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HEAVEN!ヘヴン!HEAVEN!3  作者: coconeko
13/15

不運と幸運

「うんっ?!」

 痛む背中に目を開ければ、見えたのは岩や土ばかりで、他に何も見えない。

「え?」

 慌ててきょろきょろと見渡せば、それは目の前だけで、キャルの後ろにはちゃんと地面と川と、空があった。

 一瞬、ほっとしたが、何かが足りないことに気が付く。

「セイン?」

 さっきまでそこにいた長身が見当たらない。

 ザッと、全身の血が音を発てて引いていく。

 うるさく響く心臓を無理に押さえつけて、もう一度良く周りを見渡す。

「…セイン?」

 足元の土砂から、手が覗いていた。

「セイン!セイン!」

 名前を呼べば、ぴくりと動いた。

「セイン!」

 キャルが手を握れば、確かに握り返された。

「今、出してあげる!」

 土砂を素手で掘り、キャルはセインの名前を呼び続けた。

「誰か!タカ!ギャンガルド!誰か助けて!」

 自分以外に人がいることを思い出し、ようやく助けを呼んだところで、タカが走って来るのが見えた。

「お嬢!大丈夫か!?」

「タカ!タカ!助けて!」

 深くえぐれた斜面の下に出来た土砂の山に、タカは最悪の事態を予想したが、助けを呼ぶキャルの手を握る土砂から生えた手に、それは無いと一瞬安堵したが、悠長な事も言っていられない事に代わりはない。

