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竜胆の潮風2

 自分は特別な人間です、他の人とは違います。だなんて幼年期の万能感からくるものなんだ。

大体そんなものは思春期やら社会人になるまでに打ち砕かれる。

たまに見るのはその事実を認められずに生きてしまった人が周りから孤立しながら名無し草となっている事かな。

そーゆー事が大人になる事なのかもしれない。月並みであるとは思うけど。

俺は自転車を走らせながら小岩さんに聞かれそうなことを適当に考えている。


弁財天から坂を下って自転車を回収したら駐輪場代で1000円近く取られたのである。

何であんな高いんだよ…家の最寄駅のとこ一日置いて300円だぞ? 小一時間でお札が一枚消えていくのはどうなんだ…おかしいだろ。


「この辺りだと仕方ない部分はありますよ、地元の人はあまり行きたがらないのはそれが分かっているので」

あーあれか、観光地価格ってやつか。

「観光地価格…そうかもしれないです。 この街はそれなりに有名な観光名所がありますから」

確かに、専門のハンドブックが出来る位には有名な地域だもんな。はぁ、お財布が寂しくなってしまいましたよ。ただでさえ薄い財布だっていうのに…


「吉川さんてそんなにお金使う様な方には見えないんですが、そこまで厳しいんですか?」

お金はあればある程役に立つからね、貯めておくに越した事はないよ。コツコツは勝つコツってね

「…え」

…分かった、俺が悪かったから小岩さん渋い顔しないで下さい。 女の子が眉間に皺を寄せるんじゃありません。

「急に木枯らしでも吹き抜けて来たのかと思ったのでつい…私言葉遊びは好感持てるんですが親父ギャグはちょっと嫌いなんですよね…」

えぇ…その境目って何処にあるんですか…

「そうですね…誰にでも分かるのが親父ギャグで分かる人だけ分かるのが言葉遊びでしょうか?」

結局それって主観ではと思いながらも次の行く先を聞く。


「実はすでに向かっている場所なのですが私個人としては気乗りしない場所でして…」

気乗りしない場所にわざわざ足を運ばなくてもいいのでは?

「それがですね…絵にはなるんですよ」

なるほど? 絵の題材としては申し分ない場所であると?

「そうです。 ロケーションも良いですし、何よりものが多くないので描きやすいんです」

それは地域の風景画ってテーマで描くのならピッタリなんじゃない?

「ぴったりなことはピッタリなんですけど…そのせいで弊害があるんです」

弊害…?

「…今日は天気もいいですし、一旦そっちに行ってみましょうか」

そっちってどっちなんです?

