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竜胆の潮風

 子供と大人の区別と一言で言ったって、年齢やら肉体やら色々と分ける方法はあるわけで…

精神的に「幼稚」と決めつけてわざわざ周囲の人間から孤立するってのは簡単なのよ。


それはそれで決めつけて自分は特別な存在だと息巻いている訳で「孤立」は決していい事では無いと思いますけどねー、知らんけど。

それは自分を特別視する事だし、立派に子供らしい行動ですよね。


自分を客観視なんてしなくて良いんだけど、俯瞰的に見られるだけの余裕と切り替えが出来る様になると変わってくるかもね。

これだって俺自身出来てないから絵空事の理想論にしかならないんだけども…


かいつまんだ形で俺はこの話を参拝する迄に説明した。

小岩さんが多分学校のクラス内で孤立しがちな生徒という話を前回出会った時に話しているから、俺でも言える事を話してみた訳だ。


 そーいえば、神社とかお寺を参拝する時ってやり方があるんだよな、なんだったっけ。

「吉川さん、二礼二拍手一礼ですよ」

小岩さんは作法とかマナーとか探すとその数の多い事に驚いたりするけれどもよくサラッと出てくるよね、感心しちゃうわ。

「それ程でも無いですよ、父がその方向で何かとうるさくて都度言われてきたので」

厳しい感じ?

「…あまり厳しいとは思った事はありませんね。 なんだかんだと好きな事はやらせてもらっていますし、学校へも入れてもらってますから」

俺が参拝を終えたところで俺たちは境内にあるお守りなどを売っている場所を見てみる事にした。


「ルールには決められた訳があるから、損をしない為に守った方がいい」と小岩さんの父親は事あるごとにこの言葉を口にするのだと言う。

良いお父さんだなと言ったものの、小岩さんは珍しく言葉を返してこなかった。


「あ、吉川さんお金を出して下さい」

成程? 賽銭の準備ってことね。 了解了解、五円玉あるかなー

「五円玉でも千円札でもいいですよ、額が多ければ良いと言うわけでもありませんので出来れば二つ用意して下さい」

確かにこーゆーのは気持ちの問題だもんな…ん? 二種類?

「準備が出来たらこちらに来て下さい」

境内の広さと反比例したこじんまりとしたお宮さんがすっとその場に鎮座している。

えっと、二礼二拍手一礼だったよな?


五円玉が丁度なかったので十円玉の一枚を賽銭箱へポイっと投げ入れる。

願い事を月並みに考えたが、お金の神様に「お金を増やして欲しい」と言うのも耳にタコだろうからなんとなく近況報告だけしておいた。

「吉川さん、何かお願い事でもしましたか?」

え? してないけど?

「そうなんですか? 場所とシチュエーション的にはするものだとばかり…」


なんか少し意外そうな口振りなのがよく分からないんだけど。

俺、今そーゆー欲が無いんですよねー、強いて言うなら死にたくないって位でさ。

そう言う小岩さんこそ、願い事とかした訳?

なんでも願いが叶うとしたらどんな願いを叶えたい?


「そうですね、強いて言うならば…世界征服がしたいですね」

え…はい?

「してみたいじゃないですか、世界征服。 この世の全てを手に入れて自由に扱うなんて夢の様じゃないですか」

お、おう…意外に小岩さん野心的なのね。

「まぁ、世界平和か世界征服かと聞かれたら世界征服と言うだけですよ、第一不可能である事は分かってますから、希望論です。」

希望論で出来る事なら世界を征服したいとか中々出てくる言葉じゃ無い気がするけどな…

そんな事よりも本題に入りましょう、こちらへ。

こっち? そっちってまた岩穴になってるけど大丈夫?

「はい、狭くて暗いわけでもないので私は意外にも大丈夫ですよ」

小岩さんの中での苦手とする基準がよく分からないが、俺たちは広く電灯で照らされている岩穴へ理由を聞かないまま入っていった。


「さっきこのお社の神様がお金を司るとクイズを出しましたけど、ここが他の神社さんと違う所なのです」

ここ…? 何か外より肌寒くない?何か音するし

「そうなんです、この中岩穴でで出ている湧水でお金を洗うとご利益が付くそうなんです」

湧水…あ、確かにこれ水の音か。確かに柄杓あるけどお金を洗うの? ここで?

