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町屋通りリーズナブルその2

 自分のやり方を否定されるのはそれは確かに誰だって腹が立つ。

俺だって、同じ事をされたら何様なのこいつって思うだろう。


無為に過ごす休日を止めようと試行錯誤をしている。

それをそんなことをして何になると言われたら俺の勝手だろと言いたくなるもんなー


とまぁ、そんな感じで塩分濃い目の対応になった小岩さんには、合理的にしなくても良いのにってのは言ってはいけない事だったみたいだ。


敬語は堅苦しく、塩の結晶がそのまま入っているのでトゲが口内炎に刺さって痛いのなんのって…


「別に何も他意はありませんよ」

小岩さんはそう言って否定したけど絶対に嘘だろうな…


これは小岩さんに機嫌を直してもらう必要があるみたいだな…だってよ、折角出掛けているってのに機嫌を悪くされるっては勿体無いからさ?


さて、小岩さんに何をしたら機嫌を直してくれるのか…それが問題だ。

最近の高校生が好きなもの…好きなもの?


「なんですか吉川さん、人の顔をじっーと見て」

あー、いやなんでもない…

「…良いですけど、詰まるところもう一周したいですか吉川さん?」

出口付近まで来ちゃってるし、このまま自転車置き場まで行っちゃって良いと思うぞ?


元々小岩さんの絵の題材を探すのが目的な訳だし、小岩さんのしたい様にすれば良いと思うが…


「そう…ですね…私としては題材になりそうな場所はそこまで無かったので、次の場所に向かう事にします」

眉一つ動かす事なく、俺たちは自転車を置いた場所まで引き返す。

観光名所の周りだからといって、路地一本入ってしまえばそこは日常が繰り広げられている閑静な住宅街だ。野良猫が道端で日光を浴びてバターの様に溶けて


このまま淡々と名所を回ってはい終わりで言い訳が無いけど…何か俺からも動かないと…

自転車置き場まで歩いてそこまで距離も無い、行動に起こすとしたら今しかない。


そんな事を考えたって俺が知ってる場所なんて殆どないし…いや、待てよ…


小岩さん、ちょっと待ってくれませんか?

「何でしょうか、そんなに時間も無いのですけれど…」

小岩さんの口調からはやっぱ塩分とトゲが入ってるな…

折角の休日なんだ、楽しく過ごせる様にしなきゃ駄目だ。


俺も行ってみたい場所があるんです、駐輪場の料金なら持つからちょっと付き合ってくれません?


「…はぁ、吉川さんがもってくれるのなら良いですけど、いったいどちらに?」

小岩さんがこっちの話に食いついた。 でもなー小岩さんが好きそうな場所じゃ無いかもしれないんだよなー


「黙っていてもしょうがないですから、案内するならするで早くして下さい」

話が早くて助かるよ、俺が行きたいのは八幡宮の門前の通りなんだけど、

「さっき歩いてたじゃ無いですか…ってまさか、町屋通りですか?」

そう、その通り

「あの…吉川さん。お話ししていなかったかも知れませんが、私は人通りの多い場所ってあまり好きじゃ無いんですよ…」


何となく雰囲気で分かってはいたよ?

「なら別に今行く必要は無いですよね?」

そうかもしれないなと俺は言いながらも駐輪場へと歩く振りをして町屋通りの方角へ誘導する。


あそこはお土産屋や食べ物屋が立ち並んでいて良くも悪くも人通りが多い。

「あの…人の話を聞いてますか、吉川さん?私は別に行かなくても良いって言ってるんですけど…」


俺が行きたいんだけど、駄目かな?

真意を確かめようとする小岩さんは足を止めたじっと

俺の目を見てから一度ため息を吐く。


「…分かりました、何故急に町屋通りに行きたかなったのかは知りませんがご一緒しましょう」

渋々ではあるが小岩さんに了解を得て俺達は表通りより人通りの多いという不思議な路地へと足を踏み入れた。


地元の人ってここの通りって来るの小岩さん?


