1章 1
朝から疲れた。
この僕、下原真太は校長先生が大事な話をしているときに入学式会場に飛び込んだ。つまり朝から恥をかいてしまった。
入業式をなんなくと越えた僕はこれから自分の能力の名前を決めると言う重要な行事がある。だが自分はずっと前からこの能力の名前を決めていたのだ。
「この紙に希望する能力名と大まかな能力の説明を書いてこの箱に提出してください。」
係員が生徒たちを誘導している。
僕は自分の能力名は『ブラックホール』しかないと思っていた。その名のとおり胃にブラックホールを飼っているといっても過言じゃないのだ。
隣ではツインテールの赤い髪に赤い制服赤い靴下に赤い鞄と赤尽くしの女の子がいた。見渡す限り赤一色である。この学校は規則はそんなにない。制服を改造してもなにも言われないし、どんな服装でもいいのだ。だからこんな赤尽くしの格好ができるのだ。
そして彼女はそこにある一文字を書いた。『特犯隊』を目指す人なら誰でも知っている名前。
『四重唱』と。
『四重唱』という言葉を『特犯隊』で聞いたときそれが示す言葉はまず一つだ。
それは『四重唱のカナディア』のことだろう。年齢以外の情報がなく、なかなか素顔を見せないが世界の特殊能力のランキングにおいて5歳からずっと17位をキープしている凄い人だ。その能力は不明でとんでもないものとされている。
その『四重唱』は年齢的に今年で高校生だろう。だがこんなに真っ赤な人が『四重唱』とは……。トマトかポストだな。
*
入学式が終わり、僕達新入生は二年上の先輩らに連れられ学園の校舎を見て回る予定らしい。
僕はとても重苦しいオーラを放っている几帳面そうな女の人に案内してもらえることになった。髪をサイドテールに纏め顔も美人だが明らかに委員長タイプである。
「私は生徒会書記の井手篭知代だ。あまり関わりが少ないだろうがよろしく頼む。」
なんかきっちりしている人だな、と考えていると井手篭先輩が次はお前が自己紹介をしろという目で見ているのに気がついた。だがあまり自己紹介はしたくないのでできれば避けたいのだが名乗らなければ失礼になるだろう。
「今年、入学してきました。下原真太です。こちらこそ宜しくお願いします。」
井手篭先輩は『下原』と聞くと目を丸くして何かを考え始めた。いつも通りの反応だった。いつも自己紹介をするとこういう顔をされる。
何かを思い直したのか考えるのをやめたのかわからないがケロッとした顔をすると案内を始めていった。
その後は順調に案内が進んだ。
特殊能力のことが書かれている本が置いてある図書館やトレーニングルーム、プール、グラウンドなどの広く充実した運動できる場所。その他に頑丈な修行場。様々な場所の位地とと説明を頭に叩き込んだ。
「以上で案内は終了だ。この後はクラスの発表だがその前に一つテストというか模擬対戦のクラス分けをしてもらう。」
いきなりクラス分けでそれが模擬対戦とはさすが普通じゃない学園だ。テストはさっき案内してもらった頑丈に作られている修行場で行うらしい。
テストの内容は至ってシンプルである。先生相手に特殊能力を使用した戦いを行う。それに結果よってS、A、B、C、Dの5つのクラスに分けられるというものだった。だがこの模擬対戦を受けたくない理由があった。それはほとんどの全校生徒が見ている前で能力を使用しなければならないというものだったからだ。
後ろから名前順で模擬対戦がスタートした。他の生徒の模擬対戦を見ていると先生は手加減をしないらしい。ほとんどの生徒たちが気絶させられていく。先生に一発でも攻撃を当てられればSクラスにいけるらしい。
「次、手宮カナディア。前へ。」
生徒たちのクラスを決めているのだろうか、ずっと戦ってる横で紙に何かをメモしていたスーツの男がそう言った。その瞬間、いままで面白がるように見ていた先輩たちがザワザワしてきた。というかみんな同じ理由であろう。
驚いた点は三つ。まずは見た目であろう。今回も真っ赤な服を着ているからとても目立つのであろう。
次に『四重唱のカナディア』の素顔を見れたからだろう。実は思いもよらなかったが可愛いというより美しい顔立ちをしている。
最後に誰も知らなかったであろう『手宮』という名字だ。世界基準で見るとだいたい特殊能力を使えるのは決まっている一族なのである。まれに一般の家庭から特殊能力者が生まれることもあるがだいたいはそういう一族の子孫が現在の特殊能力者を占めているだろう。そのなかでも『手宮』はほんとに凄い家系なのだ。『手宮』の家系にハズレは無いと言われたほどである。特殊能力の世界ランキングの現在トップは『手宮』一族であったと思う。
この場にいる全員が食い入るようにこの戦いを見つめている。さっきふざけあっていた生徒もそれをやめじっと『四重唱のカナディア』の戦いを見つめている。
『それでは、始め。』
スーツの男が戦いの開始を告げた。