「はい、特に金額でご利益が変わるなんて話は聞かないのでお手持ちの硬貨と紙幣どちらでも大丈夫です」

はぁ…それがなんかルールならやるけども…やるか、貯金あんまし心もとないし


小岩さんの吉川さんもやりますよねオーラに半ば押し切られる形で俺は財布にある硬貨を洗うことした。

神頼みねぇ…

「それではこちらの笊にお金を入れて柄杓で掬った水を掛けてくださいって、書いてありますね」


 事前に用意されている笊、腰を屈めて硬貨に水を掛ける俺と小岩さん…あれ? 今日って絵の構図とか描きたい物を探しに来たんじゃなかったっけ?


頭の中に浮かんだ疑問はまあ俺への観光地紹介の部分も兼ねてるし、良いかと納得することにした。

「ん…ここは少し良いかもしれません」

その後何枚か写真を撮った後で小岩さんは少しだけつまらなそうな顔が変わった気がする…気のせいかもしれないから本人には言わないでおくけど。


「…それでは撮りたい構図は何となく撮れましたので、吉川さんが良ければ移動したいのですがいかがですか」

そうだな…折角神社来たんだしおみくじを引いておきたいなと思ったんですが、スケジュール管理は小岩さん次第なので任せますよ。

「そうですか、それでは硬貨数枚を用意してください、あ、ついでですからお御籤まで引いてしまいましょう」

笊に五,六枚の硬貨を適当にあけて湧き出している水を柄杓で掬いとる。

この場所で何故水が湧くのかは分からないし、賽銭でもないお金を洗うとご利益があるとかもどんな経緯を辿ればそんなことになるのか俺にはさっぱりだ …

きれいになったたことでどうかは置いておいておいて、これで俺は億万長者になれる!!はずっ!!

「そうですよ吉川さん、お金はあればあるほど困るものでもありませんからね、マネーイズジャスティスとこれに尽きます」

初めて聞いたなその格言、時は金なりじゃないのか…

「お金で時間を変えるようになっているのが今の世の中だと私は勝手に思っているので、個人的にはこれでOKです。」


小岩さんの持論はさておき俺たちは「水おみくじ」という一風変わったおみくじを引くことにした。

けれど中身を開いたが真っ白の何も書かれていないとは思わなかった。 あれ? これもしかしてはずれのあるタイプのおみくじなのか…

「あっ、そのおみくじなんですけど、説明書きによるとさっきお金を洗ったように水につけるとその吉兆が浮かび上がるーみたいですよ、れっつとらい」

れ、れっつとーらい…と水につけるあら不思議、何も書かれていなかった紙に文字が浮かび上がってくるではありませんか

「大吉とはいきませんでしたが、私は中吉みたいですね。 吉川さんはいかがでしたか?」

俺はね…あ、吉だけ書いてある…お先真っ暗ってわけでもないらしいからまだいいか。 健康は…気を付けるべしこの歳になると確かに栄養素とか考えないといけなくなるんだよな。それに腹がな…

「お腹がどうしたんですか?」

うん、不摂生がその日かその次の日に跳ね返ってくるんだ…、五年前にはまるで気にしなかった体やら心の故障部分が可視化されるんですよねぇ…もう歳なのかもしれない。


「吉川さんってお歳とか気にされるんですね」

まぁ…そこまで若いって言えるほどの気力を持てなくなっているからね、楽観はできないよね。達観に諦観は出来てもさ。


「…そこまで諦めなくてはいけないものが吉川さんにはあるんですね…あ、私勉学良しって書いてありました、これで定期テストもばっちり赤点回避ですよ、やりましたね」

なんか少しだけ喜んでいるようにも見えるけど…小岩さん、赤点とか取るような成績なんですか?

「そんな事はないんですけどね、どうしてもやっぱり苦手な科目と興味のない科目が出てきてしまっていてそれに頭を悩ませている次第なんです」

あー、なるほどねー、苦手の意識とかついてしまうと中々それに時間をかけてマシにしようという風にはならなかったしなぁ…


その他の提示されたお御籤のモノことは割愛させてもらう。ま、あくまでおみくじだし俺の事なんて聞いても仕方ないしそこまで劇的なことも書いていなかったしな。

「あ、吉川さん待ち人来るですって、特段待っている人はいないんですけどね…」

小岩さんの表情は相変わらず読めないが口調は静かに楽しげであると俺は密かににそう思いながら、歩幅を狭めて先ほど歩いた隧道を引き返すのであった。


次回へ続く




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