19:ハイスペック男子友の会!?
翌日。
昨晩の騒動で帰宅し、帰れば帰れで、母親と弟に号泣で迎えられ、何が起きたのか手短ながら話すことになった。こうして寝るのがすっかり遅くなった私が、ブランチを食べていると。
「た、た、大変です、ど、どうしましょう!」
部屋に飛び込んできたマリが、いつになく動揺している。
「どうしたのかしら、マリ?」
私は手にしていたレーズンパンをお皿に置き、落ち着いた声でマリに尋ねる。
「そ、それが、それがですよ、お、おう、王太子様がいらっしゃると、さ、先触れが!」
「えええええ」
その後はもう、大変。
父親と兄は仕事。
弟は学校。
母親は、お隣の屋敷の伯爵夫人に昨日の出来事を話しに行っており、家を空けていた。それを大急ぎで呼び戻す。そして母親と二人で、エドワード様を迎えることになった。
厨房ではスイーツの準備、私と母親は念のためで正装に着替えることになる。
立襟のこのドレスは、上半身から白~淡い水色~淡い紫~淡いピンクへとグラデーションしていた。私のお気に入りの一着。身頃の飾りボタンは濃い水色で、ピアスはターコイズ。髪はアップにして、そう、クラウスがくれた紫のマーブル模様の宝石の髪飾りで留めた。
髪飾りのこの宝石を見ると、自然とクラウスの顔が浮かぶ。
結局。
クラウスが私の文通相手であることは分かった。そしていとこの屋敷の使用人ではないと分かったのだけど……。使用人より低い地位? それが何を示すかの想像もつかなかった。何しろ現在のクラウスが、あまりにも貴公子だから。
もっとクラウスと話したかった。
父親と兄に、クラウスと話したかと尋ねたが……。二人が到着した時、既にクラウスとジョセフの姿はなかったようだ。「会っていないし、当然だが会話もしていない」と言われてしまう。
あの時は一気に人がやってきて、私も話を聞かれていた。だから二人がいつの間に消えてしまったのか、正直、分からなかった。ちなみに警察にクラウスとジョセフについて尋ねても「捜査上の機密になるので」と言われ、教えてもらえない。
一体、クラウスは何者なのかしら?
先触れを出してこの屋敷に尋ねてくれていたが、私がさらわれた直後で混乱していた。あの優秀なバトラーでさえ、クラウスの身分をきちんと確かめることがなかった。
つまり。
いまだに彼が誰であるか謎のまま。
もう一度会って話すことはできるのかしら?
でも先触れを出して屋敷を訪ねようとしてくれたのだ。きっとまた会えるだろう。そこでゆっくり話を聞こう。
そう思いながら、着替えを終え、鮮やかなオレンジ色のローブモンタントのドレスを着た母親と共に、エントランスでエドワード様の到着を待つことになった。
それにしても。
まさか推しが、王太子であるエドワード様が、我が家を……リヴィングストン公爵家に足を運んでくださるなんて。
本当にもう驚き。
鼻血を出してぶっ倒れるか、パニックになり逃亡してもおかしくないのだけど……。エドワード様の胸のうちを、昨日のお茶会で知ることができてからは、少しだけ推しを客観的に見られるようになった。この世界で彼はリアルな人間。ヒロイン以外の女性を愛し、失った心の傷を抱え生きている。そのことが分かってしまったから……。
乙女ゲームをプレイしていた時は、「婚約者を過去に亡くし、現在、婚約者はいない。ウッド王国の王太子」とだけしか書かれておらず、婚約者を亡くした彼の気持ちについては、一切触れられていなかった。
本当はものすごく、傷ついていたと思うと……。
頑張れ! いつかきっとまた心から愛したいと思える令嬢と出会えますよ、エドワード様!と応援したい気持ちになっていた。それは推しを応援するというより、エドワード様という一人の人間を応援したい気持ちへシフトした気がする。
そんなことを思っている間にも、エドワード様を乗せた馬車が、エントランスへと到着した。
母親と私の背筋が伸びる。
ズラリと並んだ使用人一同と共に、馬車からエドワード様が降りるのを待つ。
笑顔と共に降り立ったエドワード様は、本日も大変素晴らしい。
白シャツに合わせたスカイブルーの上衣と同色のズボン。ベストとマントはコバルトブルー。タイは濃紺と完璧なコーディネート。
ここはいつもの推し応援モードで、心の中で拍手喝采となる。
「「え」」
母親と共に私は固まる。
エントランスに降り立ったエドワード様が振り返ると、馬車からもう一人男性が降りてきた。
アイスシルバーのサラサラの前髪の下に見える瞳は、珍しい浅紫色。すっと通った鼻筋に、桃色の形のいい唇。肌は透明感があり、長身でスラリとした体にまとうのは、白シャツに葡萄のような鮮やかな色の上衣とズボン。ベストとマントは白藤色で実に優雅な装い。
貴公子クラウスだ……!
エドワード様と並んだクラウス。
ヤバい。
ここで地上を席巻するアイドルデュオが爆誕してしまった!
絶対に売れますわ、この二人。
え、どうすればいいの?
まず缶バッチとアクリルスタンド。
スマホカバーも欲しい。
あとは……ってそうじゃないでしょうが、私!
な、なぜにエドワード様とクラウスが!?
え、何つながり!?
イケメン同盟!?
ハイスペック男子友の会とか!?
だから、違う、そうではないの!
「リヴィングストン公爵夫人、ご機嫌麗しく。舞踏会では何度かご挨拶させていただいていますが、改めまして。エドワード・チャールズ・アトウッド、この国の王太子です」
エドワード様は母親、私と順に挨拶をしてくれる。
母親はエドワード様のキラキラに感化されたのか、自身の瞳もキラキラし始めている。
「本日は突然、お邪魔してしまい、申し訳ありません。昨晩のセシル嬢誘拐事件を聞き、お見舞いでこちらへ参りました。……そしてとある人物をお連れしたのですが、彼の訪問は非公式扱いのため、お部屋についてからご紹介させていただいても?」
ま、まさか――!





























































