21:なぜ、あの夏、いとこの伯爵家に?
母親がエドワード様とクラウスを昼食に誘った。
これはもう、ダメ元での行動だと思う。もしやに期待し、調理人には、現在屋敷にある最高の食材を使い、昼食を作るよう、命じていた。
私達が応接室で優雅に歓談しているその裏で、厨房は……間違いない。戦場になっていた。
断られる可能性もあったが、奇跡が起きる。二人とも昼食に応じてくれたのだ……! こうしてダイニングルームへ移動し、昼食を食べることになる。
当然だったが、毒見係がまず確認してと、なんだか物々しい雰囲気もあった。でもそれ以外は楽しく昼食をとることになる。
その時の話題は、もっぱらアイス皇国についてだ。この国の名産品や名物料理を教えてもらい、なんというか、いわゆる世間話で盛り上がった。
エドワード様もクラウスも、共に王子と皇子。社交はお手の物で、会話に困るなんてなかった。
食後の紅茶を楽しみ、いよいよ二人が帰るとなったその時。
「もしお時間が許すようでしたら、セシル嬢。あなたとお話をしたいのですが」
クラウスがそう尋ねた瞬間。
「クラウス様、時間は有り余っていますので、どうぞ、セシルとお話しくださいませ。当家の庭では丁度、ベロニカとサルビアが見頃になっています。涼し気な青い色の花ですし、きっとお楽しみいただけますわ」
母親が私より先に即答し、それを見たエドワード様がクスクス笑っている。当のクラウスは一瞬キョトンとしたが、すぐに上品な笑みで「ありがとうございます。ぜひその庭園を散策しながら、セシル嬢とお話させていただければと思います」と応じた。
確かにクラウスとはもう一度話したい。いろいろと聞きたい。そう思っていた。彼からこうやって訪問して、話す機会を作ってもらえたことは、有難いことだった。
一方のエドワード様は「私はこれで失礼させていただきます」となり、皆でエントランスまで見送ることになった。「迎えの馬車は手配します」とエドワード様は、気さくにクラウスの肩を叩く。
その様子に二人の仲の良さが感じられ……。
ああ、いい。
とてもいい。
この二人で売り出して欲しい……。
二人の王子と皇子を前に、妄想が膨らむ。
「では、セシル嬢。庭園をご案内していただいても?」
「勿論です」
控えていたマリから日傘を受け取り、エントランスを抜け、そのまま庭へと向かい歩き出す。
初夏の陽射しが眩しい。でも日陰は涼しく過ごしやすい。前世の湿度の高い日本と比べ、ここは陽射しの熱さはあるが、湿度は低い。よって真夏でも風が吹けば涼しく感じ、実に快適。
「美しいですね。セシル嬢の母君が言っていた通りです。ベロニカが青、紫、ピンクと、綺麗にグラデーションにまとめられ、咲き誇っていますね。特に青は、涼し気に感じます」
「ありがとうございます。青のベロニカは、夏に最適ですよね。私はどちらかというと、紫が好きなんです。この髪留めの宝石がお気に入りで、いつも紫でのコーディネートを考えてしま……」
そこで思い出す。この宝石……鉱石はクラウスがプレゼントしてくれたものだと。
「セシル嬢、今の言葉……わたしは聞いていてとても嬉しくなりました。そこまで気に入っていただけていたのですね」
素直な自分の気持ちを表現するクラウスの笑顔は……今、降り注ぐ陽射しより眩しい。
うっかり宝石を褒めたのだけど……。
なんだかクラウス自身を褒めたようなで、少し恥ずかしい気持ちなる。でもこの宝石を気に入っているのは事実だった。
「そうですね。とても珍しいですし、本当に気に入りました。……いろいろ頑張らなきゃと思う場面で、この宝石を身につけてきたので、戦友というか、心の支えだったかな、と」
「わたしも……セシル嬢にもらった絵。大切にとってありますよ。いつかまたあなたに会いたいと思っていたので」
これには驚いてしまう。絵の勉強もしていない素人の私が描いた絵を、いまだに持っていてくれるなんて。
「クラウス様はアイス皇国の第二皇子なのですよね? なぜ、あの夏、いとこの伯爵家の屋敷にいた……のですか?」
屋敷の中の大木の樹洞を使い、手紙の交換をしていたのだ。毎日のように。とても外から忍び込んで、できることではない。
つまり、あの屋敷のどこかに、クラウスはいたことになる。
「あの時期、ウッド王国を中心に、交易における関税についての話し合いが行われていました。参加国は10か国。そこでいくつかの品目について一時的な関税の撤廃が議論されていたのですが……。参加国の半数以上の賛成で、撤廃が可決されるという局面でした」
そう言えば、そんな論争があったような。
経済の話なので、あまり意識していなかったけれど。
「アイス皇国としては、基本的に撤廃に賛成の姿勢だったのですが……。アイス皇国の皇帝の皇妃は、リスト国の出身でした。そしてリスト国は、関税の撤廃には反対していたのです。皇妃は皇帝に、反対に票を投じるよう口を出していたようで……。それにウッド王国が気づいてしまったのです」
アイス皇国の皇妃は、クラウスは勿論、妹であるナスターシャ姫にも冷たくあたった人。その皇妃が絡んでいるとなると、なんだか不穏な気配を感じてしまう。
「関税の撤廃については、慎重な国も相応にあり、1票の重みが増していました。もし票決の際、考えを突然変える者がいれば、関税の撤廃は実現しなくなる。それが分かっていたので、ウッド王国はアイス皇国の皇帝に命じたのです」





























































