悪役令嬢が死んだ
悪役令嬢が死んだ。正確には、私が悪役令嬢に仕立て上げたパトロシアが死んだ。
その知らせを聞いた時、思わず笑みが溢れた。でも、私は優しいから、善人にも悪人にも同情してあげなきゃいけない。
「パトロシア様、なんで、なんで…うう」
ああ、おかしい、笑いそうになっちゃう。
「メアリーは優しいな。あんな、性悪女にまで、同情するとは。」
フフ、パトロシアは本当は性悪女じゃないのよ、私が性悪女に作りかえたの。貴方が馬鹿でよかったわ、王子。
「だって、いくら私をいじめてたとは言え、死んじゃうなんて。死ぬことなんてないのに。」
ごめんねー、パトロシア。死んでくれてありがとう。
「私を殺すなんて…許さない。」
パトロシアが耳元で囁いている気がした。
パトロシアが死んでから、1ヶ月経った。誰も私がパトロシアを殺したことに気づかない。でも、もし知られたら。
「メアリー、メアリー、今日こそは食べなきゃ死んじゃうよ。」
王子の声が聞こえる。
「はい、わかってます。でも、食欲がわかなくて…」
いつのまにか私の体重は8キロも減っていた。
パトロシアは死んだから、大丈夫。私がやったことはばれない。
「たく、パトロシアの呪いか。あの女、死んでからも俺とメアリーの邪魔をしてくる。」
「あの、王子。」
「なんだ、メアリー。何か食べたいものがあるのか。なんでも言ってくれ。」
「いえ、やっぱりなんでもありません。」
パトロシアを殺したことを言ってしまいそうになった。危ない。でも、もし、パトロシアを殺したことをあかせばこの苦しみから解放される?
「そうか、何かあったらなんでも言ってくれ。」
王子が帰っていく足音が聞こえた。
それからしばらく経つと王子は私を訪ねなくなった。侍女の噂によるとオリビアという名前の妾ができたらしい。きっと、私がやつれたのが原因だろう。元気でいなくてはいけない、王子に愛されるためには。
それから、食べたくもないご飯を食べ、元気なフリをした。
それでも王子は戻ってこなかった。私が話しかけると明らかに嫌そうな顔をした。王子の妾は城の中に住むことになり、王子は妾の部屋からなかなか出てこない。
ある日、王子が言った。
「オリビアをいじめたのはお前か、メアリー。」
「なんのことでしょう。」
「とぼけても無駄だ。オリビアはお前にいじめられたと言っている。」
「何を言うのですか。私はオリビア様をいじめたことなんて一度もありません。」
「嘘をつくな。この性悪女。」
ああ、この風景を見たことがある。いつだったっけ?そう、パトロシアをはめた時だ。
でも、今は立場が違う。私がはめられたのだ。
「お前との婚約を破棄する。俺はオリビアと結婚する。」
「そう…ですか。」
こうなっては王子は戻ってきてはくれないだろう。
私は実家に帰ることになった。
実家で暮らし初めてしばらく経った日、私をある男が訪ねてきた。そして、私はその男に窓から突き落とされた。ああ、罰が降ったのね。まるで、私はパトロシアみたい。
身体が冷たくなっていく。薄れゆく意識の中で、私は、自分がおかした罪の重さを知った。