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終焉世界  作者: ころずし
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第2話

ふぅ・・・


少し憂鬱な表情でコーヒーを啜っている男がいた。特務隊配属からすでに3週間が経過している中山だ。


「まさかこんなことになるなんてなぁ。」

俺が特務隊配属が決まったのは3週間も前のこと。それからどんな任務があったと思う?


聞いて驚いて欲しい、何もないんだ。そう何も。正確には戦闘訓練や座学といったカリキュラムをこなしてはいるが、俺にとっては完全に不要なものだ。なんだって俺はケンカじゃ誰にも負けたことは無いし、こくごやさんすうのテストでも100点以外とったことがないからな。


この3週間、俺は毎日店でコーヒーを飲み、筋トレをする日々を送っている。

この喫茶店を模した質素な飲食スペースも、今ではミシュラン5つ星を獲得した名店のような気でさえしている。


人型の演奏ロボットが古いグランドピアノに命を吹き込きこみ、音の粒がそこら中に弾け飛んで俺の鼓膜に語りかける。おっとすまない。ついつい詩人のような言葉選びをしてしまった。普段全く本を読まない俺でさえ、エモーショナルな表現をしてしまうほどここの雰囲気は良さげなんだ。


8畳程の狭い空間に、古い樫の木で作られたカウンターやテーブルが並んでいる。年代物の置物や雑貨が少々乱雑に置かれていて、これはこれで悪くない。ドリンクを出してくれるのは残念ながら機械だが、こんな所で人件費を使いたくないのは俺でも察することができる。


ちなみにこの喫茶店はアースホープの中央制御区画と言われる中心部の一角に位置している。中央制御区画はエリートの中でもエリートしか入ることを許されない特別な区画だ。


まあ俺は特務隊という名前だけエリート部隊に所属しているのでOKらしい。この区画はいかにも最新施設と言った具合で壁や天井、扉も全て特殊合金でできている。

俺にはこんな鈍く輝く世界は似合わないので例の喫茶店に通っている訳だ。何故かこの喫茶店だけ古き良き地球の空気を感じることができる造りになっている。喫茶店という言葉自体すでに死語になっていて、現にここはイートスペース5Bという名称だ。だが、あえて俺はこの場所を喫茶店と呼ぶことにしている。店の名前はもっと通ってから考えるのがいいだろう。


「さあ、我が要塞に帰るとするか」


空っぽの金属製コップを放り込んだ返却口からは無機質な金属音が反響してくる。


「ありがとう。美味しかったよ。また明日。」


機械の動作音だけが静かに発せられているカウンターに向かって声をかける。人間っていうのは不思議なもんだ。俺が発した言葉を受け取る人も、返してくれる人も居ないのに何故か感謝の気持ちを伝えてしまう。この腐敗した世界で荒んだ心を癒してくれる唯一の空間だ。感情に訴えるものがあるのも必然かもしれない。


ピッ

ヴィーーーーン


世界的に見てもイケメンである自分が印刷された身分証明カードをかざすと自動的に扉が開く。


1ルームの小さい部屋を俺は要塞と呼んでいる。50インチ程の超高画質なディスプレイで出来た人口窓があるだけの、まるで刑務所のような部屋だ。

もちろんこんな場所に住みたくはないが本物のエリート様と扱いが違うのは仕方ない。まともな部屋が用意されているだけマシだろう。てっきり、同じ部隊員同士でタコ部屋に押し込まれると思ってたので部屋を案内された時、拍子抜けしたのは今でも良く覚えている。


最近は筋トレグッズをNakazonで揃えることが出来た。筋力向上に一切の妥協をしないのは昔から変わらない。ちなみにNakazonっていうのはアースホープ内でのネットショッピングサイトだ。昔はAmazonというネットショップがあったらしいが、ネット歴史を勉強した時に見ただけなのでホントかどうかは知らないがな。


俺はいつもの筋トレルーティンをこなしナカヤマスポーツのプレミアムプロテインを乾ききった喉に流し込む。お気に入りはミルクとはちみつを混ぜたのにいちご風味のプロテインをブレンドするものでオリジナリティ溢れる逸品だ。


鏡の前でポーズを決め筋肉のハリを確かめる。イケメン×筋肉を具現化した素晴らしいルックスの人間がそこには居た。


今日は戦闘訓練が休みなのでこのまま惰性で1日を過ごす。時刻は午後2時20分。人間1番辛いのはやることがなく暇を潰しているときだろう。贅沢な悩みに聞こえるかもしれないがそれが真理なのだ。俺は、少しだけ哲学的な思考ができたことに不思議と達成感を味わっていた...。


神というのは人々が真理に辿り着くと、それをリセットするかのように世界を変えてしまう。ここに1人、自分なりの辛さの真理に辿り着いた男がいる。

平穏な世界が一瞬にして終わりを告げるのは、いつもそういった時なのかもしれない。

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