を気に入ってくださっていて」
「そうですね。ウッド王国では見かけないですし、私にとっては宝石も同然です。それにアイス皇国でもそのネーロイ河でしか見つからないのなら、とても価値あるものに思えます。宝石として認知されるようになれば、価値もつくかもしれません」
真剣にそう言う私を、クラウスは嬉しそうに見ている。
「分かりました。皇帝に進言してみますよ」
「ぜひそうしてみてください。……でも領地視察であちこち行けるのは楽しそうですね」
「ええ。宮殿にいると皇妃がわたしに何か仕掛けることを父君……皇帝も気が付いていたので、領地視察に向かわせてくれたのですが、いい勉強になりました」
……! あまりにも沢山エピソードを聞いてしまったが、本当にクラウスは……皇妃により苦労させられていると思ってしまう。
でもそれでへこたれることなく、自身を向上させることにつなげているのは……すごいなぁと思ってしまった。
「話が脱線してしまいましたが、セシル嬢、この指輪を受け取っていただけますか?」
そこで紫の宝石……鉱石にばかり注目してしまったが、そう、指輪。紫の鉱石を気に入っているからこの指輪を用意したとクラウスは言っていた。
わざわざ用意していた……ということは、渡したい人がいるということでは?
「あ、あの、クラウス様。わざわざ用意されていたのですよね? それを私にプレゼントしていいのですか?」
「そう言われるのを待っていました」
そこでクラウスは浅紫色の瞳を細める。
「本当は、あなたが元婚約者にさらわれた日。屋敷へお邪魔し、伝えるつもりでした。でも突発的な事件が起き、それもできなかった。でも今日という絶好の機会を得ることができました」
そこで大きく一つ深呼吸したクラウスは、私を見ると……。
「セシル嬢。あの夏の日からずっと。わたしの心の中に、あなたがいました。もう一度会えたらと、ずっと思っていたのです」
……!
私は……この紫の鉱石を確かに大切にしていた。
ただ、贈り主がまったく不明だったので、もう一度会いたいという気持ちはあったものの、今のクラウスほど切実に再会を願っていたわけではない。
だからこんなに真摯に言われると、申し訳なくなってしまう。
「でもわたしは自由なようで、自由ではない身でした。ウッド王国に王太子さまの婚約者として妹が向かってからは。私と妹が会うことを良しとしない皇妃により、この国へ足を運ぶことができませんでした」
なるほど……! 実の妹に会う機会まで奪うなんて。皇妃は本当にヒドイ。
「でも今回、こうしてウッド王国に来ることが出来ました。指輪を用意して、胸を高鳴らせていたのですが、成長したセシル嬢を見つけられるのか。名前も知らないのに、探し出せるか。賭けでした。でもジョセフとトニーも協力してくれて、ラングフォード家の舞踏会のことを教えてくれました」
そうか。子供の頃の私の姿はバッチリ見ていたけれど、成長した私の姿は……当然よね。分からない。名前も知らなかった。
「ラングフォード家の舞踏会は、その日行われていた舞踏会の中で、一番規模が大きいことを、ジョセフが突き止めてくれていました。そこになら多くの令嬢が集まる。この舞踏会にあなたがいないか、探し出すことにしたのです。子供だったあなたがどのように成長したのか、それを想像して、あなたを探しました」
「ブラームス伯爵家に預けられていたという情報は、知らなかったのですか?」
クラウスは「知りませんでした」と答え、さらに続ける。
「実はエドワード王太子様には、あなたを探していることを打ち明けていました。彼とは妹のおかげで、会ってすぐに打ち解けることができました。そして彼は、子供の頃の私がどこに軟禁されていたのか、探ろうとしてくれたのですが……」
そこで残念そうな顔で結果を口にする。
「もう情報が破棄されていたようで、見つかりませんでした」
その状態で私を探し出すなんて……クラウス自身が言っていたが、本当に、賭け、だったと思う。
「でもあなたが紫のその鉱石の髪飾りをつけてくださっていたので、すぐに見つけることができました。珍しい鉱石なので、あなたがあの夏の日の少女であるに違いないと思えました。それでも人違いであると困ります。そこでまず確認をすることにしました」





























































