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第1話:転生



「いよいよ、魔王との勝負だ」


 勇者の言葉に、私達は拳を固く握って頷く。


 約半年の旅路だった。

 突然国に呼び出されたと思ったら、古の聖剣を抜いたという勇者のパーティーに魔法使いとして参加させられた。他のメンバーも、もちろん勇者も初対面だ。

 最初はぎこちなかった。なんせ今まで顔も知らない他人同士。それが突然背中を預け合い戦う仲間として送り出されても、そう簡単に仲良くはなれない。 

 それでも、冒険の道中にお互いの身の上話をしたり、同じ食事を食べ、だいぶ打ち解けてきた。今はもう、私もこのパーティーの一員だと胸を張って言える。


 そうして辿り着いた魔王城。

 厚い雲に覆われ、一日の大半を闇に包まれた荘厳な造りの城。おそらく、魔王はこの城の最上階に居るのだろう。

 ごくりと、唾を飲む。


「いくぞ」


 勇者の短い合図の後、各々が武器を構える。

 そうして勇者が扉を蹴破り、私達は城内へと流れ込んだのだった。



      *



 そして私、エレノア・ユンカースは魔王城内で命を散らした。

 物陰から突如現れた魔族の不意打ちに、勇者を庇い負傷したのだ。傷は深く、助かる見込みはなかった。

 私は最後の力を振り絞ってその魔族を打ち倒したが、それが最後だった。崩れ落ちた私に、駆けよってくる勇者達の足音が段々と遠ざかっていく。


 どうか、彼らが無事に魔王を討伐できますように。


 それが、私の最後の願いだった。









 だというのに!


 命をかけて戦った私に対する仕打ちとしては、余りに酷い。



「どうした、ベール。まだ傷が痛むのか?」


 向かいの席に座って、テーブル一面に広げられた肉料理を口に詰め込んでいたマルコが、その手を止めて私を見てくる。マルコの黄色い髪の中から飛び出す先の尖った獣耳が、ぴこぴこと動く。


「いえ、大丈夫よマルコ。ありがとう」

「食えなくなったら言えよ、残すくらいなら俺が食ってやるから」

「えぇ、その時はお願い」


 私の返答に、マルコは満足そうに頷くと、再度食事を再開した。



 ――私は何故か、魔族になっていた。


 そして目の前のマルコは、私をぶっ殺してくれた張本人である。



 理由は分からない。

 目が覚めて、身体の節々の痛みに顔をしかめながら、部屋に置いてあった鏡台を覗いて叫んだ。

 体中に巻かれた痛々しい白い包帯。それは構わない。

 しかし蒼い瞳は濃い緑色に変わり、金色の髪は深紅に、そして何より頭からひょっこりと出ている黒い角!

 頭に角や獣のような耳があるのは、魔族の証。


 つまり、私は、滅ぼそうとしていた魔族になっていたのだ!


 こんな酷い事があるだろうか。

 私は、ただ自分に与えられた使命を全力で果たそうとしただけなのに、よりによって生まれ変わった先が魔族。打倒しようとしていた相手であるなんて……。




 その後、私の悲鳴に駆け付けた他の魔族によって、私はベッドに押し戻された。

 どうやらこの身体の持ち主は、一人で人間相手に勝負を挑み大敗したらしい。

 その話を聞きながら、過去の記憶が少しずつ繋がっていく。


 どうやらこの世界、私が死んだ時よりも少し前の時間らしい。


 勇者が冒険の最中に教えてくれた、聖剣を抜いたという時の状況と、周りから入ってくる情報が酷似している。

 おそらくこの女魔族、聖剣を抜きたてほやほやの勇者に殺されかけたのだ。

 いや、勇者の話では殺したと言っていたはずなので、正確には全く同じ時間軸という訳ではないのだろう。


 昔、魔法の師匠が言っていた。

 この世界は可能性の連続だと。そして今の私は、その莫大な可能性の中の一人である、と。

 つまり師匠の話を借りるなら、この世界は"私が魔族だった場合の世界"とでも言えば良いのか。


 だったら死ぬ前の時間軸に戻してくれればいいものを!!