「お嬢!そのまま旦那の手、握っててくれや!離すんじゃねえぞ!」

 言うなり、タカは土砂を除けながら、崖の上を見上げた。

「キャプテン!こっちだ!」

 見上げた先には、残った木々を器用に利用しながら駆け下りてくるギャンガルドがいた。

「旦那!生きてるか!?」

 視線を元に戻すと、土砂をどける作業に戻る。

 道具もなにもない状態で、手作業だけで掘り進めて行く。

「上の連中は始末してきた。生きてんのか?」

 到着したギャンガルドが、そのままタカの横で作業を始めた。

「くそ!こんな事ならさっさと殺しておけばよかったんだ!」

 ギャンガルドの物騒な呟きに、キャルもタカも海賊王を見上げた。

「殺すって・・・?」

「気絶していた連中が、目を覚ましてやがったんだよ。あいつら下にお前らがいることを知ってて爆破しやがった」

「なんっ!」

 その爆破した連中を捕まえ、動けないようにしてから降りてきたのだという。

「まさか、賢者が埋まってるなんざな」

 大きな岩をギャンガルドとタカの二人がかりで川へ落とすと、セインの身体が土砂の中から見えた。

「あたしにも手伝える事はないかい?!」

 気が付けば、ジャムリムがキャルの背後に立っていた。

「あの男は?」

「まだ気絶してる。チョッキを近くの木ごと着せてきたから、抜けられないと思うよ」

 木の幹に男をもたれさせかけ、着ていたチョッキを背中の木を包むように着せかけて、腕をチョッキに無理やり通せば、地面に生えた木を背負う形になる。

「そりゃ、またけったいな」

「こんな事する連中に遠慮はいらないだろ?」

「確かにな」

 汗を拭いながら、ギャンガルドは土砂の隙間から見えるセインの体を覗き込む。

「やあ、面倒をかけるね」

 岩の間にちょうど良く挟まったのか、意外にもセインは元気だ。

「セイン!あんた喋れるの?」

 キャルがセインの顔に手を伸ばすが、届かない。

「ごめん。何だかぴくりとも身体が動かないんだ」

 土砂の圧迫によるものなのか、どこか痛めているからなのか。

「待ってろ。今出してやる」

 ギャンガルドの、珍しく真剣な口ぶりに、セインは思わず苦笑する。

「笑ってる場合かよ」

「だって、君のそんな顔、滅多に見られないだろ?」

 土砂に体のほとんどを埋めたまま、そんなことを言うセインに、流石の海賊王も呆れた。

「余裕じゃねえか。体のどこも痛くねえな?」

 にやりと、いつもの調子を取り戻して、ギャンガルドが不敵に笑う。

「大丈夫。動かないだけで感覚もちゃんとある。運が良かったよ」

 土砂の中で表情は良く見えないが、セインも笑ったような気がした。

「旦那、元気なんだったら引っ張り出しても大丈夫なんじゃねえですか?」

 先程二人がかりでどけた岩の反対側も、どうやら岩があるらしく、それが壁の役割を果たしてセインは無事でいるらしい。少し間違えば、その岩と岩の間で挟まれて押しつぶされていてもおかしくはなかった。

「強運ですね」

「はは」

 タカの言葉に、押しつぶされても、果たして自分は死ねるのかな、などとセインは思ったが、口には出さなかった。

「引っ張り出すって言っても、真っ直ぐ水平に引っ張ってくれないと、多分抜けないと思うのだけれど」

 身体が縦になっていれば土砂を掘り下げて脱出も可能だっただろうが、セインは横倒しのまま埋まってしまっている。体にのしかかる土砂をどけるには、土砂の量が多い上に危険が伴った。なら、引っ張って抜いてしまうのが楽なのだが、それはそれで、腕を引けば土砂の圧力で肩が抜けるか、下手をすれば腕が折れてしまう可能性もあり、水平方向に引っ張る事ができなければ、背骨を傷める可能性もあった。

