04 神様からの慰め
カコンッ!
自動販売機でジュースが落ちてきたときの音は、なぜこんなにも爽快感を感じるのだろうか……。
それに、おつりが出てくるときの音も回数が多くなればなるほど、「十円玉の変わりに機械の誤作動で百円玉が落ちてきたりしないかなあ」とちょっぴり楽しみにしてしまうのは、きっと俺だけじゃないはずだ。
おつりの取り忘れなんかも期待したりなんかして……。
「よっしゃ! 百円玉残ってた! 今日はついてるぜ!」
「佐川さんに振られたのを、自販機が慰めてくれてるのかもしれないな?」
勇牙め……。 いらんことを言いやがって……。
おつりの取り忘れをみつけたおかげで回復してきていたテンションが、また沈んじまったじゃねえか……。
「いやいや、 百円玉一枚で回復するって、安くね?」
うるさい幸二。 おつりの取り忘れで得をしたらとてもテンションが上がるの、わかるだろう?
「いや確かにわからないでもないけどよ。 好きな女の子に振られて百円は無いわー」
確かにそう言われればそんな気もしないでもない。
どこかに五百円くらい落ちて無いかなあとおもってしまうじゃないか。
まあ落ちてないだろう。 世の中そんなに甘くない。
仕方がないので、この自販機の、「ぞろ目が出ればジュースもう一本」のルーレットに期待するとしよう。
ピピピピピピピピ……
てってれー!!
当たった、だと!?
「おい、まじか!? 自販機でこんなの当たるのってどれくらいの確立だよ!」
当たったルーレットを見て、幸二が絶叫している。 うるさい! 近所迷惑だろうが、だまらっしゃい!
案の定、やはり幸二におごってもらったコーヒーにはご利益があったようだ。
まあ、ルーレットで二本目が出たのだから、二本おごってもらうのは勘弁してやろう。
ふはははは! 幸二よ、この優しき叶夢様の幸運に、感謝するがいい!
「百円浮いたって点では確かにありがたいけどよ…。 なんか釈然としねえな」
「てかこんなルーレットって当たるもんだったんだな……。 てっきり当たらないと思ってたぜ……」
勇牙が自販機会社に失礼なことを言っている。 けれど、その気持ちはわからんでもない。 俺も今日まで当たらないものだとおもってたからな!
「確かに俺もそれはおもったな。 まあけどこれで当たると照明されたわけだ……。
ほれ勇牙、ルーレットに挑戦、Let's go?」
勇牙にルーレットを進めてやる。 挑戦金百二十円、参加賞コーヒー一本のルーレットだ!
破格のルーレットだなあおい!!
「よし、いいだろう。 緒方勇牙、ルーレット、いっきまーす!!」
そう言って、勇牙は硬貨を自動販売機へと投入した。
「ってかっこつけてるけど、自販機でジュース買っただけじゃねえか」
「「うるさいだまれ幸二のばか」」
水をさした幸二に、俺と勇牙のはもりをプレゼントしてやる。 どうだ、うれしいだろう?
「全然うれしくねえ」
まあそうだろうな。
そんなことより、勇牙のルーレットの結果だ! 当たれ!当たれ!
カコン!
ピピピピピピピピ……
てってれー!!
「勇牙はコーヒー二本を手に入れた!」
「えー!マジかおい?!」
勇牙よ、営業妨害だぞ!
自販機のルーレット、二回連続当てなんていう快挙をなした俺達は、そのジュースを持って学校からの岐路についていた。 俺は白杖を右手で振りながら、左手でコーヒを飲んでいる。
「てかさー、勇牙から当たった分のもらえたからいいんだけどよ。 二回連続ってやばすぎね?」
幸二が分かりきった事実をいう。
「そりゃーな。 当たると思ってなかったのが当たったうえに、それが二回連続とかな……。 マジやべえわ」
勇牙がまだ信じられないぜ、とばかりにつぶやく。
「まあ、今回は俺が振られたのを神様が慰めてくれてるってことにしとこうぜ」
「まあ、そう思っておこうか……」
勇牙がが納得できない、という風に考えこんでいる。 自販機のルーレットが当たったのなんて偶然なんだから、そこまで考え込まなくてもいい気はするけども、まあ放置しておこう。
「そいや叶夢。 前から聞きたかったんだけど、お前佐川さんのどこに惚れたんだ?」
幸二からの質問だ。 また唐突に傷を掘り返すか……。
「それ今言うか? せめて明日にするとかさ……お前配慮が足りなさすぎじゃね?」
お! いいぞ勇牙! もっと言ってやれ!
「いやだってさー……気になったんだから仕方ねーじゃん」
こ、こいつ……。 開き直りやがった。
まあ、別にたいした理由も無いし、話してやるか。
「俺、言わなかったっけか? 人目惚れだよ、人目惚れ」
「……それだけ?」
「それだけ」
真実ではないけれど、今それを話してやる義理はない。 特に幸二には。
「おいマジか? 嘘だろ?」
「さてどうだろうねー……。 まあ、嘘でもほんとのことは言わないけれどね」
幸二はきっと、顔をしかめているだろう。
「まあいいじゃねえか。 別に叶夢が佐川さんが好きな理由なんて。 人には話したくないことの一つや二つ、あるだろうさ。 俺にだってあるからな」
やはり勇牙、君はいいこというよほんと。 惚れてまうがな。
「おい言いたくないことってなんだよ? 言えよー、俺達友達だろう?」
幸二が勇牙に突っかかっている。
「言いたくないことがあるって言ったそばから直接聞いてくるとか……。 お前頭大丈夫?」
「いやだって遠まわしとかめんどうだし……」
「やっぱばかだこいつ……。 お前にだってそんなこと、あるだろ?」
「うーん……」
歩きながら幸二は考えこんでいる。 俺の予想だけれど、こいつにそんなこと、あるわけ無いだろう。
「ないな」
とても端的な答えをありがとう。 俺の予想は外れていなかったので安心した。
幸二のことを考えるなら、安心してはいられないだろうけど。
「……馬鹿って楽でいいな」
勇牙がしみじみとつぶやく。
「おい、馬鹿ってだれがだ馬鹿って!」
「べつに俺はお前のことを馬鹿って言ったわけじゃねえよ? けどそうやってつっかかってくるってことは、何か心当たりでもあったのかなあ?」
「いいだろう! その喧嘩、買ってやる!」
「おいくら万円?」
喧嘩は買った!
そんなのりで言った幸二と、それを挑発する勇牙。
二人が仲良く言いあいしている傍らで、俺は中学校入学当初のことを思い返していた。
俺が彼女――佐川咲希を好きになってしまった、俺のなかではとても大切な、けれど彼女にとってはありふれた日々の一部なのであろう、その出来事を。
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