「やっぱりまだ調子が悪いなら、魔王様に言えば休ませてくれると思うぞ?」

「いえ……傷はもう、ほとんど治ったから。ただちょっと、頭の中が混乱しているだけで」

「あぁ、記憶喪失? だっけ? 大変だなぁ」


 マルコが、眉をしかめる。頭に生えている獣耳がぺたんと倒れる。中々感情表現豊かに獣耳は動くのだなと、初めて知った。



 私は、記憶喪失という事になっている。

 嘘ではない。この身体の本来の持ち主、イザベラ・ベールとしての記憶は一切無い。

 ただ、代わりに勇者パーティーの魔法使い、エレノア・ユンカースとしての記憶があるだけだ。


 そしてこのイザベラ・ベール、魔族の中では中々の大物だったらしい。勇者の話ではあまり強くなかったと聞いていたが、今私の面倒を見てくれているマルコと二人で魔族の武闘派のトップ、らしい。

 つまり、マルコと相打ちになったという事は、あの時私達はかなり魔王に近づいていたという事だ。

 しかもあの時ベールはすでに亡くなっていたから、きっと勇者達は無事に魔王との対決に望めたはず。



 私は、魔王を知らない。どんな姿で、どれ程強いのか。

 その魔王と、この後会う予定になっている。


 生前は会いたくて会いたくて仕方なかったが、今は正直逃げ出したい。

 万が一、魔王に私の正体がエレノア・ユンカースだとバレたら、病み上がりの私に逃げ出せる力があるかどうか。


 だが、逆にチャンスでもある。

 今の私は見た目は完全に魔族である。マルコも、傷の手当てをしてくれた魔族も、誰も私を疑うような素振りなど見せなかった。

 魔王が私に気付かなければ、怪しまれずに魔王の傍に行く事も、可能かもしれない。


 ならば一度死んだこの命、躊躇う事など何もない。




 スプーンを握りしめ、消化に優しいようにと料理人が気を使って作ってくれたスープを食べる。

 腹が減っては戦はできないのだ。

 例え目の前のマルコがモノ欲しそうに見てきていても、渡すわけにはいかない。


 スプーンでもほぐれる程に柔らかい肉は、口に入れれば自然とほどける。丁寧に灰汁を取り除かれた黄金のスープには、肉や野菜の旨味が詰まっている。


 正直、ものすごく美味しい。


 魔族はこんなに美味しいものを食べていたのか。

 人の料理は、調味料が多く使われていればいる程価値が高い。だから、味は強烈なパンチ力があるのだが、このスープはその対極に位置している。

 魔族の身体だから、この料理が美味しいと思っている可能性もあるが、エレノアだった時にもこれほど美味しいと思った料理はなかった。


 だが、胃袋で絆される訳にはいかない。

 私には、魔王討伐の使命があるのだ。



「ベール、一口」

「……一口だけよ」


 テーブルの上にあれだけ並べられていた肉料理は、いつの間にか綺麗さっぱり姿を消している。

 今にも涎を垂らさんばかりの表情を浮かべるマルコに、私は一番大きい肉を掬い取って差し出した。

 マルコは満面の笑みを浮かべて、口を開いてパクリと食べる。

 なんだか餌付けしている気分だ。



 ――ハッ!

 いやいや、私は何を考えているのだ。

 目の前のマルコは、私を殺した張本人だ。

 相打ちしたので、私もマルコを殺したのだが……。


 いやいや、今はマルコよりも魔王だ。魔王をどうやって倒すかだ。


「ベール……」

「これ以上は駄目よ」


 マルコの獣耳が垂れ下がる。




 結局、私はスープを半分ほどしか食べられなかった。

 恐るべき魔族の獣耳。

 お願いだから魔王には角が生えていて欲しい。



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