クラスメイトの女子3人と質問の答えがYESなら10円玉を表に、NOなら裏にするというゲームをやったら、「この中に好きな人がいる」という質問でYESが1人いた!?
「なあ松岡、あーしらと一緒に10円玉ゲームやろうぜ」
「は?」
とある昼休み。
突然クラスメイトの小松さんから謎の誘いを受けた。
小松さんは所謂ギャルで、輝くような金髪に濃いメイク、全身にジャラジャラつけたアクセサリーが陰キャの僕には非常に眩しい。
でも読者モデルに選ばれたことがあるくらい美人でスタイルもいいので、何気に男子からの人気は高い雲の上の存在だ。
普段はほとんど接点のない僕に、いったい何故!?
そもそも10円玉ゲームって何?
「まあまあいーから。こっちでルール説明すっからよ」
「あ、はぁ」
元来流されやすい僕は、言われるがまま小松さんの席までついていってしまう。
――するとそこには小松さんと仲のいい、茅野さんと水瀬さんも座っていた。
「あらいらっしゃい松岡くん。よく来てくれたわね」
「あ、どうも」
茅野さんの髪はサラサラの黒髪ロングで常におっとりした空気を纏っており、とても高校生とは思えないくらい雰囲気が大人びている。
目元のほくろもセクシーで、『お姉さんにしたいクラスメイト』ランキングで堂々1位の座についている。
いや、『お姉さんにしたいクラスメイト』って何だよって話だが……。
「まあ座りたまえよ松岡。ボクは君を歓迎するよ」
「あ、うん」
対する水瀬さんはリスを彷彿とするような小動物的で可愛らしい容姿をしており、これまた隠れファンが多い。
――そのうえ『ボクっ娘』ときている。
こ れ は あ ざ と い。
「じゃあ早速始めよーぜ。松岡のためにルール説明すんな」
「あ、はい」
小松さんが溌剌とした笑顔を浮かべながら言った。
ルール説明よりも、何故僕がここに呼ばれたのかの説明がほしいところではあるが……。
「ルールは簡単だ。YESかNOで答えられる質問をして、YESならこの10円玉を表に、NOなら裏にしてこの下敷きの下に隠すのさ」
小松さんは僕達に1枚ずつ10円玉を配りながら、机の上に置かれている子供向けのキャラクターがプリントされている下敷きを指差した。
この下敷きは小松さんのなのかな?
「で、全員が10円玉を隠し終わったら下敷きを開いて、YESとNOがいくつあるか確認するだけってゲームだぜ」
「へえ」
所謂匿名アンケートみたいなものか。
直接は聞きづらい質問も、これなら聞きやすくなるって訳だ。
でも、それなら尚の事この3人が僕に聞きたいことなんて、これっぽっちもなさそうだけど……。
「ほんじゃ先ずはあーしの質問からいくな。『犬派か猫派でいったら犬派だ』」
ほほう、随分普通の質問がきたな。
まあ最初だから小手調べってところかな?
うーん、犬も猫もどっちも好きだけど、敢えて言うなら犬派かなぁ。
僕は10円玉を表にして、そっと下敷きの下に隠した。
他の3人も意気揚々と10円玉を入れていく。
「よーし出揃ったな! いざ、オープン!」
小松さんが下敷きを開くと――。
――YESが2、NOが2という結果だった。
……うん、何とも言えない結果だね。
強いて言うなら僕以外に犬派の人が1人いるってことがわかったくらいかな。
果たして誰だろう?
「ふふふ、では次はボクの質問いかせてもらうよ」
水瀬さんが不敵な笑みを浮かべながら言った。
み、水瀬さんはどんな質問をするつもりなんだ……?
「質問は、『この中に好きな人がいる』」
「っ!!!?」
水瀬さん!?!?
いきなりブッ込んできたね!?!?
いやいや、その質問は無意味でしょ!?
だってこの中に男は僕しかいないんだから、YESにしたら僕が好きってことになっちゃうよ!?
そんなの有り得ないよ!!
「アハハ! こりゃ面白いな!」
「うふふ、そうね」
「っ!?」
が、小松さんと茅野さんは思いの外ノリノリだ。
……えぇ。
これはあれかな?
全員NOにして、僕を嘲笑うっていう新手のイジメなのかな?
……この3人に限ってそんなことはないと思いたいが。
まあいいか。
あまり気にしてるのも自意識過剰みたいでカッコ悪いし、さっさと終わらせてしまおう。
僕は10円玉を裏にして、下敷きの下に入れた。
他の3人もそれに続く。
「よーし、いくぜ! 注目の結果、オープン!」
小松さんが下敷きを開くと――。
――YESが1、NOが3という結果だった。
YESが1!?!?!?
