3、 聖女と雨の中
3、 聖女と雨の中
西にあるベルト森林を抜け出したオレと聖剣のアーディは激しく雨が降り続ける中、走りながらなんとか隣接する城下町。シーアルカ城を目指し、たどり着いた。
「いや〜すごい雨ですね〜…ローブ様」
「そうだな、この先、晴れてくれればいいが」
「もう夜遅いですし、宿屋でも探しませんか? お金なら私が持ってますから」
オレとアーディは2人手分けして、この町の宿屋を複数探し続けたが、どこも満室状態。
門前払いをくらうだけで、なにもできはしなかった。
「悪いなあ。 にいちゃん達、ここもみんな満室なんだ。 他を当たってくれ」
「そんなこと言わずに…! 金貨3枚は出しますから!!」
「ダメなもんはダメなんだ。 頼むから、出て行ってくれ」
「何かお困りのようですが、どうなされましたか?」
「…?」
宿屋のオヤジと口論していたところに、割って入ってきた少女。金色のツインテールと修道士のようなローブをきている。見慣れない人物ではあった。しかし…
「あ、あなたはシーア様!? なぜこんなところに!!」
「私は、城を抜け出して散歩していたところをたまたま通りかかっただけです」
オヤジが冷や汗をかきながら、驚いた様子でシーアと呼ばれた少女に目をやる。
おそらくだが、この少女はこの町、城の中で権威の高い人物なのだと瞬時に気づいた。
「宿屋がどこも満室で困っているんです! どうにかなりませんか…?」
「そうでしたか。 なら、こちらへ。 今日の寝床ぐらいは案内しましょう」
「ありがとうございます!!」
そして、オレ達はシーアにとある老婆の家に案内され、一晩、寝床についた。
***
「朝食はいかがですか? 勇者様、アーディ様」
「はい!! いただきます!!」
「意外と図々しい性格をしているんだな…」
「図々しいとはなんですか!! 素直な性格と行ってください! 自分に素直じゃないとこの世界では生きていけませんからね」
「自分に素直か…」
考えたこともなかった。自分には、感情も心もないとばかり思っていた。だが、最近は、この聖剣のアーディに出会ってから自分の膨れ上がる喜怒哀楽について感じるようになった。
どうやって、この世界と向き合っていけばいいか。自分は何者になりたいのか。真剣に考えなければならないとは思いつつも、どこか自分からそれを避け続けていた。
「朝食を食べ終わったら、あなた方にプレゼントを用意しています。 楽しみにしててくださいね」
「ほんとですか!? 何からなにまでありがとうございます!」
***
「わあ〜!! 綺麗なローブ!!」
「とてもお似合いですよ。 アーディ様」
「本当に私達がもらっちゃっていいんですか!?」
「ええ。 大丈夫です」
オレとアーディはシーアに城の直属に作られた頑丈で綺麗なローブを頂いた。
昨日、助けてもらってその上、このローブまでもらっては頭も上がらない状態だった。
「本当にいいのか。 こんなものまで見知らぬオレらにくれて」
「そうですね。 代わりと言ってはなんですが、あなた達を助けた代わりに今度は私を助けてはくださいませんか?」
なにやらさっきまでの楽しい雰囲気と打って違い、重苦しい空気で彼女は喋り始めた。
「この町では、100年に1回。 闘神祭というものが行われます。 そこで最後まで戦い、1人勝ち抜いた者が私、〝聖女〟との婚約を得ることができます」
「それが一体…なにが」
「私には冒険するという夢があります。 冒険して、そこで好きな人と結ばれる。 そんな叶わぬ夢を持っています。 だから、こうして幾度か城から抜け出して、助けてくれる人を探して…」
「シーア様…」
「好きでもない人と一生添い遂げるなんて、私には耐えられない…だから私…!!」
彼女が迫真に問いかける、その瞬間だった。
老婆の家の周りを馬のひずめの音を鳴らして、やってくる城の兵士たち。
俺たちを取り囲むように、家の中を占拠した。
「我が城の盟主の姫君であるシーア様、どうか私たちと一緒に城へお戻りください」
「わかりました…」
「シーア…」
「お願いします。 どうか、私を救ってください…」
話を途中で終えたシーアは、兵士に迎えられると馬車に乗り、最後にオレらに対して一言、残して去っていった。
「どうやら、初めてのクエストが発生したみたいですね…ローブ様」
「そうだな。 恩を仇で返すわけにもいかないしな」
町の壁紙に貼ってあった〈闘神祭〉はこの10日後。シーアの思いを助けるべく、オレとアーディは外で剣術の訓練をし始めた。