「海ですよ、海。 吉川さんもしかしてですけどあれ以来海苦手になってたりしていますか?」

あ…考えたことなかったな。

あの時の黒くて得体の知れない海じゃないし、昼間だし小岩さんいるからね。

まーまたなんかおかしな行動を俺がしたら思いっきり頭ぶったたいてくれて構わないよ。

「そうならないことを祈りますけどね。それに吉川さん初めて会った時より顔色良いですし…そんな簡単に死にたいなんて思ってくれたら私が困ります」

小岩さんはそう言って自転車を漕ぎ始めた。


 住宅街からこの地域の海岸までの距離は近く、ものの十分も経たないうちに潮の香りと波の音が遠巻きに聞こえてきた。

この地域が観光地スポットとなっているのには、この海岸が安定した砂浜海岸であることらしい。

部下の新座曰く岩石質の海岸だったり、海に面しているのがそもそも崖の場所も多いのだとか…

どこでそんな知識を覚えたんだってのとその知識あっても使わわないだろと話をしたらすっげぇ落ち込んでいいたっけな…


「吉川さんってご出身この周辺の地域なのですか?」

ああ、話してなかったっけ? 俺は隣の県の出身だよ、大したものもなんにもないただの田舎さ。

「そんなことはないと思いますけどね…」

いや~何もないってのは大げさかもしれないけど本当に特徴があんまりないから文化財とかもな…どうなんでしょうね。

「どうなんでしょう?」

いや、これまでの人生経験的にそーゆーのの探索をしてこなかったから、ケータイとかでさらっと調べるだけでも出てきたりするのかなーって。

「興味がないものにはさっと忘れてしまいますから、仕方のない事かと」

覚えたものでも使われないと忘れるからな、地元の事とか何かないと調べないよね。

「そうですよ、観光地の地元の人はその観光地知らないんです」

人が多い場所が好きじゃない人間もいるし、行かない人にとってはそれこそ興味がないのか。

「何にでも興味を持てればなんでも勉強が出来て成績優秀で人生楽なんでしょうね」

…楽になるかは知らないけど何も関心が持てないよりは良いんじゃないかな。

「楽しい事がたくさんあったら良かったんですけどね…」

なんか話が説教の様になったのでこの話はここまでにしておこう。

いやだいやだ、今した話だって俺が小さい時に親戚にされた話だ。

それを一回り小さな女の子にするとかスッゲーおっさんっぽいなぁ…

そこから小岩さんについていく間俺は勝手に後悔をしていた。


 いくつか曲がり角を曲がって、南の方角へ向かって自転車を漕いでゆく。

2人とも二輪をはし

黄土色の砂浜の海岸が曲がり角から道の先、住宅の隙間から少しだけ顔を覗いている。

あたりまえだがあの日の夕方とはまるで違う装いをしている様に思えた。 ma

「目的地からは少し離れてますし、ここからでも海が見えますけど…構図とか考えるとここは少し遠いですね」

海がある風景は描きやすいんですか?

「んー、そうでもないですよ。単純なものを描く時のほうが画家の特色が出ると聞きます」

有名な絵画だとしてもそれは構図と描き方で評価されるとか聞いたことはあるけれど…

「人に評価されるだけの絵を描くとなると難しいんですよね、感性の話にもなってきますし」

構図に描き方に感性か…俺が考え始めたら頭が痛くなりそうだ。

「私もそう思います。毎度コンクール等に出す作品には頭を抱えながら作っていますよ」

そんなに考えないといけないんだからそりゃあ大変だよなと思いつつ、小岩さんは海側へハンドルを向けたのでそれについていく。

思えば物事を組み立て考えるようになったのってほんの少し前からだったな、あれも本の影響だし…

それこそ学生時代の時なんて後先考えずにその場でのノリとテンションでやり切っていた節がある。

それに比べて小岩さんはいろいろ考えられてて偉いなぁ…


「着きましたよ、因みに吉川さんが先日寒中着衣水泳に励まれていたのはここからもう少し中心部のほうですね。」

陽光を反射して光る水平線…これが冬でなく夏ならとは少し思う。

「自転車は留めておいて砂浜まで降りますか?」

海岸線まで降りるには道を渡り階段かスロープを使って少し下に降りなければならない。

俺はせっかくなのでと答えて自転車を海岸沿いの道に鍵をかけて置いておき、小岩さんと砂浜へ降りていくことにした。


 すごい、砂踏むたびきゅっきゅっいってるぞ…南側に広がる水平線と東西に延びる海岸線、砂浜にいるとこう…広がっている景色を見ると無性にに走り出したくなってしまうのが男の子の悪い癖、いや

走り出したくなるのは俺の頭の中が単純に足りていないせいなのかもしれない。


「吉川さん、お話したいことがあるのですがしてもよろしいでしょうか」

えっと、別に畏まらなくても聞きたいことがあればどうぞ?

「はい、それではお言葉に甘えて…吉川さんは人を好きになりますか」

あー、俺の考え方へのお問い合わせですか〜、どう答えたもんかな…

そんなに俺も人の付き合いが得意な方ではないから…いや率直な方がいいか…


考え込むには打ってつけの長い一本道、空にも海にも溶け込んで考えてみたいなぁ…

なんてこまけー事は良いさ、イエスかノーか、はいかいいえだ…よし、

人と居るのは楽しいから人は好きだよ。

俺は小岩さんに向けて今しがた思った事を口にする。

共に歩いていた小岩さんの足が止まった理由を俺は知らない。


次回へ続く。

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