えええええええええ!?!?!?
「おやおやこれは穏やかじゃない結果が出たなぁ。YESにしたのはお前か、松岡?」
「い、いや、その……」
小松さんはこれでもかってくらいニヤニヤしている。
そ、そうか、他の三人から見たら、僕がYESした可能性もあるのか。
でも僕だけはYESは僕以外の人だということを知っている……。
……いや、もう1人いるか。
――それはYESにした張本人だ。
ええええ、マジでこの中の誰かが僕のことを好きなのッ!?
これがもしもドッキリとかだったら、僕は人目もはばからず泣いてしまうかもしれない……。
「うふふ、次は私が質問させてもらうわね」
が、間髪入れずに茅野さんは次の質問に移行してしまう。
うおおおお、正直僕はさっきの質問が気になってそれどころじゃないんですが!?
「質問は、『この中に恋愛対象として好きな人がいる』」
「――!?」
何!?
それさっきと同じじゃない!?!?
……い、いや、違うか。
さっきのは単に『好きな人』という聞き方だった。
確かにそれならただの友達として好きという意味にも取れる。
だからその辺をハッキリさせておこうという魂胆か。
ううむ、やるね、茅野さん。
「ハハッ、これまた面白い質問だな」
「うむ、そうだね」
小松さんと水瀬さんも深く頷いている。
まあ、多分これで全員NOになるってオチなんだろうな。
僕達はまたそれぞれ10円玉を入れた。
「さーて今度はどうなるかな。オープン!」
小松さんが下敷きを開くと――。
――YESが1、NOが3という結果だった。
――YESが1!!
つ、つまり、僕のことを恋愛対象として好きということ――!
ふおおおおおおお、マジで誰なんだよおおおおおお!!!!
「ハハハ、なかなか情熱的なやつが交じってるなあ」
「うふふ、ホントね」
「やれやれ、お熱いね」
ぬうううう、3人とも済ました顔しちゃってからに!
ホントにこの中に僕のことを好きな人がいるの!?
とてもそんな風には見えないんだけどな!?
「さぁ、次は松岡の番だぜ。質問を言ってみな」
「あ、うん」
くうううう、ここで僕かあああ。
どうする!?
どんな質問をすれば僕を好きな人を絞り込める!?
「――!!」
その時だった。
僕の脳裏に、とんでもない仮説が浮かんだ。
――好きな人というのは、僕とは限らないのでは?
所謂『百合』かもしれないじゃないかッ!
そうだよ、僕みたいな冴えない男を好きになるよりはよっぽど有力な説だ。
……危ない危ない。
危うく一人で舞い上がってしまうところだった。
「どうしたんだよ松岡。さっさと質問を言えよ」
「あ、うん……今言うよ」
そうとなったら何とかして百合なのかどうかを白黒ハッキリさせたいところだ。
とはいえ、「好きな人は僕ですか?」なんて質問はとてもじゃないが恥ずかしくて出来ない……!
……よし、ここは次善策として。
「質問は、『好きな人というのは自分よりも背の高い人だ』」
「ハハッ、なるほどねえ」
「あらあら、うふふ」
「それはボクに対する当て付けかな、松岡?」
「い、いや、そんなことはないよ水瀬さん!」
確かにこの中で一番背が低いのは水瀬さんだからな。
因みに背の高さ順は、僕>茅野さん>小松さん>水瀬さんだ。
つまりこれで全員がNOだった場合は百合確定。
仮にYESが1でも、少なくとも茅野さんは百合ではないということになる。
僕達は神妙な面持ちで10円玉を入れた。
「そんじゃいくぜ。オープン!」
小松さんが下敷きを開くと――。
――YESが1、NOが3という結果だった。
――YESが1!!!!
つまり茅野さんは百合ではない!
むしろYESにしたのが茅野さんだった場合は、茅野さんは僕のことが好きだということに……!
「うふふ、どうかした松岡くん?」
「あ、いや、何でもない……です」
茅野さんが妖艶な笑みを浮かべながら僕を見つめてきた。
うおおおお、何か急にドキドキしてきたぞ……!
マジで誰が僕を好きなのか教えてくれよおおおお!!!!
「ふむ、つまりこの中の誰かに恋をしている人物は松岡ではないということだね」
「え?」
水瀬さん?
あ、そうか!
確かに僕が一番背が高いからそうなるのか!
