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アチチ砂漠あちち!前編

 じりじりと照りつける陽の光が、じりじりと一行の体力を奪っていく。


「死ぬ」


 少年の弱気な発言に喝を入れる余裕もない少女。

 だが、一際過酷な状態なのは彼らではない。


「……人の分際で」


賢狼の柔らかな毛はこの上ない厚着である。畜生がだらしなく舌を出しとてとて熱い砂の上を歩く中。


「なんか見えない?」

「「!!」


少女の呟きに素早く反応するオス共。一心に目を凝らす。


「あれは緑、か?」

「オアシスだ」


砂漠に佇む憩いの場。それは約束の地。


「……水だーっ!!」


叫び、少年は飛び出す。砂の丘を必死に登る。続いて賢狼もさっきまでの疲労は何処へやら、オアシスへ向かって走り出した。


「ちょっと、転ばないでよ!」


 少女が声を上げた。


「だいじょ」


 砂煙が舞い上がる。少年は顔面から砂の中に埋まっている。

 

「!???!!!!??!?!???」

「大丈夫!?」


 少女と賢狼がパニック状態の少年をなんとか引っ張り出す。


「ぺっ! んえ! 死ぬかと思った!」

「焦りすぎよ」

「動きの鈍いやつめ……」

「違うんだって!」


少年は何かにつまづいただけだ、と腹を立てながら砂を掘る。

すると、そこには肌色の丸いものが。


「なんだこれ…」


触れると、表面は柔らかいが中が詰まったように固い。そしてじっとりしている。


「ゴム?」

「いや、ヒトの頭皮ではないか?」

「え……」


 少女は気味悪がって後ずさる。

 少年は無言で辺りを堀り出す。賢狼も手伝う。


「まだ生きてる」


 出てきたのは、砂まみれのよれよれタンクトップとムキムキの筋肉を持った、顔色の悪い大男だった。


「……元気くん?」


 二人の脳裏に最悪がよぎる。まさか、この男に限って。

 だが、かつて行きの旅で二人に暑苦しいほどの元気を振りまいた男の面影は、そこにはなかった。


 * * *


「やー! 死ぬかと思ったっス! ありがとうっス! 二人とも!」

「……心配して損した」


 つやつやとした肌に生まれ変わった大男は、大汗をかきながら太陽のような笑顔で快活に話す。


「お二人が通ってなかったら今頃俺はどうなってたかっス! 想像もしたくねえっス!」

「あと一週間ぐらいは生きてたんじゃね?」

「ひどいっス!」


 彼の名は元気くん。砂漠に水路を敷設する為に日夜元気に働き続けるナイスガイである。オアシスに連れて行き、水を飲ませると元通りに治ったてしまった。


「で、どうして元気くんは死にかけてたの?」

「ついに来たんだな。元気の元気じゃなくなる時」

「違うっス! マグマ土竜達のせいなんスよ!」


 元気くんは少年の肩に手を当て力説する。かなりの圧に少年は若干のけぞった。


「マグマ土竜ぁ? 誰それ」

「行きに追い払ったでしょ! 話が進まないから黙って」


 少年はしゅんと項垂れて賢狼と一緒に湖でちゃぷちゃぷし始めた。


「あいつら、おれを探してたみたいで。オアシスに逃げ切る前に途中で襲われて……ああなったんス」

「そう……。じゃあ、今度こそ討伐しましょう」


 少女の瞳は決意に満ちていた。元気くんの水路工事はなんとしてでも完成させねばならないと少女は思っている。


「スンマセン……。お二人の力になれなくて」

「いいのいいの。元気くんは元気くんなりの力があるんだから」


 元気くんは今にも泣きそうだ。


「でもさあ、実際問題どうやって倒すんだよ」


 少年は賢狼と一緒に犬かきをしている。


「お前の銃はあてになんねーし。俺の剣が届く間合いにならんし」

「……魔法は?」

「マグマ土竜と言ったか。我の魔法はそんな大がかりなものでは無い。精々足止めや牽制程度であろうな」


 一同、押し黙る。水をかく音だけが響く。少女は悔しそうに唇を噛む。


「……あ」


 沈黙を破ったのは。


「一つ思いついたっス」


 元気が売りの、どこまでも真っすぐな大男だった。


 * * *


 その日の夜。オアシスの町に唯一の宿屋に一行は泊まった。

 町の灯りは消え。夜空に星々がありありと浮かぶ。砂漠の夜は冷える。中々寝付けずにいた少年は外套を羽織って外へ出た。


「お前もか」

「うん」


 木々に取り付けられたハンモックに身を起こして座っている少女。湖面の夜空と少女が、あまりにも絵画じみて見えた。

 少年はその木に寄り掛かる。


「明日の作戦、どうなると思う」

「うまくいくと思う」


 少女が間髪入れずに答えてきたので、少年は少し驚いた。


「……へえ」

「……」


 なんだか今日は雰囲気が違う。夜の静寂がそのままに過ぎていく。


「うん。きっと大丈夫……」


 その言葉は自分には向けられていないようで。

 続けて何か言うのか言わないのか、少年には判断がつかないので、その顔をちらりと見た。

 目を閉じていた。


「眠いのか?」

「違うわよ」


 すぐさま低い声で返ってきた。いつもの少女だ。

 

「なんか冷えてきちゃった。あなたも体調崩さないようにね」


 少女はぴょん、とハンモックを降り宿屋に戻っていった。


「おう」


 少年はそれだけ返して、ずっと夜空を見上げている。月だけを見ている。


「遠いな……」

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