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町屋通りリーズナブルその1

 なんとなくで流されるままに生きていけたらなーって…少しだけ背伸びしても、届く距離に目標とか夢があればそれで良いんだとふわふわと浮いた頭はそんな事を考えていた。


その考えはまるで綿菓子の様に甘ったれで軽い俺の頭の証明にしかならない訳だが…


「さっ、行きますよ吉川さん」

数十段の階段を一気に登るのは今の俺には素直に結構キツイものがあった。

ちょっと待って葛西さん、一息着かせて…


「えー、吉川さんって運動とか普段してないんですか?」

膝に手をついて肩で呼吸をする自分に

そうねー、普段は殆どしてないからこうなってるのよ。それはそうとなんか葛西さん少し鼻で笑わなかった?


「…いえ、それは無いですよ」

間があるって事はその場で何か考えてたなこの子…

そんな事より早く参拝しましょうと促され、先ずは手を洗うのが作法だったなと思い出した。


神社なんてちゃんと参拝をした記憶がないから景色としてはちょっと新鮮だな…

朱塗りの巨大な平屋建ての建物が山道の先に大きく傘を広げて立っている。


「私もちゃんと来たのは初めてですけど、やっぱりおっきいですねー」

え、葛西さんここ来たの初めてなの?てっきり見知った場所を回るのかと…

私はそんな事は一言も言ってませんよとサラリと言って続ける。


「社会科見学みたいな遠足半分で来た事はあるんですけど、こうして誰かを誘ってですとかプライベートで来るのは初めてですね」


なるほど、クラスメイトや教師と一緒に決められた場所を決められた時間で回った事はあるけどって事ね。


参拝ってする前に手を洗うんだったよね、葛西さん?

そーですー、手洗い場って言うんじゃなくってですね、ちょうずばと呼ぶらしいですよ。


案内されるままに片手ずつ手を洗って俺たちは本堂へ進んでゆく。

「漢字で書くと手水場でそのまんまなんですけどね」


葛西さんは物知りだなぁ…


ただ神社にある鈴を鳴らしてお辞儀をするもんだと思っていたら、ニ拝二拍手一拝と手順があるんだとか

いろいろ教えてもらった末に出た反応がこちらになりますね…うん、あっさり過ぎないか?


我ながらこんな返しか出来ないのはどうかと思ったが

ま、俺には素直に言う位しか出来ないからしゃーないか


「あ…事前に色々調べてたので」

独り言の様にサラリと葛西さんは言った後両手を叩く。


調べたの?わざわざ⁉︎ すっごいなそれ…

神様に祈る事は特に無かったのでなんとなしに自分を変えていこうとしているっていう報告だけしておいた。


葛西さん曰く神様だって人間と似てるらしいから、参拝に来た人の願いの全てを叶えるのは大変だろう…

なんて空っぽなだけだけどな。

叩けばよくカーンと鳴るかもしれない…


葛西さんは何かお祈りとかってしたの?

手を合わせてお辞儀をした後で聞いてみる。


少し考えた後でクスッと笑って返した返事は

「私は…そうですね世界征服とかでしょうか?」

えー、またまた…絶対そんな事考えてないでしょ葛西さん。


「吉川さんには分からないのですよ、世界征服を考える素晴らしさが…‼︎」

どうやら葛西さんわざとふざけている様子…仕方ない乗っかるか…


ま、まさかこのせかいを取るつもりなのかい、葛西さん⁉︎

「そ、そうなんですよ私の夢は私の作ったデザインがワールドスタンダードになる事なんです‼︎」

うんうん、成る程?


「ですから、学校でしがない美術部員なんてやっている様な場合じゃなくて、もっと大きな世界に出る為にですね海外留学とかに…」


それからそれから?世界征服するんだからまだまだ大きな計画?みたいなものがあるんですよね?ね?


「…もう良いですか…?世界征服とか本当冗談なのでこれ以上揺すっても何も出てきませんよ?」

揺すっても…?ゆすりたかりなんてした覚えは無いんだけどなー?おっかしいなぁ?


「へぇ…吉川さんって意地悪なんですね」

そうだねー、大人なんてそんなものだよ葛西さん。

意地を張っていて、意地が悪くて、意地汚くて、そんでもって意気地なしなんだ。


「開き直るのは大人の特権ですか…?」

…そうかもしれない、あんまり褒められた様な事じゃないけどね。

「吉川さんはあっさりしてそうなので非を認められそうですね」


そりゃぁ自分に非があれば認めるのが一番手っ取り早いからな、責任はたらい回しになるが自分のミスした事実に変わりはないよ、人に捉え方は変わってくるだろうけど、自分の事と人の事は俺には良く分からないからあんまり聞かれてもなぁ…


参拝を無事に終えた後、俺たちは神社の境内を見回ることにした。

厳かな雰囲気に交じって観光客なのかしきりにカメラを回したり携帯で自撮りをしている人もいる、そこそこ人がいるな。


「歴史があって市の中心部にありますから、この神社は一年を通して色んな人が来ますよ」

賑やかとは少し違う雰囲気のいい場所だと俺は思った。

絵にするとなると構図とか色の使い方とか考える事もあるんだろうな。

俺ならこの場所を題材にするのも全然ありだと思うけど…


葛西さんは基本的に無言で写真を撮り続けている。たまに唸ったり首を傾げたりはするけど、表情は真剣そのものだ。


絵を描くのって俺は中学校でやったのが最後だけど、高校でも葛西さんは楽しいと思ってるからやっているんだろうな…


「絵を描くのが楽しいかですか…やっぱり楽し…い訳ないじゃないですかすっごい辛いですよ」

え…? 楽しいから描いているんじゃないの…!?

しれっと葛西さんはそう言って何故かカメラをこちらに向ける。

いきなりそんなことを言うから俺は二の句が継げず反応に困るんだけどさ…


「そんなに驚かなくっても良いじゃないですか吉川さん、ちょっと面白い顔になってますよ?」

葛西さんは表情を崩さないままそう言った。

神社の境内にミュージアムや国宝館と幼稚園まであるのには驚いたな。 葛西さん、あっちの方とかは行く?


俺は案内板の前でミュージアムを指差して言ってみたが、葛西さんは「またの機会に」と言われ外回りをぐるりと一周しただけに止まった。


さてと、これで一通り回ってみた訳だけど葛西さん、どこかまだ周り足りていない場所とかある?

俺は第一この神社に初めて来た訳だしもう一回一周しても大丈夫だけど…


「なるほど、吉川さんそーゆーのはズルです」

え、何? ずるい?

「前言撤回です、すみませんなんでもないので放っといてくださって結構です。」

ん?葛西さん大丈夫? なんかあれだ…どこかで休む?

「…いいえ、お構いなく…駐輪場の料金表の事を考えていただけなので」


あー、もしかしてそんなに時間経ってた?

「出来れば最低料金で最大限見て回りたいので後は回れて一箇所でしょうか」

小岩さん、まじそんなに考えてるの…大丈夫?疲れない?俺に気を使うとか多分徒労に終わるだろうしやめといた方が…?


「えー、吉川さん…怒りますよ?」


そんなに機嫌を損ねる事を言ったつもりは無いのだが、塩対応な葛西さんの塩分量が明らかに増えたのはまぁ、仕方ない。


けどなー塩分過多で今後動脈硬化とかしたらなー大変だからな…

損ねてしまった機嫌を取る為の飴を探してみるしがない俺なのだった…


次回は続く

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