「ハハハ、大分場も煮詰まってきたなあ。よーし、一周したからまたあーしの番だな。そうだなー、質問は、『その好きなやつのことは、本当に好きで好きで堪んなくて、もう毎日夢に見ちゃうくらい好きで、今すぐ抱きしめたいくらい好き』」
「なっ!?!?!?」
何その質問!?!?!?
それはいくら何でも……!
「あらあらうふふ、いい質問だわ」
「うん、ボクもとても興味があるよ」
何でさっきからみんなノリノリなんだろう!?!?!?
恥ずかしくはないのだろうか!?!?
「ほら、松岡、あーし達は10円玉入れたぜ。お前もさっさと入れろよ」
「あ、はい」
ぬううう、まあ、今は黙って従う他あるまい……。
僕はこそっと10円玉を裏にして入れた。
「何が出るかな、何が出るかなっと。オープン!」
小松さんが下敷きを開くと――。
――YESが1、NOが3という結果だった。
ぬふおおおおおおお!!!!!!
「おやおや、マジでお熱いじゃねーかこりゃ。今って真夏だっけ?」
「あらあら、お安くないわねぇ」
「これだけ深く愛されてるとは、幸せ者だねその人は」
う、うううん、確かに男として光栄なことではあるけれど……。
い、いや、まだ好きな人が僕と確定した訳じゃないんだった。
小松さんと水瀬さんには依然として百合の可能性が残っている。
何とかしてその辺をハッキリさせられないものかな?
「じゃあ次はボクの質問だね。質問は、『味噌ラーメンと塩ラーメンだったら、味噌ラーメン派』」
「――!?!?」
水瀬さん!?!?!?
ここに来てそれなの!?!?!?
ま、まあ、別に恋愛関係の質問をしなきゃいけないルールもないんだし、僕にとやかく言う権利はないけどさ……。
「あー、悩むなあ。あーし味噌も塩もどっちも好きだかんなぁ」
「うふふ、私もよ」
僕もどっちも好きだけど、正直今はそれどころじゃないっす。
……まあ、強いて言うなら塩かな。
僕は10円玉を裏にして下敷きの下に入れた。
「よっしゃ、オープンするぜ!」
小松さんが下敷きを開くと――。
――YESが2、NOが2という結果だった。
うん、やっぱ今の件は要らなかったんじゃないかな!?
ラスボス戦前に不人気キャラの過去編が挿入されるみたいなモヤモヤ感があったよ!!
「うふふ、次は私ね。質問は、『今現在、女の子に恋をしている』」
「――!!!!」
茅野さんッ!!!!
と思えば茅野さんからは絶妙な援護射撃がッ!!!!
こ、これで百合かどうかがハッキリする。
全員NOなら好きな相手は僕で確定。
逆にYESがいたら百合確定だ。
「ハハッ、これは決定打になるかもなぁ」
「そうだね、ボクもワクワクしているよ」
ううーん、とはいえ未だにこの中の誰かが僕を好きだとはとても信じられないんだけどなぁ。
まあいいや、これでハッキリするんだ。
僕は震える手で10円玉を裏にしながら下敷きの下に入れた。
「よーしみんな、心の準備はいいな? オープンするぜッ!」
くっ!
どっちだ!?
小松さんが下敷きを開くと――。
――全員NOという結果だった。
うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!
「ふーん、てことは、そういうことになるんだよなぁ」
「あらあらうふふ、若いわねえ」
「そうだね、罪な男だよ、松岡は」
「あ、いや、その……」
そうか、今ので他の人にも僕がこの中の誰かから好かれているというのが確定になった訳だ。
うううぅ、恥ずかしくて顔から火が出そうだ……。
で、でも、次は僕が質問する番!
次こそ、何としてでも誰が僕を好きなのか特定してみせるッ!
――キーンコーンカーンコーン
「――!?!?」
その時だった。
無情にも昼休みの終了を告げるチャイムが、教室中に鳴り響いた。
えええええええええええええ!?!?!?!?
「あーあ、もう終わりかあ。しゃーないな、10円玉ゲームはここまでってことで」
「うふふ、とっても楽しかったわ」
「うん、ボクもとても有意義な時間が過ごせたよ」
「……」
いや、僕は滅茶苦茶モヤモヤしてるんですけどおおおおおお!!!!!!
僕を好きなのは、結局誰なんだよおおおおおおおおお!!!!!!!!!
「――松岡」
「……え?」
「……ボクだよ」
「――!!!!」
お読みいただきありがとうございました。
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