「あたしがやる」

 ずい、と、キャルがセインのいる土砂の隙間を、手で掘り広げ始める。

「キャル?!危ないよ!」

 慌ててセインが止めにかかったが、それで言う事を聞くキャルでもないことは、場の全員が知っていた。

「どのみち、こんな隙間、お嬢しか潜り込めねえ。お嬢を俺たちが手伝うから、大人しく引っ張られとけ」

 諦めたようにギャンガルドが言う。

「あ。じゃあ、キャルちゃん。これ使えるんじゃない?」

 ジャムリムが取り出したそれは、あの幅の広いナイフと、針金やロープ。

 セインが捕まえた男の持っていた、盗人道具だった。

「ナイフはスコップの代わりになると思わないかい?」

 言われてみれば。

「何本あんだ」

「人数分持ってきた。落ちてんだもん」

 セインとギャンガルドが連中と格闘したさいに投じられたものだろう。

「そんなに投げていたっけ?」

「さあな。落としたんじゃねえの?お前さん一本持っていたしな」

 どちらにしろ、今は利用させてもらうに越した事はない。

 土砂の中と外でそんな会話を交わすくらいには、余裕が出てきていた。

「これ、凄く掘れるわ」

 ざっくざっくと、キャルはナイフで土砂を掘る。

「もともと、崩れた土だからな。柔らかい上にナイフの刃が刺さりやすくなってんだろ」

「物は使いようってやつっすね」

「キャルちゃんが入れるくらい広げたらどうすんの?」

 四人でざくざくとナイフを使って、土砂の隙間の入り口を掘れば、あっさりと子供一人分の穴が出来た。

「なんならこのまま掘ってく?」

「それは最終手段だろ。引っ張ったほうが早い」

 ジャムリムとギャンガルドが話している間に、キャルはさっさと隙間に潜り込んだ。

「あ。これ持っていって」

 そのキャルに、ジャムリムが自分のハンカチと、短いが盗人道具のロープを差し出した。

 隙間から後ろ手に伸ばされたキャルの手に、それらを握らせると、瞬く間に潜って行く。

「賢者の手はまだ出ているな?」

 ギャンガルドが確認を取れば、タカが勢いよく返事する。

「へえ!ちょいとお嬢の足が邪魔ですがね」

 言えばキャルの足がぶんぶんと動いた。

 邪魔と言われて腹が立ったらしい。

「キャル、あんまり動くと崩れるから」

 土砂の中からセインのたしなめる声がした。

「早くしねえと、またいつ崩れるかわかったもんじゃねえ。このままでいてくれりゃあ、いいんだが」

 いつになく、ギャンガルドが心配そうだ。

 土砂の中の二人は、大丈夫なのだろうか。先程から、何か話し合っているようだったが。

「あれ?それでどうすんです?」

 タカが、誰かと話し始めた。

「ああ。手?お嬢、ちょっと一回出てくれませんかね?」

 言うなり、足だけはみ出ていたキャルが、もそもそと戻って来た。

「ありがとう。それで、もう少しロープないかな?」

 どうやら、セインの体をロープで括って、それを引っ張らせるつもりらしい。

土砂から出ていたセインの手が、隙間の中に引き込まれた。

「ロープはないけど、針金なら」

「気が利くね。ありがとう」

 ジャムリムがキャルに渡すと、土砂の中からセインが礼を言った。

「それで、どうするんですかい?」

 タカが、隙間を覗き込んだ。

「セインロズドになれないの?」

 キャルが唐突に言った

 そういえば。聖剣があれば、姿を変えて引っ張り出す事も容易いのではないだろうか。

 タカもギャンガルドもそう思ったが、事はそう簡単でもないらしい。

「土砂がかなり圧迫しているからね。僕の面積が小さくなる分、この隙間が勢いで埋まる確率が高いんだ。それに、括ってもらったところで、僕の大きさに括っても、意味ないだろう?ロープが抜けちゃうから」

「じゃあ、どうするんで?」

「だから、僕の体をロープでくくってもらうくらいなら、短くても何とかなりそうだから、それをそのままキャルに掴んでもらって、君たちはキャルと僕を引っ張り出してくれないかな」

