相変わらずな海賊で
お待たせしました。ようやっと続きです。
無事に投稿も済ませて、これからスピード上がると思います。
「うーん。まいったなあ」
包帯を解けばじわじわと滲み出る血に、傷口が塞がっていない事が分かる。
沁みるのを堪えて血を洗い流し、傷口を綺麗にする。
シャワーから出るお湯が気持ち良く体を温めてくれるのだが、いかんせん、傷が疼く。
早々に切り上げて、手早く傷口を手当して包帯を巻く。
血の付いたタオルを綺麗に洗って、シャワールームから出ると、キャルが鞄の中をごそごそと掻き回していた。
「何をしているの?」
「とりあえずご飯食べに行くのよ」
言われてみれば、もう夜で、そういえばお腹が空いた気がする。
「お財布でも捜しているの?」
ご飯を食べるのに、鞄をひっくり返す理由といったらそれくらいしか思いつかない。
「お財布は肌身離さず持っているわ」
では、ハンターパスだろうか?キャルが賞金稼ぎである事を証明する大事なものだ。しかし、ハンターパスは別にご飯を食べるのに必要は無いのではなかろうか。
「あった!」
不思議そうに覗き込むセインの前で、キャルが引っ張り出したのは。
「あれ?」
「さあ、お腹出しなさい!」
彼女お得意の軟膏だった。
「え、軟膏って、あの?」
「これ、何にでも効くんだから!セインのその傷にだって効くと思うのよ」
擦り傷やら切り傷、吹き出物まで。キャル御愛用の軟膏は、小さな村のお婆さんが作っているとかで、結構貴重な代物だ。
というより。
「バレてました?」
「痛そうにしているなあと思ってはいたけど、多分傷口、開いているんでしょ?」
痛むのは気付いているようだったので、傷口が開いているのは、どうせすぐに塞がるだろうから黙っていたかったのだけれど。
あはは、と笑ってごまかしたら、鼻を摘まれた。
「さっさと薬を塗って、落ち着いてからじゃないと、あのバカイゾクの前になんて、行けないでしょう」
馬鹿と海賊がくっついて、バカイゾク。タカが聞いたら泣き出しそうである。
「おみそれしました」
セインは大人しくベッドの端に座り、巻いたばかりの包帯を解く。
「あーあ。こんなになるまで我慢しちゃって」
半ば呆れつつ、キャルは丁寧に軟膏を塗ってくれる。
「本当なら、今頃セインロズドになって、これくらいの傷、すぐに治っているはずなのに」
「仕方が無いよ。皆が捕まっているっていうのだもの」
「それにしたって、海賊の手助けをするヘッドハンターなんて、前代未聞よ?」
油断ならないギャンガルドと一緒に旅をしている理由は、当のギャンガルドからもたらされた。
ギャンガルドの手下たちが、この国の王様に捕まってしまい、ギャンガルドと王様は取り引きをした。
その取り引きの内容が、セインを王城に連れてくる事だった。
何というのか、王様とギャンガルドは気が合ってしまい、結構フレンドリーな仲らしい。なら、自力で何とかしてほしいものだが、王様が話したセインのことを、知っているとギャンガルドがうっかりしゃべってしまった事により、そんな約束が交わされてしまったらしい。
断れば良いものを、この男は生来の物好きで、その方が面白そうだから、の一言で海賊王の癖に陸に上がり、セインとキャルを捕まえて一緒に行動しているのだった。
「タカに泣き付かれちゃあねえ」
「ギャンギャン一人だったら無視できたのに、その辺狡賢いのよね」
とことん信用のない海賊王である。
「ご飯食べ終わって部屋に戻ったら、少し剣の形態に戻った方が良いわね」
包帯を巻きながら、キャルが溜息混じりに呟いた。
「大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ。部屋には鍵をかけておくし、私が見張っていればどうということはないわよ」
ギャンガルドに見つかって、タカに泣き付かれ、海賊王の船であるクイーン・フウェイル号の乗組員達を王様から救い出すために、王都へ向かって三日になる。
