20:お母様、私もまさか……
気付けば黒騎士ことクラウスの護衛騎士であるジョセフも、エドワード様の近衛騎士に混じって一緒に廊下をついてきている。
そしてエドワード様と肩を並べ、なんら違和感のないクラウスが何者であるか。さすがの私も分かってしまう。
と、とんでもない方に昨晩助けられた。
そう思うのと同時に。
でも彼はあの夏の日の自分のことを、使用人より低い身分と言っていたが、これは……どういうことなのかしら?
いろいろ疑問が浮かぶ状態ながら、応接室へと到着した。
ソファにそれぞれ座るエドワード様もクラウスも、もう、本当に眩し過ぎる。それぞれ専用スポットライトを浴びているかのように、本当に輝いて見えた。母親だってもう、顔が。十代の少女のようになってしまっている。
この二人がいるおかげで、応接室は……まるで自分が暮らし、普段使う場所とは到底思えない。
そんな私と母親に対し、エドワード様は早速、クラウスのことを紹介してくれた。
「本来、極秘の訪問となっていますので、彼に会ったことは、お二人の胸のうちに留めておいてください」
エドワード様の言葉に、母親と二人、こくこく頷く。
「彼は亡くなった私の婚約者ナスターシャ姫の兄、アイス皇国第二皇子のクラウス・ロベルト・ローゼンクランツです。妹であるナスターシャ姫の霊廟で手を合わせるため、非公式に今回、訪問していたのですが……」
そこでエドワード様は、クラウスに目配せをする。その目配せを受け、微笑むクラウス。
これは……堪らないと思う。
ファン垂涎もの。
王道王子様と貴公子が目配せするって!
このツーショットでクリアファイル、お願いします。
って、だからそうではないのに~。
「話せば長くなりますが、実はわたしは子供の頃、そちらのセシル嬢と文通をしていたことがあります。せっかくウッド王国に足を運んだので、お会いできればと思っていました。そして偶然、舞踏会でセシル嬢を見かけまして、ぜひお話をしたいと思っていたのです」
母親は、いつの間に隣国の皇子と文通をしていたのかと、目を丸くして私を見た。
いえ、お母様、私もまさか皇子と思わず、文をかわしていたのですよ……。
そう心の中で弁明する。
「そこで急ではあったのですが、先触れを出し、お屋敷へお邪魔させていただこうと思ったところ……。セシル嬢がさらわれた直後と分かり、わたしとそこにいる護衛騎士、その隣の騎士と三人で、彼女を追うことになりました」
これを聞いた母親は、先程の倍以上に目を開け、私を見た。
そう、そのお気持ち、よく分かります、お母様。私だってまさか昨日助けてくださったのが、隣国の皇子だったなんて、たった今知ったのですから……。
こちらもまた心の中で弁明した。
「つまり、クラウス殿下は偶然、さらわれたセシル嬢を追いかけ、救出することになったのです。ただ、彼の訪問は非公式ですから。警察の方にはこちらから手を回し、残念ですが彼の活躍はなかったことにして、処理をしていますが」
そこでエドワード様は、思い出したように明かす。
「これは近日中に明かされることですが、セシル嬢は当事者ですから。私の権限で明かしましょう。他言は無用ですよ」
そう言ったエドワード様がウィンクをするので、私も母親もハートをズキューンとやられてしまう。
「ラングフォード公爵は、借金返済の目途が立たず、自己破産されました。さらに今回の次期当主の不祥事も明らかになったため、爵位剥奪が決定しています。公爵家の名を汚す行為の数々でしたので、弁明の余地はないかと。残る財産の処分をすることで、借金を相殺することになります」
そこで微笑んだエドワード様は、知りたかったことを教えてくれた。
「勿論、セシル嬢と次期当主との婚約破棄は当然と判断されました。貴族の婚約と結婚には国王陛下の許可を得るのが、このウッド王国の伝統です。今は内乱はありませんが、昔は貴族同士が争っている時代もありましたからね。そして今回、国王陛下はラングフォード元公爵家の長男とリヴィングストン公爵家の長女の婚約について、許可取り消しとされました」
……!
これにはもう驚いてしまう。
国王陛下から許可を得た婚約と結婚については、通常はそのまま遂行されるのが慣例。とはいえ、経済事情や諸事情で、婚約の維持、結婚の実行が難しい場合もある。よって婚約破棄については、当事者同士で決めることが許されていた。
でも今回、許可の取り消しという形で、国王陛下が介入してくれたのだ。もう二度とアンドリューは、私に復縁を迫ることはできない。
断罪を回避するために、私は禁じ手を行使したが。
今回は婚約破棄のため、国王陛下が裏の手を使ってくれたと思う。
そして国王陛下にそうするよう進言してくれたのは……きっとエドワード様だと思った。……私の推しは神だ……!
「婚約破棄となると、その後、当該の令嬢には縁談話が来ないとよく聞きますが、今回はその心配はないのでご安心ください」
なぜかエドワード様は、ニコニコとしている。
母親は「あなた何か隠しているの?」と私を見るけれど……。
正直、思い当たることは何もない。
だから……首を傾げるだけだ。
この後は二人からお見舞いの品として、王室御用達のお菓子を渡され、さらにクラウスが追跡中の詳しい様子を母親に聞かせ、今日の訪問の目的は果たせた形になった。
そこで母親は、二人を昼食に誘ったのだが……。





























































