真夜中のお茶会手始め
職場の休憩中に携帯でポチポチ打って、まとまったらパソコンで編集してUPしています。それでも中々更新が進まず申し訳ありません。
来年2月にリストラされるので(派遣の方々よりはマシなんでしょうけれども)暇になるかと思います。そうしたら今よりは時間が出来るでしょうから、就職活動の合間にどんどんUPして行こうと思います。
「時々思うのよ」
「あ?」
キャルがしみじみと呟くので、ギャンガルドは目線を下ろして彼女を見やった。
「ギャンギャンって、性格がひねくれてる以前の問題で、実は単に性格破綻しているだけのお子様かしらって」
セインとタカが顔を見合せ、ギャンガルドは眉を上げて目を見開いた。
あまり見られる表情ではなかったが、キャルは目もくれない。
タカに頼んで、くっ付けていたベッドを元に戻し、間に部屋の隅にあった小さなテーブルを設置してもらうと、そのテーブルの真ん中にランプを置いた。
「ちょっと暗いわね」
真夜中で、嵐の為に雨戸を閉めきっているのだから当然なのだが、月の輝く夜なら、まだ部屋は明るく、先程のような輩の侵入も許さなかった事だろう。
がさごそと、キャルが自分の鞄から何かを取り出して、セインに渡す。
「眠れない?」
おとなしく差し出された箱を受け取って、セインが尋ねれば、無言で、鞄から更にチョコレートを取り出した。
無言での肯定に、セインはタカへ振り向いた。
「タカ、一緒に来てくれる?」
「へ?何処へ行くんです?」
急なご指名に戸惑って、つるりと自分の頭を撫でる海賊船のコックに、セインはにっこりと答えた。
「ちょっと厨房まで」
言いながら部屋を出てしまうセインを、タカが慌てて追って行く。
「こんな時間に厨房なんぞで、何をするんだ?」
二人が出て行った扉を見つめながら、ギャンガルドが呟いた。
「ギャンギャンは別に帰って寝てくれて良いわよ」
包装紙を解いたチョコレートの粒を一つ口に含みながら、キャルは冷たく答える。
「何だよ。不信人物を捕まえんの手伝っただろ?」
「そうやって恩着せがましいところ、直した方がモテるわよ」
ちろりと睨めば、ニカッと爽やかな笑顔を向けられた。
気持ち悪い。
「俺は既にモテモテだからな。少しくらい欠点があったって構わないのさ」
実際、モテるのだろう。だからといって自信満々に言い放つところが、またムカつく。
「俺なんぞより、お嬢の方が睡眠不足になるんじゃねぇのか?子供は寝る時間だぜ」
急に頭をぐりぐりと撫でられる。
「首がもげるじゃない!」
ぺしりと、その手を叩き落とせば、叩かれた手をわきわきと動かす。
「子供に子供扱いされたからって、幼稚な仕返ししないでもらえる?」
「だって暇だもんよ」
「だから、部屋に帰って寝たら良いじゃない!!」
睨めば、腕組みをして考え込む。
顔だけは真剣だ。
「いやいや、賢者とウチのコックが揃って厨房に行ったってんだから、きっと何ぞ旨いモンにありつけるんだろ?」
この男は、何故こうもマイペースなのか。
大きな溜め息が、自然に吐き出される。
「お茶を淹れてるだけよ」
キャルは諦める事にした。大きな子供程、相手をして疲れるものはない。
「こんな夜中に茶だぁ?」
「ミルクティーよ。寝る前に飲むと落ち着くのよね」
どうやら期待外れだったらしく、ギャンガルドの眉尻が下がって、なんとも奇妙な表情をしている。
「何よ。勝手に期待しておいて、勝手にがっかりしないでくれる?」
キャルはもう一粒、チョコレートを口の中に放り込んだ。
「そもそも、真夜中に食事しようって方が驚きよ。胃がもたれるわよ」
「夜中だろうがなんだろうが、運動したら腹が減るだろうが」
「呆れた!ちょっと動いただけじゃない!?」
そりゃあ、安眠妨害も甚だしい不届き者を縄で巻いて外にぶら下げたのはギャンガルドだが、こちとら一戦交えている上に、緊迫感から精神的疲労もある。
「だいたい、タカはお茶に誘ったけど、ギャンギャンを招待した覚えは無いわ」
夕食時に、タカをお茶に誘ったもののセインの体調が思わしくなく、彼を呼びに行くことなく寝てしまっていた。
もちろん、お茶だって飲んでいない。
セインロズドから、姿をいつものセインに戻したお茶汲み係の顔色が、いまだに青ざめていたものだから、この男の前に置いておきたくなかったのに。
「つまんねぇなあ」
「お腹空いたんだったらコレあげる」
半ば諦めて、キャルはベッドから飛び降り、鞄の中から紙袋を取り出した。
ぽん、と紙袋をギャンガルドに渡せば、嬉しそうにがさがさと中身を覗き込む。
その仕草が本当に子供のようで、キャルは眉間にできた皺を揉んだ。
「こんなの持ち歩いているのか?」
紙袋の中身を摘まみ出し、ギャンガルドはまじまじと、指の間に挟んだソレを見つめる。
薄いベージュ色の、ちょっと曲がった丸い粒。
「ナッツ類は栄養豊富で非常食に最適よ」
「それくらい知ってる」
「じゃあ、いちいち聞かないでよ」
「だってお嬢、黄金の血薔薇だろ?」
「だから?」