その間、気は張りっぱなしだ。
これでどれだけ目的から遠のくのか。
元々、あてのないモノではあるけれど。
「本当に、厄介だわ」
「早く王都へ行って、国王の用事を済ませてギャンガルドとはお別れしたいね」
「まったくよ。みんな、よくあんなのの手下なんかやっていられるわ」
クイーン・フウェイルで過ごした海賊たちとの楽しかった時間を思い出しながら、キャルはつくづく思う。
我侭で自分の願望に正直で、ある意味猪突猛進。
そのくせ、底意地は悪くて、頭はすこぶる回転が速く、考えが柔らかいから発想が豊かな分、厄介にも何でも見透かしてくれる最悪の男だ。
「さ、出来た」
「ありがとう」
キャルが平たい小瓶に入った軟膏の蓋を閉めると、ご丁寧にも部屋の戸がノックされた。
「うおーい、飯にしねえか?」
ギャンガルドだ。
「ノックする礼儀くらいはあるのね」
セインは上着を慌てて着直し、キャルは足の銃に手をかける。
「だって鍵がかかってるんだもんよ」
二人の緊迫した空気を、知ってか知らずか、返ってくる声は暢気だ。
「鍵がかかってなかったらノックもせずに不躾にも扉を開けて不法侵入を働いていたって事かな?」
「怒ると声だけでも怖いなあ賢者様」
「その呼び方は止めて下さらないかしら?」
「お嬢も怖ぇなあ」
それよりも、わざわざ食事に誘いに来る事自体が気味悪い。
「・・・・・・・・」
二人は構えるだけ構えて、返事をせずに扉を見つめる。
「久しぶりにまともな宿屋でまともな食事だぜ?皆で食いたいじゃねえか」
クイーン・フウェイルのコックであるタカがいたので、野宿といってもそれなりだったが、できる調理は限られる。まともな食事は食べたい。
食べたいけれど。
「気味が悪い」
つい声にしてしまった。
「俺たちゃ海賊だぜ?団体行動ってもんが身に染み付いてんだよ」
「君に一番似合わない言葉じゃないですか。団体行動なんて嘘っぱちでしょう」
「・・・・・」
ぴしゃりと言い返せば、ぐうの音も出なかったらしく、沈黙が返ってくる。
「何やってんすか?」
「いやあ、お嬢たちを食事に誘おうと思ってな」
外から、タカの声が聞こえてくる。
「何、似合わない事やってんすか。お嬢たち呼ぶなら、おれが呼びますよ。先に行っていて下さいよ」
呆れた調子で、タカがギャンガルドを追いやっている。
「タカにまで似合わないってはっきり言われてるわね」
「だって、似合わないもの」
ちょっとおかしくて、二人で笑っていれば。
「お嬢、旦那!飯に行きやせんか?」
タカが扉の前から声を張り上げた。
顔を見合わせて、キャルがとりあえずギャンガルドの気配がないことを確認し、戸を開ける。
「そんなに警戒しなくっても、キャプテンは追い払いましたよ」
苦笑いで、タカが禿げ頭を掻いた。
「ごめんね、タカ。だって、あんまり気味が悪いのだもの」
「あ〜、そりゃ、まあ、そうでしょうね」
あのギャンガルドが皆で一緒にご飯を食べたいだなどと、子供みたいな事を口走る事自体おかしい。
「何か企んでいるとかそういうのでなくてですね、ああ見えて意地っ張りなところがあるもんで」
「意地っ張りの塊でしょう?ギャンギャンは」
「いや、まあ、そうなんすけど」
タカが困り果ててしまっている。
「どうせ、ギャンガルドの事だから、懐いてくれない僕らが悔しいんでしょう」
「へえ」
「それで、だったらいじり倒して反応を楽しもうって言う、何というか迷惑な考えなのでしょう?」
「・・・へえ、その通りで」
タカが、申し訳無さそうに首をすくめる。
「ほんっとうに迷惑だわ」
キャルが両腰に手を当てて憤慨すると、タカはますます首をすくめた。
「すいやせん」
「タカが謝る事はないのよ。苦労するわね、海賊っていうのも」
「キャル、それは」
少し違う気がする。
「まあ、僕らもお腹が空いた事は事実だし、今後の確認も取らないといけないしね。不本意だけど、食事くらいは一緒に取ろうか」
