49:童心に帰り……
クラウスの公務がない!
それすなわち、一日中クラウスと一緒にいられる。
アイス皇国に来てから、クラウスと一日中一緒と言うのは……。
これが初めてかもしれない!!
日曜日であっても、式典だったり、パレードに参加したりで、完全なオフにならないことも多かった。だからもう嬉しくてたまらない。
何をしようかしら。
私としてはクラウスとイチャイチャしたいと思うわ。
イチャイチャといっても、ソファに並んで座り、小学生のように手をつなぐぐらいだけど。
未婚の男女の不用意な接触は禁止――だから手が触れ合うだけでも嬉しくなってしまう。
「セシル嬢、せっかく雪が積もったので、外で遊びましょう」
「!? 外で遊ぶ!?」
それは全くの想定外。
でも雪で遊ぶなんて……とても久しぶり。
ここは童心に帰り、思い切り遊びたい気持ちになる。
こうして外で遊ぶことになった私は、とっても暖かい衣装に着替えることになった。
ホワイトピンクのキルティングのドレスは、身頃にくるみボタン、ウエストにベルベッドのリボンベルトぐらいしか装飾はない。でも本当に温かい!
これにファーがあしらわれた白のローブとミトン、白の革のブーツをはけば、雪遊びも問題なさそうだ。
ということで外へ向かうと……。
「すごいわ、一面銀世界!」
庭園があり、花壇があるはずの場所も、こんもり雪が積もっている。クヌギの木にも、雪がかぶっている。宮殿や皇宮の屋根も真っ白!
「セシル嬢、こちらです!」
クラウスが笑顔で手を振っている。
庭園の開けたスペースには、半円形のドームが出来上がっていた。
黒騎士ジョセフと隊服のトニーが、スコップでそのドームに穴をあけている。
クラウスもスコップを手に持っていた。
「何をしているのですか?」
「スノーハウスを作るんですよ。今、ジョセフとトニーがやっているように、ここに空洞を作るんです。雪の中は意外と暖かいのですよ」
分かったわ!
これはかまくらを作っているのね。
「私も手伝います!」と宣言し、スコップを持とうとすると、「セシル嬢は、ジョセフとトニーがかき出した雪を、どかす作業をお願いします」とクラウスに言われた。「了解です!」とローブを脱ぎ、バケツを手に持ち、早速作業開始。
四人でおしゃべりしながら、スノーハウスを作るのはとても楽しい!
完成したかまくらは……二人が入るのに丁度いいサイズだった。
「これだと二人しか入れないわ」
「ええ、ですからクラウス様とセシル様で入ってください!」
トニーがグリーンの瞳をキラキラさせて私を見た。
「でも、トニーとジョセフは?」
「僕とジョセフは護衛騎士ですから。スノーハウスの外で警戒です」
「そうなのね」
「そうなのです! ほら、もうクラウス様が中で待っています。早くセシル様も!」
トニーは私の手からバケツを受け取り、背中をぐいぐい押す。
私は身を屈めて中に入る。
かまくらの中に入るのは、初めてだった。
「セシル嬢、ここにどうぞ」
そこは雪で作られたベンチ。
ベンチと言っても階段状に雪を残しただけだが、そこに毛皮が敷かれ、座れるようになっていた。
「クラウス様、ランタンです!」
トニーが中をのぞきみ、ランタンを渡してくれる。
日中でもかまくらの中は薄暗いので、ランタンの明かりで一気に中は明るくなった。
さらに丸椅子をテーブル代わりで置くと、なんだか寛げる感じだ。
「はい、昼食です!」
トニーがトレンチで運んでくれたのは、サンドイッチとフルーツと紅茶!
まさかスノーハウスの中で昼食をとれるなんて。
大喜びでいただいた。
昼食の後はもう定番中の定番。
スノーハウスのそばに雪だるまを作った。
さらにスノーキャンドルが出来るように、さまざまな雪のオブジェをスノーハウスのそばに作る。
「後は暗くなってからです。部屋に戻りましょう」
クラウスにエスコートされ、離れに戻る。
一旦普通のドレスに着替え、ティータイムを楽しむ。
用意されたデザートは薄いパンケーキ。これに苺のコンポートとサワークリームをつけて食べるととても美味しい! 生地に蜂蜜も練り込んであるのでほんのり甘みもあり、サワークリームとの相性も抜群だった。
ティータイムの後は、暖炉の前のソファにクラウスと横に並んで座り、画集を一緒に眺めた。アイス皇国の様々な景色を描いた風景画で、クラウスはそこがどんな場所であるか説明をしてくれる。驚くべきは、画集のほとんどの場所に、クラウスが足を運んだことがあるということ。
「領地視察で、アイス皇国のほぼ全てを見て回られているのですね」
「ええ。今度はセシル嬢と一緒に、とっておきの場所へ行きたいです」
そう言って微笑むクラウスは、私の期待通り。手をつないでくれた!
もうそれだけで本当に赤面できる私は、自分で言うのもなんだが、初心だなぁと思う。
「セシル嬢、そろそろ暗くなってきましたね。スノーハウスに行きますか?」
「はい!」
私が即答するとクラウスは微笑み、握っていた右手を持ち上げ、その甲に寵愛を与えてくれる。
今日は右手なのね……!
羨ましいわ、私の右手!