06 朝の一時
次の日。
寝る前にスマートフォンのアラーム機能でセットした、国民的ダンサーグループのしっとりとしたメロディーの曲とともに、俺は起床した。
朝に弱い俺だが、朝はがんがん鳴り響く曲より、ゆったりとした曲の方が好きなのだ。にぎやかな曲だと、その日一日、頭痛とともに過ごさなければならなくなる。
まあ、一日中は大げさだとしても、寝起きから数時間単位で頭痛に悩まされるのは事実だ。故に、俺はどんなに朝に弱くとも、朝はバラードにするのである。こっちの方が好きだしな!
昨日佐川さんに振られたという精神的ショックもあり、いつもより一時間以上早く寝たためか、今朝はどうも目覚めがいい。
その代わり、気持ちの整理がまだ付いていないせいか、まだ精神的ダメージは残っている。だから、意識の目覚めは良い代わりに、すがすがしい朝だとは言えないのが残念だ。
正直、まだショックが酷く、何もする気が起きない。
今日も平日であり、学校には行かなければならないのだけど、同じクラスの奴らにからかわれたり(昨日告白するって俺の友達の一人が言いふらしやがった)、クラスメイトである佐川さんと顔を合わせることを考えると、本当に憂鬱である。
このままさぼってしまおうか……。そんな考えすら浮かんでくるほどに、今日は気持ちが沈んでいる。
だけれど、学校には親が連絡しなければ休ませてはくれない。まあうちの親の場合、べつに気にせず連絡くらいはしてくれるだろうけど、今後もっと休みたくなったときのために、一応やめておこう。
今回の場合は、言いふらした友達以外の、他の奴が慰めてくれることを期待しよう。
そんなことをつらつらと考えながら、ケータイで時刻を確認する。
現在時刻、午前六時五十分。うむ、アラームがなってからまだ五分もたっていない。
いそいそと布団から抜け出し、ケータイをポケットに入れ、洗面所へ顔を洗いに行く。
夏というのは本当に憂鬱である。その一つが、この朝顔を洗うときの水の生温さがいい例だ。
冬の水の冷たさを嫌う人は多いが、それよりも生温い水で洗った後のもやもや感の方が俺は嫌いだ。
他にも挙げれば切りが無いが、冬の難点と言えば寒さ以外にないのだから、ほんとうに夏と言うものはうっとうしいと言える。これも俺の主観ではあるけれど……。
ちなみに言えば、俺は春か秋かどちらが好きだと聞かれれば、秋と速答する。なぜなら、俺の誕生日が九月の末にあるからだ。それに、秋のほうが飯がうまい。……これも主観か?
まあその代わりに、体育祭だの文化祭だのと言っためんどくさい行事が目白押しなのはいただけない。やつらは実にめんどくさい。練習は長いし、炎天下の中練習はさせられるし、準備なんかをさぼれば教師にどやされるし……。
え? ボイコットはダメだろって? そんなことしたら怒られるのは当たり前だって?
まあ、それについてはハハハのハとしか言えないな。ハハハのハ……。
春は春でめんどくさい。
クラス替えなんていう、楽しみではあるけどとんでもない籤引きがあるからだ。
ここで仲の良い友達と一緒じゃなければ、人間関係を新規開拓することすらも困難になる。ましてや障害なんていうハンデのある俺にとっては実に、本当に憂鬱なものなのだ。
とか言いつつも、小学校一年から現在までに実に八回のクラス替えを経験してきたが、今までクラス内で人間関係に困ったことは無かったりする。
これは毎年、仲の良い有人が最低一人は同じクラスに居てくれたおかげだ。
今おもえば、これも教師側でクラスの名簿を決めるときに、配慮してくれていたのだろう……。まあ、だからと言って感謝しかしないけどな!
顔を洗ってリビングへ行くと、母親が朝食を用意してくれていた。
「え? 叶夢今日は自分で起きてこれたの? ……嵐の予兆?」
「違うわ! 昨日疲れて早めに寝たから起きれただけだよ!」
こんな失礼なことを朝の挨拶をすっ飛ばして言いやがったのが、俺の母親の田村美幸だ。
見た目についてあまり語れないのが申し訳ないが、身長は160CMくらいで、髪の毛は肩くらいまでであるという事だけは分かるので記しておこう。
「それでも珍しい……。今日は洗濯物外に干しちゃだめね」
「どういう意味だよ!」
「だって雨で洗濯物が濡れたら困るじゃない?」
「あっれー? 今日の天気予報って雨だっけー?」
「いいえ? 快晴よ? 予報ではね、叶夢が起きるまえの」
「やっぱりどういう意味だよ!」
「叶夢が自分で起きてきたから嵐が来るから洗濯物は外に干しちゃダメってこと。アーユーオーケー?」
「お、オーケー……。んなわけねーだろっ!!」
ったくこの母さんは! 息子をなんだと思ってんだ!
「自分では朝起きれない私の可愛い息子。それ以外に何があるの?」
……もういろんな意味で勝てる気がしねーわ……。
まずしゃべってないのになんで思ったこと分かるのとか、起きれなくてごめんねとか、可愛いとかはずいわとか……。
朝からほんと疲れたよ……。やっぱりさぼろうかな、学校……。
「まあいいや。で、今日の朝飯なに?」
「おにぎりと味噌汁」
「はいよ」
まあそんなこんなで朝食を食べて、着替えて準備して。時計の針が七時四十分をさしたころに、勇牙が迎えに来てくれる。
俺は基本友達と学校への登下校をしている。……って前言った…かな?
最近は勇牙が迎えに来てくれて、一緒に登校することがが多い。本当にありがたいことだ。
「おはよう勇牙。てかやっぱ迎えに来てくれるなら幼馴染の美少女がいいよなあ……」
「おはようさん。うるせえわ、そんなこと言うならもう来ないぞ」
「冗談だって、ごめんごめん」
そんな馬鹿なことを言い合いながら、また今日も学校へ向かう。ぜったいクラスの奴らにいじられるんだろうなと、少し憂鬱な気持ちをかかえながら……。