24:チャンスだと父さんは思うぞ
この日の夜、夕食の席はもう大変だった。
何しろ王太子であるエドワード様に加え、アイス皇国の第二皇子であるクラウスまでが、リヴィングストン家の屋敷にやって来たのだから。その場に立ち会うことができなかった父親と兄弟の嘆きようは半端ない。
さらに母親が、私とクラウスが二人きりで庭園散歩を楽しんだと明かすと、そこからは特に父親が熱心に何を話したのかと聞きたがるから……。さらにどうして私と二人きりで話したがったのかと勘ぐるので、もう大変。
いとこの伯爵家の屋敷で文通していたことには、外交上の裏話が絡んでいる。他言無用と言われているし、話せない。だから昼食で満腹になり、散歩でもして胃袋を休めたかったのでは?と苦し紛れで答えると……。
「クラウス第二皇子は婚約者がいない。他の皇子は既に婚約者がいるのに。噂では四人の皇子の中で、クラウス第二皇子が一番優れた容姿なんだとか。ゆえに政略結婚用の駒として温存されているという話もあるが……。まあ、クラウス第二皇子はまだ17歳。我が国の王太子だって21歳で婚約者は絶賛募集中なのだから。17歳で婚約者がいなくても、おかしいことではない」
えええええ!
絶対、年上かと思ったのに。
と、年下だったのね。
私なんかよりずっとしっかりしているし、落ち着きもあるし、大人っぽい。何よりあの容姿とスタイルは……。すでに大人の男性の完成したものに思える。まさか十代だったとは。
これにはもう、本当に驚きだわ。
さらに驚いたのは。
そうか。婚約者がいないのね。
というか、クラウスに関して婚約者がいるのか、恋人がいるのか、そんなことを考えていなかった。でもどうなのかしら? 婚約者はいなくても、もし恋人がいるのであれば……。
森と河を見に行こうと私から提案してしまったのは、どうなの?
「ということでセシル。これはチャンスだと父さんは思うぞ」
「え、何ですか、お父様!?」
「だから。クラウス第二皇子は、セシルのことを気に入っているのでは? 1時間近く庭園で二人きりで過ごしたのだろう? いくら膨らんだお腹を休めるのでも、1時間も庭園では過ごさない。せいぜい15分か30分だ。幸い、ラングフォードのバカ息子との縁は切れた。ここは我がリヴィングストン家から、妃を出すチャンス!」
父親は私のことを買い被り過ぎだ。
一国の皇子の嫁に、私をできると考えるなんて。
なんだか親ばかになっていないか心配になる。
「お父様、さすがにそれは無理な話です。それにクラウス様には婚約者がいなくても、恋人がいるかもしれないのですから」
「諦めたらそれで終わりだ、セシル」
ううっ、なんでここで前世でとても有名なフレーズに似た言葉をおっしゃるのですか、お父様!
「そうですよ、セシル。諦めてはダメよ。それにあなた、明日、クラウス様と出掛けるのでしょう」
母親が、燃料投下をしてしまった。
父親が「何!?」と目を輝かせ、兄弟も「!」と反応している。
その後はもう……とっくに食事は終わっているのに、みんな食後の紅茶を何杯もおかわりして、どこに行くのか、なんで二人で出掛けることになったのかと質問攻撃。
偶然、クラウス様が行きたいと思っている河と森が、いとこの屋敷に近い場所だったからと苦し紛れな理由を、最もらしく説明していると……。
「そういえばブラームスの屋敷で一時、アイス皇国の皇子を預かっていたよな。留学で来たとかで。ただ保安上の理由から、当時は口外不要と口止めされていたが。もしやそれがクラウス第二皇子だったのか?」
機密情報! 駄々洩れですよ……!
ああ、でもいとこの伯爵……ブラームス伯爵は外交官。そして私の父親は外務事務次官。そうか、それでアイス皇国の皇子が非公式訪問していた件も知っていたのね。
ここは乙女ゲームの世界で、前世のように機密情報について厳密ではない。
「父上、そうなのかもしれません。……もしそうであれば、セシルは子供の頃に、第二皇子と会ったことがあるのでは?」
兄の言葉に他の家族も同意を示し、「それならばブラームスの屋敷について共通の思い出話ができるかもしれない!」「屋敷のことなんてどうでもいいですよ。むしろ、ここで再会できたのも何かの運命!ということでグイグイいくのはどうでしょうか?」などと大いに盛り上がり、最終的に。
「なんとしても次の約束も取り付けて帰ってこい!!!!!」
という無理難題を課されてしまう始末。
クラウスとは偶然にもご縁があったものの、雲の上のようなハイスペック男子。もう不可侵エドワード様と同格な気がする。「リヴィングストン家から、妃を出すチャンス!」という妄想は早々に諦めて欲しい……。
何よりも。
本当に恋人がいるなら申し訳ないな。
その点だけは何気なく明日聞き出し、もし恋人がいるようだったら、お誘いしたことをお詫びしよう。
そう心に誓い、私はベッドに潜り込んだ。





























