観光のシーズン前と言うこともあって人でごった返している訳ではなく、人通りはまばらに近い。


「来ませんよ、混んでいるのが分かっていますから」

地元の人は観光地に行かないのはどうやら本当らしい。

俺の地元は何にもないから気持ちは分からないけどな。


お菓子屋に喫茶店、お土産屋さんに雑貨店と様々にお店が並んでいる。

気分を損ねてしまった小岩さんに何か買ってあげて機嫌を直してもらおうという浅い考えだ。

それは見破って貰った上で機嫌を直して貰ってもいいし、ただ単純にこのまま自転車に乗ってしまうとその後が気まずいなと思っただけ…


「吉川さん、町屋通りに着きましたがここに何かあるんですか?」

いやー、名前だけ聞いたことがあってどんな場所なのかなーって思ったんで興味本位で来てみました。


「…純粋に疑問なんですけど吉川さんって本当にこの街に住んでるんですか?」

え、小岩さんそれはどう言う意味?


「いえ…先の八幡宮もそうなんですけど、吉川さん本当に有名な場所とか物に興味がないんですね…」


あー、確かにそーゆーのにはきっかけが無いと手を付けないな。

「私も人の事を言えたものじゃ無いですけど…吉川さん、興味って生きていく上ですごく大切なものなんですよ?」

道の真ん中で何を言ってんだと一蹴出来れば良かったのかも知れない、けど俺は返す言葉が用意できなかった。


言われてみればその通りだと思う、俺に何か苦手なことがあるとするなら物事を続けることだよ。

自覚するとなんかこれまでの事を思い出してしまった。


うわー、そっか俺ってそんな人間だったんか…寂しい奴だなー図星を当てられてもなんか怒りとか焦りとか何も感じないでやんの…


「いえ…知り合いに似たような方が居たので半分あてずっぽうで言っただけなんです、何も知らないのにこんなことを言ってしまって…すみません!」

知り合いに俺と同じ様な奴がいるっていうのもどうかとは思うけどな。

それに謝られてもなんかどうしたらいいか俺には分からないからさ、一先ずは互いに少しだけ腹の底が分かったという事で済ませましょうや。


いつまでも通りの真ん中でこんなやり取りをするのは辞めましょ、なんか歩き疲れたから甘いものでもいかがですか小岩さん?

ここなら食べ歩きが出来るお店もいっぱいあるから小岩さんの好きなものの一つや二つあるかもしれないからさ…どうかなって思うんですがどうすかね?


「はぁ、それでは一旦題材探しは休憩にします。吉川さん甘いもので何か苦手なものなどはありますか」


あ、俺? 

「そうですよ。好きなものを好きなだけ食べるのと、苦手なものを無理やり笑いながら食べるのでは全然違いますから」

特に苦手なものは…あぁ、そうだな、寒天とかあの食感がどうにも駄目なんだ。

「寒天…」

そうそう寒天がなー、子供の頃風邪ひいた時食べたんだ。

あれ確か心太だったはずなんだけど…その時に味覚がおかしくなった状態で食べてさ、味がひどいわ食感がひどいわで、その前に食べたおかゆと一緒に戻しかけたんだ。

それがトラウマになってどうも寒天類は苦手なんだ、食べられないわけじゃないけどね。


「成程、それでは和菓子屋さんでも別に良いと言う事で良いですか?」


俺としてはそれでも大丈夫だけど…あれ? 小岩さんこの通りって来た事無いんだよね?

小岩さんは直ぐににはいと返事をくれたけど、小岩さんもしかして町屋通り来たことある?


「ありませんよ、少なくとも私は」

そう話す割には迷いない足取りで通りを進んでいくし、和菓子屋さん見つけてるんだけど…小岩さん本当にここ来た事無いんだよね?


「えぇ、本当に無いですよ…?」

本当に?

「本当ですよ?」

そうは言ってもちょっとウキウキしてない?

「してないです」

本当?