 短いロープの代役を、キャルにやってもらうという事らしい。

「わかった。抜けんじゃねえぞ」

 ギャンガルドが了承すると、針金とロープを解けないように一本に結びつけ、キャルが再び穴の中へ潜って行く。

 コロコロと、土砂の上から小石が落ちてきた。

「まずいね。小石が落ちてくるなんて、また崩れるんじゃないかい?」

 ジャムリムが不吉な事を言う。

「おいおい。小石くらいどうってことねえんじゃねえのか?」

「ギャンガルドは海賊だから知らないんだろうけど、こういう崖崩れは小さな石が落ちてくるだけでもまた崩れる前触れなんだよ!」

 陸の事は良く分からないが、ジャムリムはこの土地で生まれ育っている。なら、彼女の言う事は真実だ。ギャンガルドは二人を急かした。

「早くしろ!」

 しかし、セインからもキャルからも返事がない。

「おいおい」

 キャルの足は隙間からはみ出ているが、セインの腕は作業のために中に入ってしまって見えない。

 先程小石が落ちてきたあたりから、今度はざらざらと砂の塊が滑り落ち始めた。

イライラと二人の合図を待つのが、やたら長く感じられる。

「引っ張って!」

 キャルの声が聞こえたと同時に、ギャンガルドとタカがキャルの足を引っ張り、ジャムリムがその二人の腰のベルトを更に引っ張る。

「せえの!」

 掛け声を掛け、ありったけの力で引っ張るが、キャルの足が浮くだけでびくともしない。

「痛いってば!上に引っ張んないで真っ直ぐ引っ張れって言われたでしょう!」

 くぐもったキャルの叱責に、三人は重心を低くして引っ張った。

 ずるり。

 まさにそんな感じだった。

 斜面の上から、大きな一塊の土砂が、滑り落ち始めた。

「くそ!」

 目端に見える土砂崩れは、感覚的にスローモーションのようだ。

しかし実際はとてつもなく早い。

その時。

 くん、と、セインの身体が何かから抜けたような感じがした。

 一瞬軽くなったと思えば、あとは転がるように引っ張り出した。

セインの足が完全に抜けた頃。目の前を大量の土砂が津波のように通り過ぎていった。

「た、助かった、のか?」

 土砂は川を堰き止める勢いだったが、完全に塞ぐまでにはいたらなかったらしい。水は形を変え、土砂を迂回して流れ出す。

「はは、君たちのおかげだよ。ありがとう」

 土にまみれてぼろぼろのまま、セインが全員に頭を下げた。

「こんな事になるなんて、本当手間がかかるんだからあんたは!」

 ぼろぼろと、大粒の涙をこぼしながら、キャルがセインをぽかぽかと殴る。

「ごめん、ごめんよ。心配かけた」

「あんたなんか、引っこ抜くんじゃなかった!わあああん!」 

そのまま大泣きし始めたキャルの頭を胸に引き寄せて、セインは何度も謝りながら、キャルの土だらけになったふわふわの髪を撫でる。

「あーあ。こんなスリル、経験するものじゃないわねえ」

 ぺたりと、ジャムリムが座り込むのを皮切りに、ギャンガルドもタカも、一斉に笑い出した。

「な、なんだか、ホッとしたら、笑うしかねえっていうか」

 タカが、目に涙を浮かべて笑う。

「あー。疲れたぜ」

 ギャンガルドが地面に座ったまま、汗を拭う。

「体は大丈夫なのか?」

 聞かれて、セインは力なく自分の足を見た。

「あぁ?」

 ギャンガルドはまだ泣き止めないタカに頼むわけにも行かず、立ち上がるとセインの傍でしゃがみ込む。

 まだぐずるキャルの頭を抱え込んだままのセインの足を掴めば、セインが顔を顰めた。

「・・・痛むのか」

「骨は無事みたいだけどね」

 その言葉に、キャルが顔を上げてセインを見上げた。

「ごめんね?」

 また謝るセインに、キャルは何も言わずにしがみ付く。

「ちょいと、見るぞ?」

 ギャンガルドがセインのズボンの裾をめくりあげれば、それだけで痛むのか、体を強張らせる。

「あー。こりゃ・・・」

 土砂の圧迫で足が内出血を引き起こし、紫色に腫れ上がっていた。

「両足共か」

「・・・みたい。まさかこんなになっているとは思わなかったけど」

 壊死の一歩手前だったのはよしとするべきか。

 せっかく腹の傷が癒えたばかりだというのに、なんというか。

「お前さん、運が良いのか悪いのか。わからんなあ」

「しみじみ言わないでくれる?」

 これでは立つ事もままならないだろう。

「あらあ?」

 ジャムリムが、素っ頓狂な声を上げた。

「なんです?」

 タカが訊ねれば、土砂の川岸の隅を指差す。

「あれ」

 見れば、よろよろと人の形をした土の塊が立ち上がっていた。

「何だありゃ」

 見ていると、うーん、とうめいて、そのまま川へ落ちた。

 水に流されるのをそのままに観察していれば、流れに洗われて、本来の姿が徐々に見えてくる。

「あれはー」

 セインがぽつりと呟いた。

 土砂が崩れるまで、セインが担いでいた男だった。

「仲間がいても爆破するんだから、たいしたもんだ」

 タカが呆れたように呟いた。

 しかし、誰も彼を川から引き上げようとはしない。

「彼こそ運がいいんじゃないかな。僕なんか埋まった挙句にこれなのに。放っといてもこれだけ運がいいなら生き延びるよ」

 セインの言葉に、皆が頷いた。

「そういや、剣はどうした?」

 流れ下る男を眺めていたギャンガルドが、ふと思い出したらしい。

「あぁ。そこらに転がってなければ、多分この中だね」

 転がっている確立は低そうだ。なにせ、土砂に飲み込まれるまでセインが手に握っていたのだから。

「キャルを突き飛ばしたときに、流れていった彼と一緒に手放しちゃったからなあ。出てこれるかな?」

 暢気なセインの呟きに、ギャンガルドは額を手で覆った。

「おいおい、勘弁してくれよ。これを掘り返すなんざ、俺はもうごめんだぜ」

 それに、セインはきょとんと返す。

「へ?ああ。そうか。知らないんだっけ」

「あ?」

 何を知らないというのか。とにかくどうしたものか口を開いたギャンガルドだったが。

「彼女は?」

 きょろきょろと見回すセインが探しているのは、ジャムリムらしい。

 彼女は男が流れていった方角を眺めていた。

「見てないなら大丈夫かな」

 なにが、と言おうとして、ギャンガルドは口を開きかける。

「おいで」

 セインが片手を高く掲げて呟いた事で、開いた口は別の言葉を発した。

「なんだ。その、愛玩動物を呼ぶような呼び方は」

「忘れてるでしょ。僕はセインロズドで、セインロズドは僕なんだよ」

 と、いうことは何だ。自分を呼んで「おいで」なのか?

