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HEAVEN!ヘヴン!HEAVEN!3  作者: coconeko
7/15

ひょっとしなくても

2月リストラ予定が先月リストラされました。

最後はもう、退職金も残業代も出さないくせに休憩時間まで削られるという酷使のされようでしたが、生きて何とか退職。おかげでひと月全く更新できませんでした。申し訳ありません。

今月からはバリバリ書きます。よろしくお願いします。

「何だよ。本当の事だろう?」

「・・・・・・・・ふうん?」

 今度こそ、勢い良くセインは手を合わせた。

「おわわわわ!!!待て待て待て!」

「待たない!」

 ついに、ずるりとセインの手の平から、聖剣の柄が引き出された。

「だあああああ!」

「うるさいし!」

 必死になってセインの腕を掴むギャンガルドだったが。

「おうわ!?」

 ダダン!

 宙を飛んだのは本日二度目だ。しかも短時間の間に。

「キャルのナッツも食べたみたいじゃないか。もうお茶は良いでしょ。さっさと部屋に戻って寝ちゃいなよ。子供は寝る時間だよ?」

「ははー。おっかねえなあー」

 ひんやりとした視線をくれるセインに、床の上に伸びたまま、乾いた笑いを漏らす海賊王だった。

「うん、まあ、自業自得ってヤツっすね」

 しみじみと呟くタカに至っては、おかわりを注いでもらいつつ、キャルのとっておきのチョコレートをいただいている。

「お前、ずるいぞ」

 二度も食らった背中の痛みになかなか起き上がれず、床の上に座り込んだまま、後頭部を撫でるギャンガルドは、子供みたいに口を尖らせた。

「タカは悪い事をしていないもの」

 ベッドの端に腰掛けたまま、キャルが美味しそうにカップを傾けている。

「へいへい、俺は邪魔者ですよーだ」

 ようやく立ち上がったギャンガルドは、本当に子供みたいに拗ねてみせる。

「邪魔っていうより、害虫よ」

「お嬢?」

 追い討ちをかけるキャルを、情けない顔で見やった。

「とにかく、外でぶら下がってる男の素性も分からねぇままだし、嵐はまだ止まねぇし。何にしたって帰って寝たほうが良いっスよ、キャプテン」

 最終的には手下に宥められ、大人しく部屋に戻る事になる。

 扉は壊れているので、残骸をまたぎ、枠だけになった部屋の入り口をくぐって廊下へと出て、ギャンガルドはひょい、と、室内を振り返った。

 先程と同じ位置でカップを手にしたままのキャルと、背中を向けたまま、こちらを見ようともしないセイン。

 ふむ、と、一つ頷いて、ギャンガルドはタカの頭をぺちりと叩く。

「なんスか?」

「ちょうどいいや。お前、お嬢たちの世話してから戻って来い」

 自分たちのキャプテンは、人に気を使うような男ではないので、タカは眉をしかめた。

「何かあったんスか?」

「ありそうだから、様子見て来いってんだよ」

「素直にそう言えば良いのに」

 ぼやけば睨まれた。

「うへえ。俺らにはそういう顔できんのに、どうしてお嬢たち相手だと全部台無しになっちまうんですかねぇ?」

「そりゃあ、惚れた弱みってヤツじゃねえか?」

 にやりと物騒な事を言われ、タカは何ともいえない複雑な心境になる。

 からかわれているのだと分かってはいるものの、あながち本気とも受け取れる。どちらに惚れているのかなんて聞きたくもないし、どっちに惚れていたって面倒くさい事この上も無い。

「茹蛸になってるぜ?」

 実に楽しそうなギャンガルド相手に、タカは盛大に溜息をつく。

「ま、キャプテンがほだされてちょっかいかけたくなったところで、俺たちは面白いだけだし、二人には悪いけど諦めて貰うっきゃねえかなぁ」

 所詮は他人事なのだった。

 実際、クイーン・フウェイルの乗組員一同、キャルとセインの二人を気に入っているのだから、自分たちのキャプテンがこの二人にちょっかいをかけるのならそれは歓迎すべき事であった。