「本当です…本当ですよ? 人が多いが私本当に苦手なんです。気分が悪くなったりはしょちゅうで…」

ゆっくりと視線を落として自傷気味な口調で小岩さんは遊園地も楽しめないと続ける。


確かに人が置い場所に長い時間いると人に酔ったり、周囲にずっと気を使ったりしてどっと疲れるってのは分からないでもないが…それが表れやすいって感じか…


「この歳の同じ子達と友達になれないのはそれが結構あったりするんですよ、女の子って複数人で気を張り続けないといけない生き物なんです」


学校って閉鎖的環境でその年代の子なら尚更か…何をするにもグループに分けられ、多数派になるかならないかで明暗が分かれるって…話か


俺はあんまりそういうのを意識して学校とか行ってたわけじゃないからなー何とも言えないけども…


「こほん、話がそれましたけどこういう理由がありまして私はこの手の場所にはあまり足を運ばないんです。ランドとかシーとか人がすっごい多いとこからそこそこの場所まで」

なるほど、その事もあって学校ではボッチになりやすいと…

「…そういう事は分かったとしても言わないのが優しさですよ、吉川さん。正直酷くないですか?」


小岩さんに案内されるままに和菓子屋さんに入っていく。 お土産だけじゃなくて買ったものを店内で食べられるスペースがあるお店だ。


向かい合って座ると小岩さんは早速メニューを広げてじーっと見入ってしまった。

何の気なしにお店に入ってしまったわけだが、機会があればこういう場所に小岩さんは来たかったのではと思う。何となくだけどそう俺は感じた。

ま、俺と来るよか話に出てきた友人と来たかったんだろうな…なんて思っても仕方ないんだけどね。


「あ、すみませんでした。私ばっかりメニューを見ても仕方ないですもんね。」

小岩さんが食べたいもの先に決めちゃって良いよ、俺その後でなんか適当に選ぶから。

「いいえ、それでは何を頼むつもりなのか分からないじゃないですか。私頼んじゃいますから吉川さんも決めてください」


そう言って小岩さんは手招きしてきたので、俺は身を少し乗り出し広げられたメニューに目を通す。

別に顔が近いとか、実は小岩さん普通に美少女だとかは特段思っていない。

俺は社会人、相手は高校生…察しの良い人なら分かってくれるだろうけど間違いは起こしてはいけないのだ。

ま、俺に限ってそんな事態に発展するなんて、万に一つもあり得ないんだろうけどな、はっはっはっ!


「よーしかわさん、何を頼むか決まりましたか?」

余計な事を考えていたら小岩さんに気付かれたので俺はメニューの方に意識を向ける。

和菓子屋さんだからやっぱり餡蜜はあるか…うわー、心太もある…いやいや、これは克服するいいチャンスなのかもしれない。


何々、えぇ…どら焼きと抹茶のセットで900円(税別)ってそれはちょっと高くないか?


おいおい、これが観光地価格ってやつか…安いスーパーに行ったら不ぞろいのどら焼きが五個入りで300円しない…

お茶も揃えたってこの半分位の値段で買いそろえられるぞ?


散々唸って目移りした結果俺は蕨餅と抹茶のセット、小岩さんはほうじ茶とお団子二本と大福を選んだ。よし、ささっと頼んじゃいますかね。


「あ、ちょっと待ってください…こちらの最中と草餅のセットも計り知れないポテンシャルを持っている気がしますよ…」

店員さんを呼ぼうと伸ばしかけた手を遮る迷いの声がすぐそばから聞こえてきた。

え、まだ決まって無かったの?

「いえ…その…すみません、今決めます」


うんうん、急かす気は全く無いからゆっくり食べたいものを選んでくれていい。

今日は休みなんだ、別に急いでいるのでもないからゆっくりしましょう小岩さん


焦らなくてもいいよと俺は大げさに間を置いて言葉を使う、早口で伝わらないよりよっぽどいいからな。


「…そうですか、お言葉に甘えさせて頂きます」

小岩さんの言葉は畏まった口調のままだったが塩は抜けて来た様で、表情は相変わらずの大人しいまま俺達の間にはさっきとまた違った種類の静寂が現れたのだった…。


次回に続く

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