猫屋敷と少女4
買い物から、一夜明けた朝。
零がテラスのガラス扉を開ると、海風の香りが部屋の中に流れ込む。
零は手際よく、他の窓や天窓を開けていく、最初の頃は手間取っていたが1週間もすれば慣れてものである。
そうしていると、階段の方から気配を感じて、振り向くと桜が階段を下りて来る所だった。
「おはようございます、桜さん」
「おはようございます、零さん」
そう言うと、零の方はニコリと笑う、、桜の方はいつもの無表情のままだったが、下の名前で呼んでくれていることで、零も少なからず打ち解けて来ているのを感じた。
そんなことを感じながら、零が最後の窓を開けようとしたとき、桜が最後の階段を踏み外して、桜の体がバランスを崩した。
それを、咄嗟に零が抱き込むように支える。
「す、すいません。今度は睨まないで下さいね。」
零は引きつった笑顔で言うと、桜は自分が零を睨んでしまっているのに気付いて、気恥ずかしさと申し訳なさから顔を俯かせた。
「ごめんなさい気を付けます、支えてくれてありがとうございます…」
そう言うと、二人は自分たちの状態に気付いて、飛びのく様に離れた。
少しの沈黙が流れた後、零が気恥ずかしさを切り替える様に喋りだした。
「そ、そうだ、今日は里美さん朝から用事があるみたいで、朝から居ないので僕が朝ご飯作りますね」
「分かりました、よろしくお願いします。」
そう言うと、桜はいつもの無表情に戻っていた。
それを見て、零は胸をなでおろすとキッチンへ向かった。
料理をしようと零が調理道具を探すが見つからない、それもそうである、こっちに来てから料理は里美に任せっきりだったので、零には何がどこにあるのかさっぱりだった。
そうこうして、あたふたしているとキッチンを覗き込むように桜がやって来た。
「フライパンは右下の所です、油は左上の棚の所に、包丁や鍋の類は後ろの棚の下です。」
桜はそう言いながら、調理道具の場所を的確に教えてくれた。
「すいません、出来たら桜さんも手伝ってもらっていいですか?」
「いいんですか!!」
そう言うと、桜は笑いはしないものの、あからさまに嬉しそうに近づいてきた。
「今日は、食パンと目玉焼き…あとはサラダと粉末のコーンポタージュがあったのでそれにしよ」
グシャ…
零がおかしな音の方に振り向くと、黄身と白身と殻のぐしゃぐしゃになったものが桜の手からボールに滴っていた。
「スクランブルエッグにしますか。」
その後も、桜の調理によって少なからず、メニュー変更があったものの何とか仕上がった。
「いただきます。」
そう言って、零と桜はテラスのテーブルで手を合わせた。
しかし、確実にさっきの調理の尾を引いている桜の表情は暗い。
桜の気を紛らわせるように零は喋りだした。
「そういえば、桜さん時々、ここから景色眺めてますよね僕も此処の景色好きなんですよ。」
「私も、此処の景色は好きですがどちらかと言えばここに流れ込む夜に吹く陸風が好きなんです。」
「陸風ですか?」
「ここの陸風に合っていると心が安らぐんですよ。」
そう言って髪を耳に掛ける桜を見ながら、零は殻入りスクランブルエッグを口に運ぶ。