 肝心の、標的にされてしまった二人には、とてつもなく要らない迷惑なのだけれども。

 何のかんのと言ったところで、タカ自身も、二人に惚れ込んでいるのだった。


 翌朝は盛大な大声によって、宿屋に宿泊していた全員が一斉に目を覚ました。

「何よ、朝っぱらから騒々しいわね」

 つんざく様な悲鳴が聞こえたのは窓の外。

起きてみれば、部屋の出入り口に、壊れた戸板の代わりに大きな布が留められて、目隠しにされている。

 昨夜、タカが付けてくれたものだ。

 窓をとりあえず開けてみようと、キャルはベッドから足を下ろした。

 昨日のお茶を飲んだ跡は、綺麗に片付けられている。

 暗い室内は雨戸を開ければいくらか明るくはなるものの、朝靄のかかる景色は、さほど太陽光を取り入れてはくれそうにない。そもそも、まだまだそんな時間でもない。

 下を除き見れば。

「あぁ、そういえば」

 窓の下に、ぶら下がっている男が一人。

「逃げられなかったのかしら」

 外から聞こえた悲鳴は、この男を発見した通行人から発せられたものであるらしかった。腰でも抜かしたのか、石畳の地べたに尻餅をついて、指をさしている。

 宿屋の窓も、ちらほら開いて、きょろきょろとあたりを見回す人々がいたが、原因が分かればどうという事はないので、キャルは外への興味を失って、ガラスの窓を閉め、室内へと視線を戻した。

 そのままベッドを横切って、扉代わりの布をめくり、廊下を覗いてみれば、向かいの部屋の中身が丸見えだった。

 そういえば、昨晩ナイフで扉を切り裂かれて、大きな穴が開いていたのだった。

 宿泊客は既に姿が見えなくなっている。大方、逃げ出したと見るのが普通だろう。

 それが証拠に、荷物を抱えて廊下をうろうろする宿泊客がちらほら見られた。

 昨夜に引き続き、今朝の悲鳴と来れば、逃げ出したくなるのも仕方がない。

 それでも宿屋の主人らしき人物が、全く現れない。

 従業員もしかり。

 それならそれで、今のうちにトンずらして、宿泊料金を踏み倒してしまうのも、別に罪な事ではない様な気もしてくる。

「セインに言ったら怒りそうね」

 ぱさりと、めくっていた扉代わりの布から手を離し、ゆっくりとベッドへ戻った。

 もう一度寝直してしまおう。なにせ寝るのが遅かった。

 キャルは大きく欠伸をすると、ごそごそとベッドの中へと潜り込む。

「セイン?」

 念のため、隣のベッドで丸くなっているはずの相方に、声を掛けてみる。

 返事は無かったけれど、規則正しい寝息が聞こえてきて、キャルはホッと息をついた。

「海賊どもが起こしに来るまで寝ていたって、別に罰は当たらないわよね」

 外の嵐は止んでいたし、廊下はまだ騒がしいけれど、セインを休ませておきたかった。

 昨日の夜は色々面倒くさかった。

 まあ、結局就寝前のお茶会は出来たし、そのお茶会の後片付けはタカがやってくれたし、ついでに扉が壊れて廊下から丸見えになってしまったこの部屋に、キャルがセインロズドで切り裂いたケットを上手くピンで繋いで一枚布に直し、扉の代わりに出入り口に付けてくれたのもタカだ。

 その間、セインがどうしていたかといえば、ダウンしていた。

 傷が痛むのに遠慮が無い海賊王にイライラし、投げ飛ばす事二回。その前に襲ってきた不届き者との格闘が祟って、流石に傷口が開いた。

 タカが洗い物に厨房へ降りている間に手当てをして包帯を巻きなおし、後はベッドへ放り込んでおいた。セインも抵抗はせず、疲れもあったのだろう。すぐに眠ってくれた。

 本当なら、セインロズドに姿を変えさせてから眠らせたかったのが、そんな余裕も無く、一度眠ってしまったものを、また起こすのもしのびなく。

 それでも、顔色は昨日に比べ、だいぶ良くなったように思える。あとは、この村から駅馬車が出てくれれば言う事はない。駅馬車が無ければ、荷馬車に便乗させてもらうのでも良い。

 それも、次の町までの道筋が、昨夜の嵐で分断されていなければの話なのだが。

「ちゃんと夜が明けたら、何を食べようかしら」

 キャルはそんな事を思いつつ、うとうとと目を瞑った。

「お嬢!!!」

「ぎゃあ!!」

 目を瞑ったところで、大声で呼ばれて思わず飛び起きた。

「早く宿を出るぞ!!」

「な、何よ?」

 タカが、ドタドタと部屋の中に許可も無く入って来る。

「ちょっと、一体どうしたって言うの?」

「説明は後々!とにかくズラかるぜ」

 どこか嬉しそうな、機嫌の良いギャンガルドが、意気揚々と壊れた扉をくぐって入って来るのを見れば、何事か面倒な事が再び起こったことは分かる。しかし別段、銃声がしたとか、剣戟が聞こえたとか、朝の悲鳴以外で怒号が聞こえたとか、そんな事も無く、この海賊たちが一体何を慌てているのかがさっぱり分からない。