セインがキャルの顔を覗き込めば、キャルは少し考えて、頷いた。
「ま、いいわ。そのかわり、ギャンギャンの奢りだからね」
「なんかもう、ほんと、すいやせん」
なんとか二人の了解を得たものの、タカは本当に申し訳なくて、ただ謝った。
「だから、タカが謝る事じゃないってば」
キャルが笑ってくれたので、タカも笑って応え、三人はようやく食堂へと向かうのだった。
宿屋の一階にある食堂へ下りると、ギャンガルドが三人を目ざとく見つけたらしい。
「うお、ここだ、ここ!」
手を上げて、ぶんぶんと大きく振る姿は、なんだか親父くさい。
「早く頼め。俺はもう頼んだぞ」
座る一同に、メニューを差し出して、ギャンガルドはご機嫌だ。
「キャルは何にする?」
セインはまず、キャルにメニューを渡す。
「そうね、ギャンギャンの奢りだもの。うんと高いものを頼みましょうか」
キャルのわざとらしい一言に、ギャンガルドは眉間に皺を寄せた。
「そりゃ、いつ決まったんだよ?」
「ついさっきよ。海賊王なら海賊王らしく、太っ腹よね?」
その科白に、少々肩をすくめて見せて、こちらもまた、わざとらしく溜息なんぞを吐き出す。
「やれやれ。お嬢には負けるね」
「あ、私、これがいいわ。チーズオムレツと、サーモンの香草焼き。あと、デザートにチーズケーキ。飲み物は紅茶がいいわ。ミルクをたっぷりね」
キャルはキャルで、すっかり海賊王を無視して、注文を聞きに来たウェイトレスに自分の好物を注文した。
「じゃあ、僕は鶏肉のドリアで。紅茶を付けて貰っても?」
「俺はこれ、ハムのステーキに、パンのセットで。コーヒーをくれ」
セインはシンプルにすませ、タカはポテトサラダの付いたハムステーキのセットを注文する。三人が三人とも注文をして、先程のウェイトレスが持って来てくれた水を口に含めれば、ようやくひと心地がついた気がする。
「さて。今日はここに泊まって、明日なんだけど」
キャルがさっさと話を切り出す。さっさと打ち合わせをして、さっさと食べて部屋に戻りたいからだ。
「この嵐だ。明日には晴れるかもしれんが、道が酷い事になっているだろうな」
「馬車じゃ移動できないかもしれないっていう事?」
村や町といったら、大概駅馬車くらいはあるものだ。よっぽど小さな村であれば、話は別だが、そういう時は村人の荷馬車に乗せてもらう事もできる。
「それは、嵐が止んでみない事には分からねえが、十中八九、倒木やら何やらはあるだろ」
できれば、あまりセインに無理をさせたくない。
馬車が使えないとなると、ここに来るまでと同じ経緯で、徒歩になってしまうのだが、それはなるべくなら避けたかった。
先程の様子では、セインの傷は普段より治りが遅い。深い傷を負ってしまえば、気の遠くなるような歳月を生きて来た彼とて、不死身ではないという事なのだろうか。
「そもそも、ここは駅馬車があるの?」
セインがコップをテーブルに置きながら、誰にともなく問いかける。
「・・・・・多分?」
ギャンガルドが、確かめていなかった事を無責任にそう言うので、セインは呆れてしまった。
「そのすっ呆けたような顔は、分からないって事なんでしょう?全く君は、子供みたいで困るよ」
ギャンガルドはにっと笑う。
そもそもこの男を子ども扱いするような人物など、目の前のセインくらいで、それが面白いらしい。
「私たちをこの村まで連れてきたのはギャンギャンでしょう?村のことは知っているんだと思ったけど」
これまた、海賊王をギャンギャンなどとあだ名で呼び、ちっさい癖に生意気で、対等に口を利く子供も、向かいに座るこの賞金稼ぎの少女くらいなもので。
「俺にそんな口を利く女なんざ、俺のカミさんくらいなもんだ」
「あら。そのカミさんと私、きっと良いお友達になれたわね」
「なんで?」
「あんたの悪口を言い合えるからよ。思いっきり同情するわ。きっと私たち、気が合ったでしょうね」
