03 ご利益コーヒーとツンデレ
「ごめん、待った?」
「いや気にするな、今来たところさ!」
うむ、いい返答だ。
友達が待ってくれているだろう下足へ向かい、案の定居てくれた友達に俺の投げた冗談にのりよく返答してくれたこいつは、緒方勇牙、俺のイツメンの一人だ。 ちなみにイツメンとはいつものメンバーの略である。
俺と同じくらいの身長の、細身なやつだ。 俺がけっこうがっしりとした体格であるのに対して、こいつはかなり細い。 けれど、俺以上に筋肉質である。
「ったく…。 そういうやり取りは彼女とやれよ…」
「「だって居ないんだからしゃーねーじゃん」」
俺と勇牙がはもって返答する。
このちくりと俺達に嫌味を言いやがったやつは、三井幸二といい、勇牙と同じく俺のイツメンの一人だ。 俺と勇牙に彼女がいないことを知っているくせにっ!
嫌味を言いやがったと乱暴な言葉で紹介したが、別に嫌っているわけではない。 仲のいい友達間でのじゃれ合い的なものだ。
この二人が今日一緒に帰ろうと約束していた友達だ。 イツメンはこの二人だけというわけではもちろんない。 今日は用事があるからと先に帰ったり、部活があったりして、都合が合わなかったのだ。
ちなみにこいつらは、俺が告白するのに人が居なくなるまで話し出さないと知っていたから、先に下足まで来て、待っていてくれたというわけだ。 なんて気がきくやつらだろうか。 泣けるぜ。
「で、告白の結果は…その表情が答えだわな」
「まあ、予想通りだったね。 勇牙、コーラ一本よろしくな」
「ちっ、しゃーねーな」
こ、こいつら…。 俺の告白で賭けてやがったのか…。
しかも、勇牙はともかく、幸二のやろう、夢すら見させてくれねえのかよ…。 ぜってぇ後でしばいてやる…。
というか、勇牙よ。 俺の表情はそんなに沈んでいるか? 自分ではあまり変わっている気はしないのだけれど……。
「お前ら、賭けてたのかよ…。 勇牙は俺を応援してくれてありがとよ!
幸二、てめえ覚えてろよ?」
「ふふーん。 俺は何事においても現実主義者なのさ! だから叶夢が佐川さんと付き合えることなど、万に一つもないとわかっていたのさ!」
「いやいや、間違いねえけど、酷くね?」
まったくこいつは…。 少しいいすぎじゃないだろうか…。 けれど、こいつはこんな奴だったなと思いなおす。
別に悪気があって言ってるわけでも、俺を傷つけたいわけでもなく、ただ落ち込んでいる俺の気を紛らわせるために、わざと明るく振舞ってくれているのだろう。 確かに、こいつと今しゃべっているおかげで、少しは楽になったのも事実だからだ。
ただ、それでイラッとするかしないかは別問題である! 仕返しの、始まりだ!
「まあいいや。 なら幸二、俺にお詫びと慰めをかねて、コーヒー一本頼むよ」
「……その流れは予想してなかった…。 くっ、この現実主義者たるこの俺が…読み間違えてしまうとはっ! まあ仕方がない。 よかろう、コーヒーの一本や二本、おごってやろうではないか!」
「マジで? なら二本よろしくな!」
「グハっ」
むかつくから一本驕らせようとおもったら、まさか自爆してくれた…。 コーヒー二本はかなり嬉しいな。
「ははは、叶夢よかったじゃねーか! コーヒー二本だぜ? 俺も何か驕ってやろうか?」
勇牙が幸二と俺のやり取りを見て笑っている。 そして、賭けに対する後ろめたさからか、慰めからなのか、それともそのどちらからもなのか。
俺に何か驕ってくれるというが、この流れで俺を応援してくれていた勇牙から何かしてもらうというのは少し、いやかなり違うだろう。
「いや、いいよありがとう。 あっちの下種野郎(幸二)とは違って、俺応援してくれてたみたいだしな……」
「べ、べつにそんなんじゃねーし」
勇牙がすねたような口調になっている。 これが俗にいうツンデレ、なのだろうか……。
確かにこんな反応を佐川さんがしてくれたら、とても可愛いだろう。 まあ、今回の結果で、それを見れる化膿性はかなり減ったわけなのだけれど……。
勇牙の反応から思った、今の気持ちを二つ言葉にしよう。 決心という意味もこめて。 勇牙と幸二には、俺の決心の証人となってもらおう。
「まあ、佐川さんとの結果はさっき言ったとおりだったわけだが……。 けれど俺は、まだ佐川さんのことをあきらめられない! だからここに彼女を俺に振り向かせることを、幸二の驕ってくれるコーヒーに誓います!」
「幸二のコーヒーか……。 確かにありがたみがあるな……」
そうなのだ。 幸二はめったに驕ったりはしない奴なのだ。
だから、珍しく幸二の驕ってくれたコウヒーには何かご利益があるかもしれないのだ!
しかも二本もだぞ! ご利益倍増だぞ!
そして後もう一つの決心だが……。
男のツンデレは見ないように、言葉を選んでいこうということだ。
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