タカは自分たちの麻袋の荷物のほかに、キャルの鞄をとっとと引っ掴む。ギャンガルドはギャンガルドで、まだ眠っているセインを右肩に担ぎ、寝巻きのままのキャルに靴を履かせてその手を掴んだかと思えば、ひょいと左脇に抱えてさっさと廊下に出、階段を下り、誰もいないフロントを通り過ぎて宿賃も払わずに外へ出てしまった。

「あのね」

 脇に抱えられたまま、早朝の村の小道を進んでゆく。

 いいかげん朝も明けかけ、靄も消えてなくなり、キャルが最初に起きた時よりも、太陽は輝きはじめている。

「ちょっと」

 それなのに、何が悲しくて、大男に小脇に抱えられ、寝巻きのままブラブラと運ばれて行かなければならないのか。

「こらあ!」

 鼻歌を機嫌良く歌いながら、先程から無視をし続けてくれるギャンガルドの腹を、思い切り殴った。

「ぐふうっ」

「ぐふじゃないわよ!いいかげん下ろしなさい!さもなきゃ理由を述べなさい!」

 抱えられていようが、いるまいが。キャルはキャルだった。

「お嬢ちゃん、いきなり腹はねえだろ、腹は」

 両手が塞がっているので、痛む腹をさする事も出来ないギャンガルドは、口角を引きつらせて痛みに耐える。

「まあ、もうちっと先に行ってからな」

 痛みが治まると、ギャンガルドは先程より更にスピードを上げて、どんどん道を進んでゆく。

「ちょ、ちょっと!私まだ寝巻きなのよ!」

 じたばたともがいてみても、流石は海賊王。びくともしない。

「お嬢、あんまり騒ぐと目立つぜ?」

 見かねたのだろう、タカがキャルを覗き込んでくる。

「もう、この状態だけで充分目立ってんのよ」

 男二人が荷物を抱えて走っているだけなら、さほど不思議でもない。ただ、問題は、片方の大男が、人を二人抱えているという事実。

 しかもギャンガルドの満面の笑みに加え、担がれている方は二人ともに寝巻きのまま。

 人攫いにしか見えないではないか。

「よし、この辺で」

 ようやく止まったギャンガルドが、キャルを地面に下ろした。

 セインの事は担いだままだ。

 見回せば、小さな裏道の、小さな戸口の前だった。

 コツコツ

 ギャンガルドが、その戸口をノックする。

 パタパタと、軽やかな足音が聞こえると、扉に付いている小窓がぱたりと開いて、人の目が見えた。

 綺麗な琥珀色の瞳。まだ若い女性だ。

「誰?」

「俺」

 琥珀色の瞳の持ち主に、ギャンガルドは短く応えた。

 すると一気に扉が開いて、黒髪の豊かな美女が飛び出した。

「おかえり!」

「おう」

 ギャンガルドはセインを抱えているのに、抱きつく女性を軽々と受け止めている。

 なんとなく事態が飲み込めて、キャルは眉間に皺を寄せ。

 こっそりと、ギャンガルドのシャツの裾を引っ張った。

「この女性があんたの愛人もしくは何人目かの奥さんだって事は分かったから、さっさと説明なり何なりしてくれないと、お父さんって呼ぶわよ」

 美女には聞こえないように、小さな声で海賊王を脅す。

 ぴくり、と、ギャンガルドの片眉が引きつった。

「流石だなあ」

 一部始終を眺めていたタカは、しきりに感心して、ずれた荷物を抱え直す。

「まあ、ここじゃ何だ。中へ入れてくれよ」

「ああ、ごめんよ。何だ、お連れさんが増えているじゃないか」

 黒髪を撫でながらギャンガルドが美女を宥めれば、感激の涙を指で拭って、彼女は一同を、自宅へと招き入れてくれた。

「あたしは、ジャムリムっていうんだ。ここはあたしの自宅兼お店。表側は小さいけどバーになっているんだ。狭いけど、今は営業もしていないし、こっちでくつろいでいておくれよ」

