嵐の前の嵐
お待たせいたしました。HEAVEN!ヘヴン!HEAVEN!シリーズ続編です。
ギャンギャンのせいで、探し物を探す道筋から脱線しまくっている二人ですが、これでも精一杯努力している凸凹コンビです。
投稿用の小説と、平行して書いていますので、UPが遅くなるかと思いますが、よろしくお願い致します。本当は、もっと時間に余裕のあるときに書こうと思っていたんですが、友人に急かされました。
轟々と風が吹き荒れ、バケツをひっくり返したような雨が降り注ぐ。
雨にけぶる中、街道を、小さな人影が一つと、大きな人影が三つ。風に飛ばされまいと、固まって進んで行く。
互いの声は、雨音と風音にかき消されてしまわない様、自然と怒鳴り声になる。
「何でこんな嵐になるのよ!」
「仕方ないよ、もう少しで村に出るから、頑張って!」
小さな影は少女で、背の高い人物に、しっかりとしがみ付いている。
「嵐になりそうだから、急げって言っただろう」
先頭に立つ大きな影は、少女を振り返りながら、平然と答える。
「急いでも間に合わなかったんだから、仕方ないでしょう?!」
「もう、野宿四日目っスからね。しかたないっスよ」
最後尾にいる影が、頭からかぶったマントを、頭に巻いたバンダナごと、飛ばされないようにしっかりと掴み直す。
すぐそこにいるはずの、お互いの顔さえ、降り注ぐ雨と、叩き付ける風で良く見えない。
「こんな状況で、本当に道は合っているんですか!?」
少女を庇いながら歩く背の高い人物も、普段掛けている眼鏡を外し、しがみ付く少女ごと、マントで体を隠す。
「俺を信用しろよ」
「信用出来ないから言っているんです!」
怒鳴り声が、一際大きくなった。
「っつ・・・」
「セイン!」
少女は、自分がしがみ付いている人物が、眉をしかめているのに気が付いて、彼が持ってくれていた自分の大きな鞄を、無理やり奪い取る。
「キャル?」
「あんた、まだ傷が治っていないんでしょ?無理しないで!」
こそこそと、この大雨でも、他の二人に悟られないよう、声をひそめる。
「どうした?」
先頭の男が振り向いたのを、少女は睨んだ。
「何でもないわよ!それより、いつになったら、宿屋に着くのよ!」
「もうすぐだって言ってるだろ?」
「そのもうすぐが長いのよ!」
先程から、この風と雨とで視界が悪く、進んでいるのか後退しているのか、おかしな錯覚に捕らわれるというのに、この男の、いつもの飄々とした態度が気に入らない。
早く休ませなければ。背の高い青年の、息遣いが徐々に荒くなっているのは、気のせいではないだろう。しかし、だからといって他の二人に、この青年を任せる気には最早なれない。
それは、セインと呼ばれた当の青年も同じらしく、気付かれないように、普通を装って歩く。目の前の、日に焼けた精悍な顔立ちの、いいかげんなくせに勘の良い、飄々とした男には、気付かれている可能性は高いが、知らない振りをする。
理由は一つ。
少女は、世間にその名を知られた「ゴールデン・ブラッディ・ローズ」の異名を取る賞金稼ぎで、キャロットという彼女の本名より、この通り名を示せば、大概の賞金首は恐れ戦く。
また、彼女を庇って歩く背の高い青年は、ひょろりとした体型からは想像もできないのだが、これでも伝説の聖なる剣、大賢者セインロズドの本性である。
そしてこの二人を挟む男二人。最後尾の禿げ頭は、少女からの信頼を得ている腕の良い料理人であるが、先頭の男の、不幸にも部下だ。
そして、問題の先頭を行く、日に焼けた褐色の肌に、精悍な顔立ち。白い歯を見せて、ちょっとニヒルに笑えば、大概の女性はそれだけで落とせてしまうような男前のこの人物は、世界に名の知られた大海賊。海賊の中の海賊と唄われる海賊王、ギャンガルドである。
この海賊王と、少女等が出会ったのは最近の事なのだが、とにかくこの男。信用が出来ない。
二人を気に入ったと言いながら、常に伝説の聖剣であるセインを欲しがっている節があり、諦めたと言いながら、何かとちょっかいを出してくる。