 言いたい事はあったが、掲げられたセインの手の中に、いつの間にやら聖剣が握られていた。

「どっから出した」

「どっからって、埋まっていたところから?」

 泣き止んでもセインから離れようとしないキャルを抱えたまま、セインは自分の剣を横に凪いだ。どうも土が付いていたらしい。剣先から土が飛んだ。

「あー。汚れちゃってる」

 もそりと、キャルが立ち上がると、セインに手を差し出した。

「洗ってくれるの?」

 真っ赤に泣きはらした顔で、こくりと頷いたキャルの手に、セインロズドを渡すと、それを抱えて、とてとてと、川岸へ歩いていく。

「キャルを泣かせちゃったな」

 そんなことを気にしているセインを、ギャンガルドは眺めやる。

「さっきから、何?」

 流石に、助けてくれたとはいえ、すぐ傍でじっと見られればいい気はしない。

「別に」

「別にで君は人の顔を見るの?」

 どうも何を考えているのか分からない。

「いやあ、セインロズドに姿を変えられるんだったら、その方が土砂から抜けやすかったんじゃねえかなあと思っただけだ」

 なんだかごまかしているような気がして、セインはギャンガルドを睨んでみたが、にかりと笑われれば、溜息しか出てこない。

「わかってて言っているんでしょう。足がこんな風になるくらいだもの。僕の面積が小さくなれば、余計に土砂に埋もれただろうね」

 土砂の重みというのは物凄い。岩に守られていたからといっても、少しの均衡が崩れただけで更に状況は悪化していただろう。道具のほとんどないあの状況では、早々に掘り返すことも出来なかったのだから、一気に引き抜くしかなかったのである。

 そこに、キャルが帰ってきた。

 無言でセインロズドを差し出す。

「あ。ありがとう」

 差し出されたセインロズドを、セインは手の平の中に収めた。もちろん、ジャムリムの目を気にしてだが。

「で?どうするよ」

 今度は背中にキャルを貼り付けたセインを、ギャンガルドは見下ろした。

「本当だったらセインロズドになってタカかキャルに運んでもらうのだけど」

 そこでギャンガルドの名前が出ないのは、もう仕方がないのだろう。

「ジャムリムの事だったら、気にしなくていいんじゃないか?口は堅い女だぜ」

「そうだろうけど」

 なるべくなら、見せたくない。噂はどこから広まるかわからないというのもあるが、女性の心臓にはあまりよろしくない自覚はある。

「なんにしたって、ここにずうっといるわけにはいかねえんだ。行くぜ」

「わあ!」

 言うなり、ギャンガルドはセインを背負った。

「ちょ、ギャンガルド!」

 抗議するセインだったが、抵抗するわけにも行かない。なにせセインの背中には。

「あら。亀の親子みたいで可愛いじゃない」

 ジャムリムがそう感想を漏らすのも仕方がない。ギャンガルドはキャルを背中に貼り付けたままのセインを背負っているのだ。

「キャル、落ちないでよ?」

 背中を気遣えば、キャルの手にぎゅっと力がこもった。

「キャプテン、それでこの斜面を登るんで?」

 タカが心配そうにおろおろしている。

「何。しがみ付いてりゃ落としゃしねえだろ」

 ギャンガルドの無責任な言葉に腹も立ったが、それしか方法がないのだから仕方がない。セインは諦めて、ギャンガルドの背中にしがみ付く事にした。

「何かあったら首でも絞めればいいしね」

 物騒な事を口にした。


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