 琥珀色の瞳の美女は、キャルへの自己紹介を済ませ、ギャンガルドに口付けを落とすと、嬉しそうに自宅のキッチンへと向かって行った。

 店と自宅は扉一枚で繋がっている。先程招き入れられた小道側の入り口は、居住スペース側の玄関だったらしい。

 現在キャルが座っているカウンターから、後ろにもう一つ入り口があるのは、店側の入り口らしく、先程通った玄関より、扉は赤く塗られて間口も広く、なんだか派手だった。

 彼女が狭い、と言ったとおり、カウンター席には赤い椅子が五脚、他は入り口の脇に小さな二人掛けの、やはり赤いソファーが小ぢんまりと置かれているだけだった。

 そのソファーに、ギャンガルドはセインを下ろす。

「…うっ」

 担がれて運ばれて、セインも起きてはいたらしいが、うっすらと目を開けただけで、また閉じてしまった。

 顔色が悪く見えるのは、店内が薄暗いからではあるまい。

 せっかく、早朝には血色も戻っていたというのに。

「どうして今現在こんな事になっているのか、教えてちょうだい」

 キャルは足のホルダーに納めていた拳銃を抜き取った。

 担がれる直前まで、枕の下に隠してあったものだ。自分でも、あの状況でよく持って来れたと思う。

 その拳銃を、別段ギャンガルドに向けるわけでもなく、手元でくるくると回し、回転式の銃創へ弾を込めたり出したりしている。

 手持ち無沙汰なのか、これも脅しなのか。判断に迷うところだが、ギャンガルドはどちらでも構わないらしい。

「リボルバーよりオートマのほうが使いやすいんじゃねえの?」

 ころころと、カウンターの上を転がった一発の銃弾を、摘んで持ち上げた。

「人それぞれよ。弾返して」

「ほれ」

 素直に返すと、ついでとばかりに手の平の真ん中を、ぎゅうっと摘み上げられた。

「痛い。お嬢」

「痛いようにしてんのよ!」

 どうも、銃をいじっているのは冷静さを保つためだったらしい。

「今、現在、どうして私とセインは寝巻きのまま、見も知らぬ美人さんのお店でこんなことをしているのでしょうかしらね?!」

 ジャキン!

 ついに安全装置を外された銃口を向けられる。

「お、お嬢、落ち着いて!キャプテンもいい加減にしないと、風穴開きますって!」

 見かねたタカが、二人の間に割って入った。

「風穴が開いちまうのは勘弁だなあ」

「じゃあ、説明しなさいよ!」

 キャルを押さえ込もうとするタカの腕の隙間から、足やら腕やらをじたばたと出して、結局のところ、銃口をギャンガルドに向けるのをやめないキャルに、ギャンガルドは降参のポーズをとった。

