プラムの日向ぼっこその3
大変永らくお待たせ致しました。
一等賞、第一位、一という数字にはそれには付随する価値と影響力があると俺は思っている。
ま、縁のある数字じゃ無かったけど努力の大小に関わらず、持て囃させるものではある。
物事の分かりやすい証明、白と黒みたいなもんだ。
葛西さんと長い参道を歩きながらそんな話になった。
「頑張ったことに対しての成果として考えられるなら良いんですけど…一番だから偉いとかそれ傘に着られるのが好きにならないんです」
俺がなんで返そうかと考えていると、葛西さんは「順番にそんなにそこまで大きな意味は無いなって思っているんですよ」と付け加える。
大きな意味…まぁ、一位と二位にはそこまで差はないのかもしれないな、一位とビリの差は大きいだろうけど。
参道をバックに一枚、葛西さんは写真を撮る。
作品を作り出す為の舞台づくりの為に撮っていると話していたけど、それ俺いなくても良いんじゃないか?
一人で物静かにシャッターを焚いていく後姿を見てそんな事を思った。
「…少し前まで私もスポーツをやっていたんです、点数と順位で凌ぎを削る様な…それは言い過ぎかもしれませんけど私、それなりには頑張っていたんですよ」
スポーツ? 葛西さん運動する子だったんだ、なんかてっきり文化系真っしぐらな女の子かと思ってた。
「真っしぐらってなんですか…」
葛西は半分呆れた顔で溜息を吐く。
いや…雰囲気からして文系女子っぽいな…なんて思ってたので、バリバリのスポーツをするとは俺には予想外だった。
「人は見かけによらぬものですよ、吉川さん。
っと言っても人は見た目が九割と言われてますが」
人は見た目が九割か…そうなると損をする人間は多そうだな…
「損をするんですか?」
あぁ、俺なんか結構損してきた方だと思うよ。知らんけど
背高くて目付き悪いから俺、少し課題やら掃除やらないだけでいちゃもんつけられたもんなー
「吉川さんて根に持つ人なんですか…」
いいや全然、昨日の晩ご飯何食べたか覚えてない位にさっぱりしてるよ?
「それってど忘れで済まないと思うんですけど、大丈夫ですか、吉川さん」
冗談だって、葛西さん。心配されなくても昨日の晩ご飯でしょ? 晩ご飯….あれなんだったっけ?
あー、なんか親子丼もどきを作った気がする。
火を通し過ぎてなんかスクランブルエッグになりかけてたし、あれ出汁とか入れないと美味しくならないんだなぁ。
「ちゃんと覚えてるじゃないですか」
カメラに映した画像を見てうーんと唸る葛西さん、いやいや、やっぱり俺必要なくないか?
そう口には出さず背後から葛西さんの撮った写真を覗いてみる。
葛西さんは俺より頭ひとつ分小さいので背中越しに石畳と遠くの石鳥居が映っていてた…
雲も無いし、人とまばらで絵にするとしたら良いんじゃない?
「え、これですか…確かにロケーションとかはまぁまぁ良いんですけどそれだけなんですよね」
それだけ…?
「そんな私も大それたこと言えないですけど、描きたい場所とか絵にした時になんか弱いなーって」
絵にしたときのインパクトとかって案外大事なんですよ。
風景を描くにしても葛西さんはインパクトとか拘る人の様だ、絵を描く人ってこんな感じなのか…
「まぁ、これだって構図を考えて思いついていざ書きだしたとしても、十中八九めんどくさくなって、私如何してこんな事してるんだろうって投げ出したくなるんですよ」
葛西さんが一際大きな溜息を吐くと、参道を進んでゆく。
めんどくさくなってしまうのなら絵を描かなくても良いんじゃないかと口に出しかけてやめた。
流石にそれは葛西さんに対して失礼すぎるだろ…
「いやー、まぁ面倒な事を積み重ねるしかないからこうして苦労しているんですけどね」
楽な事をしてばっかりじゃいられないって?
「吉川さんだってそう思いませんか?」
辛い事ばっかりやってもいられないよ、楽とか嬉しいとかそっちの方が俺は良いけどな、葛西さん
「それはそうなんですけどね、さぼりどころって難しくないですか?」
さぼりどころ? 俺なんて部下と上司としょっちゅうさぼってるぜ。
「え…いいんですかそれ」
葛西さんは目を丸くして俺の顔を見上げてきた。
そんなに驚く様な事…まぁ確かに驚くことか。
「いえ…その、吉川さんっていつも忙しくしてて、てっきりそれであんな事をしていたんじゃなっかって思っていたんですが」
あぁ…なるほどね、葛西さんからすれば俺は社畜に見えたって訳だ。
「そこまで言おうと思っていた訳ではないんですが…」
まぁまぁ、気にはしないけど。 俺だってたまたまあんな事しれかしたのは不思議に思っているよ。
白い石畳の参道が終わって、今度は数十段はありそうな長い階段が聳え立つ。
まさかとは思うけど葛西さんこれを登ろうっていうんじゃないよね?
「何を言ってるんですか吉川さん、折角神社に来たんですからお参りしていかないなんて損ですよ。それに罰当たりです」
別に神様に挨拶しなかったからって天罰を下す程器の小さい奴が神様なわけないでしょ葛西さん…
「ぇー、でも神様ですよ? 神様を作ったのが人間なんですから神様だって人間らしいんじゃないんですか?」
神様が人間を作ったとか、そういう話が出てくるかと思ったら違った。
なに、人間が神様を作ったって?どうゆう話?
「あー、未知のものって怖いじゃないですか」
未知のもの…俺の隣の涼しい顔で神様の話をしてくる女子高生とかかな?
「茶化すのならお話続けませんよ、吉川さん」
あ、はい…すみませんでした。許してください。
大人の威厳とは何処へやら、俺は一言で黙らされてしまう。
いや、これ…なめられてる…のでは? ははっ、まさか
ね。
そう言えば、あのコインランドリーの時に話した人とはその後何か進展とかあった?
ものの数週間で変わるようなの事は無いだろうけど…
「…そうですね、あの子とは今でも音信不通です。
引っ越してしまったのでどこで何をしているのかは正直分からないのですが…最近、返事は返ってきてないんですけどどうやら読んではくれてるみたいです」
既読無視か、向こうがどう思っているか分からないのはちょっと嫌だな。
「そのままあの子が何事も無く次の学校とかでうまく馴染めるのなら私は何もせず、自然と友達としての役割を終えるだけなんですけどね」
澄み切ってもいない空を見上げながら葛西さんはそれもシャッターに収めていた。
目は口程にものを言うとは言うが、、目の色が変わらないこの子の真意を俺は分からないままだった。
次回へ続く