23:秘め事を打ち明ける
少しはにかんだクラウスは、秘め事を打ち明けるという表情になった。な、なにかしら……。
「わたしは見ていたのです。セシル嬢のことを」
「え!」
「あなたは辺りの様子を伺い、でもサンルームや子供部屋の方は見ないようにしていましたよね。でも私からは、そんなあなたの姿がよく見えていました。最初は、あなたがわたしがいる方を見るかもしれない。そう思いました。でも……」
そこでクラウスは楽しそうに微笑む。
美しい上に、キュンとしてしまう可愛らしい微笑み。
「わたしが軟禁されていることを教えてもらえず、でも近づかないようにと言われているのだろうと推測できました。約束を破り、近づいていることへの罪悪感で、こちらを見ることはないだろうと確信できたのです」
その通りだった。
よく観察しているなぁと思う。
私だったら、見られるかも! 振り返るかも!と思い、部屋の中で隠れてしまいそうなのに。
「それからは、あなたが来るのが楽しみでなりませんでした。話し相手も遊び相手もいない状態で、ずっとあの部屋に閉じ込められていたのです。あなたの目まぐるしく変わる表情を見ているだけでも、ワクワクしました」
なるほど。本当に軟禁状態だったのね。夏のウッド王国はとても気持ちよく、子供だったら外を遊び回りたいだろうに。なんだかとても可哀そうに感じてしまう。
「毎日のようにあなたは大木のところへやって来て。ブリキ缶を開け、私の手紙を見つけた後。ヒマワリの花のような元気な笑顔で庭園から出て行く。そんなあなたの姿を毎日見続けて、わたしは……」
なんて優しい顔をしているのだろう。あの頃を思い出し、なんだか嬉しい気持ちになっているようだ。私との手紙の交換で、そこまで楽しい気持ちになってくれていたのなら。こっそり大木に通っただけのかいがある。
「でもあなたから自宅に帰ることを手紙で知らされた時は……。本当に悲しく感じました」
……! この顔は……。
いつかのような切ない表情。
この顔を見ると、なんだかぎゅっと抱きしめたくなってしまう。
「別れを踏まえ、あのブリキ缶の中から一つ好きなものを贈ると手紙に書いてあるのを読んだ時は……。涙がこぼれました」
なんて感受性が豊かなのだろう、クラウスは。なんというか母性本能がくすぐられてしまう。絶対年上だと思うのに。ぎゅっと抱きしめ、「大丈夫」と安心させたくなってしまう。
「クラウス様はあの中で、ガラス玉や美しい羽を選ぶと思っていました。私がクレヨンで描いた絵を選ぶなんて……驚きでした」
泣きそうなクラウスを励ましたくなり、笑いの方向へ話を持っていったつもりだったのに。
「当然ですよ。わたしにとって宝物になるなら、それはあなたが手作りしたものや、あなたが書いたものですから。手作りの栞と絵で迷いました。でもあの景色は、レンガの塀の向こうに広がる世界だと思うと……。見て見たいという気持ちになりました」
そうか、そうだったのね。
外の景色を見たい。なんだか切ないなぁ。
何か悪いことをしたわけではないのに。
国同士の政治ゲームに利用され、軟禁されるなんて。可哀そうだし、ひどすぎる。
「私ごときの絵ではなく、クラウス様。見に行きましょう。本物の森と河を。観光名所でもないただの森と河ですが、美しいのは確かです。それにいつか見たいという気持ちがおありになるのなら、行っておくべきかと。……ウッド王国には、いつまで滞在なのですか?」
「……! 本当ですか、セシル嬢? その森と河に、わたしを案内してくれるのですか?」
「勿論です。それぐらいお安い御用ですわ。何よりクラウス様は、さらわれた私を助けてくださったのです。そのことに対して、御礼の言葉は伝えました。でもそれだけでは足りないと思います。ですから案内しますわ」
するとクラウスの顔は、日陰のガゼボが明るくなるような、大変素敵な笑顔になった。
「ありがとうございます。とても嬉しいです。森と河を実際に見ることが出来る。それに……」
そこでクラウスは言葉を切り、頬をぽうっと薄ピンク色に染めている。それはもうなんだかとっても色っぽく……。
しゃ、写真集に。
この顔、入れてください。絶対に。
この表情のクリアファイルもやっぱり欲しい。
というか、もうモブから攻略対象昇格でいいのでは?
いや、もしかすると私の転生後に登場した、新しい攻略対象キャラだったりします!?
「早速、明日はいかがですか、セシル嬢。明日も天気が良さそうですから」
余計な妄想を打ち消し、即答する。
「ええ、勿論。いいですわよ」
こうしてクラウスと明日、いとこの屋敷の近くに広がる森へ、遊びに行く約束をした。
本当はまだクラウスと、話していたい気分になっていた。でも、明日も会うのだ。それにブランチの時間から今の時間まで、かなりの時間を、クラウスはリヴィングストン家の屋敷で過ごすことになっている。
そこでグッと我慢し、エントランスへ戻り、母親と共にクラウスが帰るのを見送った。





























