「野宿しないで宿屋に泊まるだろ」
キャルは黄金の血薔薇という二つ名を持つ、腕利きのベッドハンターで、要するに獲物に困りさえしなければ金持ちだ。
そんな自分が非常食にナッツを持ち歩くのが不思議らしい。
「あのね。私は拠点を持たないし、賞金首を狙って移動して歩くタイプのヘッドハンターだから、普通に野宿するし、移動中にご飯なんてザラなのだけど?」
ご丁寧にも説明してやれば。
「成長期のお子様なのに」
哀れなものでも見るかのような顔をされた。
ドン
「うお!」
「・・・・っち」
超近距離でぶっ放してやったのに、寸でのところでかわされた。
「避けるんじゃないわよ」
「や、避けるだろう、普通」
憎たらしい海賊王から視線を外す。
聞き慣れた足音がバタバタ聞こえて、扉が開いた。
「今、銃声が聞こえたんだけど!」
セインが、慌てて乱暴に扉を開けるものだから、壊れた扉は、ついに壁から離れ離れに分裂してしまった。
「大丈夫よ。どこぞの海賊にお仕置きしただけだから」
「あんまり穴開けたら駄目っすよ?」
「そういう問題でもないと思う」
セインの後から、タカも顔を出し、二人でティーポットやらカップやらを手に持って、すぐ横の壁に空いた銃痕や、扉が壊れている事を除けば、微笑ましい光景だ。
特にタカが。
禿げ頭にティーポットは違和感がありすぎだろう。
「お茶もゆっくり淹れられないのはどうなのさ」
セインは半ば呆れ半分に、テーブルの上でお茶の用意を進めていく。
人数分のカップにお茶を注げば、茶葉の芳醇な香りと、ミルクの甘い香りが相まって、豊かな香りが鼻孔をくすぐった。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
キャルはそのお茶を、普通に口にする。
「どうしたの?」
カップを見つめたまま、微動だにしない海賊を、セインが覗き込んだ。
「いやいや」
「何が?」
「いやいやいや」
「…何が言いたいのさ。意味がわからないよ」
自分の分のカップはちゃっかり確保しつつ、手元のミルクたっぷりの紅茶と、聖剣兼大賢者の顔を交互に見やる海賊王は、とても忙しない。
その視線が、何かムカつく。
「いい加減にしないと、切るよ」
セインがにっこりと、あくまでも口調は軽く言い放つ。
「おお?」
「…切られたいみたいだね」
「いやいやいや待て待て待て!」
表情は変えずに微笑みながら、さっさと両手を合わせようとするセインの腕を、ギャンガルドは慌てて掴みかかった。
もちろん、紅茶の入ったカップはテーブルに確保して。
「…離してくれる?」
見た目に反して怪力なセインを押さえるのに、ギャンガルドの腕も震える。
「うん。悪かった。俺が悪かったから、聖剣はやめようや?」
「へー?」
表情を変えずに、セインは掴まれた腕はそのままに、くるりと身体を回転させて瞬時に背中をギャンガルドの懐に潜り込ませた。
次の瞬間、ギャンガルドは床から足が離れていた。
「お?」
ズダン!!
この部屋の下の宿泊客は良い迷惑だった事だろう。気が付けば景気良く床の上に投げ飛ばされている。
「いてて」
「すげぇ…。俺キャプテンが投げられてんの初めて見た」
強かに打ち付けた背中を撫でながら眉をしかめるギャンガルドの横で、タカが目を丸くした。
「そんなに僕のお茶を飲むのが嫌なら、別に無理しないで良いし」
冷ややかに見下ろすセインに、ギャンガルドはニヘラと笑った。
「やっぱ怒らすと恐えな」
パタパタと埃を払いながら立ち上がると、ギャンガルドはテーブルの端に確保していたカップを手に取って、思いきり匂いを嗅いだ。
「あー、良い匂いだぜぇ」
目を瞑り上機嫌に呟いた。
「ちょっと。止めてくれないかしら?」
あまりの気味の悪さに、キャルは顔色が青くなり、セインはその横でコクコクと頷く。
「何だよ失礼な奴だな」
「あんたにダケは言われたくないわ」
だけ、の部分を殊更に強調してやったのに、ギャンガルドは嬉しそうにミルクティーに口を付ける。
「旨い!!お嬢ちゃんは毎回こんな旨い茶ぁ飲んでんのか!?」
「悪い?」
そりゃ、セインと一緒に旅をしているのだから、茶葉さえあれば、いつだってセインが淹れてくれる。
夜のお茶は定番になりつつある。
「子供の体には強いから、必ずミルクや蜂蜜なんかを入れてもらってるけど」
言っている側から、ギャンガルドの目がキラキラし出した。
「タカ!!」
「あー、言いたい事は解ります。さっき茶葉の量やら、手伝いがてら教えてもらいやしたから」
自分のキャプテンが、何を訴えているのか嫌になるくらい理解してしまえるコック長だった。
「大げさなんだよ、ギャンガルドは。だいたい、なかなか口を付けずにイヤイヤ言っていたのは何だったんだよ?」
呆れて、セインが髪をかきあげながらギャンガルドを見やる。
「だって大賢者って手先が不器用そうだからよ。こんな良い匂いの旨い茶を淹れられるのが意外でよ」
「…本っ当に、君って失礼だよね」
セインの眼が据わった。