「さっきの女な。自己紹介したから分かってると思うけど。ジャムリム。好い女だろ?」

「聞きたいのはそんな事じゃないんだけどっ」

「前ここに来た時、知り合ったんだが、田舎に似あわねえくらい情熱的な女でな。いつでも寄ってくれって言ってくれたから来たんだが」

「だから、彼女とあんたの惚気話はどうでも良いのよ。問題は何故ここに来て匿われているのかってことよ!」

 一向に本題に入ろうとしないので、キャルはいよいよ撃鉄を上げ、トリガーに指をかけた。

「うん、待て。お嬢が本気なのは分かった」

「確かめなくたっていつだって私は本気よ!」

 ふうふうと、キャルの鼻息が荒くなってきた。

「宿屋に吊るされてんのが、昨日の刺客じゃなくて、宿屋の主人に摩り替わっていたって言ったら、納得するかい?」

「…待って。朝、初めに起きた時に、一度様子を見たけれど、入れ替わっていたなんて気が付かなかったわ」

 すとん、と、椅子に座り直して、キャルは朝方窓を開けた時の事を思い出す。

「ああ、あの悲鳴の後だろ」

「そうよ。悲鳴上げた本人か分からないけれど、通行人らしいのが、尻餅ついて指さしていたわよ」

 銃はいまだにキャルの手の中だ。

「で、俺たちがお嬢たちを起こしに行ったまでの時間はどのくらいあった?」

「さぁ?そんなに時間はかからなかったはずよ。五分あったかしら」

「ふん?」

 キャルの答えに、ギャンガルドは顎を摘んだ。

「俺はあの悲鳴が聞こえる前に起きてたんだ。宿屋の外に出て、昨日吊るした男の様子を確認できるくらいにはな」

「……どういう事よ?」

 相変わらずもったいぶって話をするのは、この男の悪い習慣だと思う。

「あの悲鳴が聞こえる前に、刺客と宿屋の主人とが入れ替わっていたって事さ」

「じゃあ、私が見たのは宿屋の主人だったって事?」

「そうなるな」

「一体、何のためによ?」

「そりゃあ、俺たちを騙すためじゃねえか?」

 わざわざ身代わりを立てて油断させ、隙あれば再び襲おうとしていたといった所か。

「宿屋は災難だったわね」

「ま、結局つるんだ相手が悪かったってところだろ」

「何でつるんでいたって分かるのよ」

 セインもその可能性を疑っていたが、確証があったわけでもない。

「そりゃあ、お前さんたちが引き上げた後に、宿屋の亭主を縛り上げたからじゃねえか?」

「は?」

 いつの間にそんな事をしていたのか。

 と、いうより。秘密をバラした事によって、宿屋の亭主は刺客の変わりに吊るされたのではなかろうか。

 可愛そうに。

 では、またあのナイフ男が襲ってくる可能性があるということか。

「あぁいった手合いに狙われる覚えは、全くないのだけど。アレじゃないの?本当はギャンギャンたちを襲うところを、間違って私たちが襲われたんじゃないの?」

 国王の命を受けて旅をしているのは海賊で、海賊の目的は自分たちだけれど。

「国王の失脚とか、そういうのを狙っている連中がいるにしたって、俺たちの邪魔したところで国は傾くとは思えねえんだが?」

 国王を失脚させるなら、それ相応の効果が必要になる。が、自分たちはほぼ、国王の趣味というか、気まぐれで呼びつけられているようなものだと思っていたのだが。

「実は重要な任務でも任されるのかしら?」

「大賢者を引っ張って来いってんだから、その可能性を考えなかったわけでもねぇんだろ?」

 にやりと、人の悪い笑みを浮かべて、ソファに横たわるセインをちらりと見やったギャンガルドを、キャルはぎろりと睨んだ。

 もし、目的がセインだったのだとしたら、彼の正体が相手に知れてしまっている可能性があるが、それにしても。

「そりゃ、ね。でも、だからって納得いかないわ。私たちは王様の用事の内容も知らないのよ。王様だって馬鹿じゃないんだから、刺客が送られるような内容だったら、あんたたちじゃなくて、それなりの人物を使いに寄越すなり、そういった事柄を匂わせるなりするはずだわ。いくらセインが大賢者で、私がそれなりのヘッド・ハンターだっていっても、油断してたら殺される可能性だってあるのよ?」

「ふむ。そこいら辺が怪しいと思っていたんだが。違うか」

 珍しく、ギャンガルドが真面目な表情をした。

「とにかく、こうして急いで宿屋を出てきた理由は、また狙われる可能性が高かったから、ということかしら」

 ようやく、手の中で遊ばせていた銃を足のホルターに戻し、キャルはカウンターに両肘を付いて、手の平の中に自分のほっぺたをうずめた。

「昨日吊るしたヤツが来る可能性もあるけどな。組織だって動いているとしたら、確実に新しい、更に物騒な刺客が来るかも知れないからな。面倒くさいし、逃げるが勝ちかと思ってね」

「だったら、最初っからそう言いなさいよ!」

 本当に、この男は。

「賑やかね。朝ごはん、まだなんでしょ?」

 ひっぱたいてやろうかと手を振り上げたところで、ジャムリムが両手に焼きたてのトーストやサラダを持って戻ってきた。

「まだコーヒーとか、焼いたベーコンとかあるから、運ぶのを手伝ってくれないかい?」

 カウンターに料理を並べたかと思えば、指示を出すだけ出して、また奥へと引っ込んでゆく。

「おれ、持ってきますわ」

 タカが慌てて、ジャムリムのあとを追った。

 狭い店内は、一気に美味しそうな匂いで満たされる。

「ま、俺が様子を見に行ったのは、外でちょっとした物音があったからなんだが。短時間でお前さんたちに気付かれずに一仕事するような連中だ。今の賢者じゃ危ねえし、とりあえず非難しとくに越した事はねぇと思ってな」

 そういったことには頭が回るギャンガルドの存在は、非常にありがたいのだが。

「礼は言っておくわ。ありがとう。けどね?説明させるまでが一苦労なのよ。ギャンギャンって」

 一番面倒くさいのは、刺客でもなんでもなく、この男なのかもしれなかった。

「私のストレスが溜まるのよ」

 本当に、この男の何が良くて、大人の女性たちは集まってくるのだろうか。

 その謎を解くのは、セインと約束している探し物を見つけることよりも、キャルには難解に思えるのだった。


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