ぴしゃりと言われて、ギャンガルドは口をへの字に曲げた。
「キャプテンのカミさんって、どのカミさんです?」
「あ、おま、馬鹿余計な事を言うんじゃねえよ」
運ばれてきた食事に喜びながら、タカが思わぬ事実を暴露した。
「あっら、そうでしたっけね、港という港に、奥さんがいるんでしたっけね」
「モテる男は甲斐性があって大変だねえ」
もちろん、ギャンガルドに対等な口を利いていた奥さんというのは、ギャンガルドが真剣に愛して伴侶にした女性の事なのだが、彼女についてはギャンガルドは自分の手下にも話していない。なにせ、彼女はもうこの世にはいないのだ。
それでも、この男の事なので、他にも女性がいるだろう事は、おおよそ予想が付いていた。だから、平気で手下の前で、カミさんなどと口走ることができるのだろうし。
それにしても。
「サイッテーよね」
キャルの一言には、大きな棘が突き出ていた。
「そうは言うけどなあ、全員本気だぜ?ニーベレッドのとこに行くときゃニーベレッドの事しか考えねえし、リャコムリカのとこならリャコムリカの事しか考えねえし」
女性の名前だけで国が違う事がなんとなく分かるあたり、流石に海賊といったところか。ニーベレッドは西の国の名前だし、リャコムリカは北の国の名前だ。
「当然です。女性の元に行く時に、他の女性の事など考えていたら、失礼というものです」
「だいたい、逃げ口上よねそれ。一夫多妻が効率的だなんて、太古に滅んだ考え方よ。獣だわ。原始人だわ」
「そうっすよね!俺なんかマーゴット一筋ですぜ!」
「そこでお前が嫁の名を口にするかコラ」
そんな会話をしているうちに、全員分の食事が綺麗にテーブルの上に並べられた。
「タカにお嫁さんがいるのかー」
「へえ、もう、可愛くって」
でれでれと顔を真っ赤にするタカに、場の空気は一気に和んだ。
「宿屋の人に聞いてみれば、馬車の事も分かるだろうけれど」
ギャンガルドによって大きくずれた話題を、ここぞとばかりに元へ戻すセインに、キャルはちらりと視線を寄越して、オムレツにスプーンを差し込んだ。
「そもそも、この村はお前さんたちを追っかけている途中で立ち寄っただけだから、あんまり詳しくないんだよ」
赤ワインを飲みながら、ギャンガルドは悪びれた様子も無い。
「私たちを追っかけて、なんで逆側に来ているのよ」
キャルたちが通った道筋と、この村は外れている。
「とりあえずあの森の向こうに向かったって言うのは聞いていたから、どの道でも森に着ければ見つけられるだろうと思ってな」
余り深くは考えていなかったらしい。
「それで擦れ違っていたらどうしたのさ」
「森の中か、森を抜けたどっかで会うだろ?」
確かに、二人はゼルダの森を抜けた先の遺跡を目指していた。
結局のところ、ゼルダの森の中の屋敷で出会った人形師から聞いて、そこに目的の探し物はなかったことが分かり、次の目的地を探そうとしていた所で、この連中に発見されてしまったわけなのだが。
「駅馬車の有無くらい、普通調べるでしょう?」
「駅馬車の使い方が良く分からん」
「「・・・・・・はあ」」
キャルもセインも、同時に溜息をついた。
そういえば海賊は、ほとんど馬車なんか使う必要はないわけで。
「じゃあ、どうやって私たちの後を追って来たのよ?」
「馬?」
その馬をどこでどうやって調達して、どこへやったのか。
なんとなく想像が付いて、キャルは眉尻あたりに青筋が浮かんだ。
「良い値で売れたのでしょうね」
「元手がかからなかったわりに高値が付いたぜ。俺の見立ては正しかったな」
すなわち、王様に借りたか貰ったかした馬なのだ。それをある程度道程が進んで、お金に困ったところで売り飛ばしたということで。
「馬の二頭くらいでつべこべ言うような尻の穴の小ささじゃ、国王なんざやってられねえだろ」
「そういう問題じゃないし」
相変わらず、やる事が豪快だ。