今回仕方なく同行しているのだが、それも二人がこの海賊王の厄介事に巻き込まれた為だ。
なので、こんなに危険極まりない人物の前で、先日負ったばかりの怪我が治癒できなくて、この嵐のおかげで疼くなどと、悠長な事は言っていられないのである。
「がんばって!」
「うん、ごめんね」
マントの中で、ずぶ濡れになりながら、二人はギャンガルドから視線を外さない。
「よっし!入り口についたぞ!」
そのギャンガルドの大声に、顔を上げれば、暗い風景の中に、雨に叩きつけられて黒く霞んだ村の入り口を示すアーチ型の看板があった。これをくぐれば、ようやく村の中だ。
一同は、急ぎ足で看板を潜った。
手際良く、禿げ頭のタカが、走り出て宿屋を探してくる。これでようやく一息つけると、キャルもセインも、ほっと胸をなでおろした。
タカが見つけて来た宿屋は、この大雨で客足が遠のいたためか、宿泊客もまばらで、余裕で部屋を取る事が出来た。
「こんなに早く見つけてくるなんて、タカはやっぱり信用できるわ!」
「いやあ、雨のおかげさあ。お嬢にこんな褒められると、照れちまう」
ギャンガルドと同室になるわけにはいかないキャルとセインには非常に有難く、タカをめいっぱい褒め称える。
「じゃあ、明日、天気を見て出発しましょ」
「僕たちは部屋に上がるから。また後で」
そそくさと、割り当てられた部屋へと向かう。
ギャンガルドが何か言いたそうだったが、有無を言わせなかった。口を開けば、ろくな言葉が出てこないのがギャンガルドだ。
部屋に着くと、キャルの鞄からタオルを取って、シャワー室へキャルを向かわせると、自分はもう一枚のタオルで体中を拭いた。じわりと、腹に巻いた包帯から、赤い血が滲む。
「・・・・・っ」
眉をしかめて、痛みをやり過ごす。
思っていたより、傷の治りが遅いのは、なかなか剣の形態を取れないからだろう。
セインは、構造は良くは分からないが、剣の姿をとる事ができる。剣になれば、大概の怪我は、人型でいるより治りが早い。人の形を取るよりエネルギーを使わない為であるらしい。それでなくとも、通常の人間よりも、遥かに治りが早い。
だが、今回はなかなかそうも行かないようだった。
「しっかり、串刺しにされたからなあ」
キャルと友達になりたいと、セインを貫いた、紛い物の命を持った少女。
ある人形師の想いが、紛い物の少女を作り出し、その想いは、いつか彼女本人の、人間でありたいと願う想いにすり替わり。
人の思いは、それほどまでに強いのか。
「人のことは言えないか」
自分の過去を思い出して、ふと息をついた。
それにしても、あまり負った事もない大怪我をしてしまった。
「ちょっとだけ、剣に戻りたいんだけど」
その隙を突いて、あの海賊王に攫われないとも限らないので、迂闊な行動に出られない。なにせ、彼には前科がある。
やはり、怪我を負ったセインを掻っ攫い、セインもキャルも、たいそう苦労をした。
「セイン!」
ばん!と、シャワールームの扉を勢い良く開き、湯煙と一緒にキャルが飛び出す。
「ど、どうしたの?」
あまりに早い湯上りに、シャワーが壊れてでもいたのかと、セインは腰を浮かした。
「あたしはもう充分にあったまったから、さっさとあんた入りなさい!」
濡れた服も着替え、タオルを頭から被って、びしりと、こちらを指差す少女に、一瞬ぽかんと呆けてしまったが、次の瞬間、つい笑いがこみ上げる。
「何笑ってんのよ!あんたが風邪引いたら困るのはあたしなんだからね!」
「ああ、ごめんごめん。今、入るよ」
不器用な思いやりに、セインはついつい笑ってしまって、彼女の反感を買う事が多い。また、いつものように殴られる前にと、着替えと包帯を持って、血の滲み出た腹を隠しながら、シャワー室に向かった。
しょっぱな短くってすみません。
ちょこちょこまとめてからUPしようと思っていましたが、それだとずいぶんお待たせすることになるので、とりあえず。今から謝ります。今回は更新遅いです。本当に申し訳ありません。