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霞み山を越えろ!

 霞み山。それは大陸一高い地であり最高峰の山である。名前の由来も、如何なる場所や高い所から見ても、頂上付近が霞んでいるからだ。

 2人は王国へ帰るために、まずこの山を越えねばならない。

 

 「はあー……いきなりコレか……」


 少年はがっくりと肩を落としてうなだれる。ついさきほどまでの、黄金バナナを手に入れたことによる調子良さはない。


 「そんなの久遠の草原出た時からわかってたでしょ。さ、行くわよ!」


 対して気合いを入れる少女。彼女は少年と違ってきっぱりとしている。そんな彼女だが、齢は少年より1つ下の15。本来なら子どもであり、冒険者などにはなっていない。

 しかし幼さ等微塵もない、冒険者としての足取りで山を登っていく。

 しかたなく少年はそれについてゆく。うなだれたまま。

 

 数十分も過ぎた頃。山の傾斜は登りはじめよりもきつくなっていた。更に、氷が見えはじめている。

 霞み山には不思議な力が宿っていて、上りは楽ですいすい進めるが、下りは疲れやすく道のりが長くなる。とされている。真偽は定かではないが、実際登山者は皆そう体感する。二人も大分進んだのだ。

 

 「歩くの早すぎだって……そろそろアレいるんじゃねーか?」

 「そうね。荷物を下ろして」


 少年の提案に、少女はバックパックを下ろすよう促す。中から取り出したのは2本のピッケル。

 ちなみにこのバックパックはマジックアイテムであり、収納物を少し小さくすることができる。もらい物である。

 

 「よっ、と。全く砂漠のアイツには感謝だなー」

 「まったくね」


 2人は器用にピッケルを使って斜面をのぼりながら、そんなことを口にする。


 さらに上ること数十分。二人には少し疲労の色が見えていた。

 

 「ふう……ここら辺で休憩しましょうか」

 「いや、まだだ。もうちょっとで仙人さんいるだろ」


 意外にも、休憩を断ったのは少年だった。

 以前の行き道で、2人は出会った……仙人と名乗る老人に。最初は胡散臭く思っていた2人――特に少年――だったが、仙人の使う秘術とやらを目の当たりにして信じるようになった。

 秘術は、2人の疲れを完全に消し去ったのだ。さらに少年の肩こり、眠気、空腹等も消え、むしろ調子が良くなったのだ。そのため、少年はその力をあてにしている。


 「確かにそうね。ここらへん……あれ?」

 「どした?」


 少女が怪訝な顔をしてどこか見つめているので、少年も同じ方向を見た。


 「……あの輝き……え!? 黄金バナナ!?」

 「……! 行ってみましょう」


 本来ならば黄金バナナはこんな山にないし、行きの道中でも見つけることはなかったのだが。

 近づいてみても、雪に覆われた場所に一本のバナナの木があるのは中々にシュールだ。

 

 「よし、もごう」

 「……黄金バナナ、手届かなかったよね」


 少女の言う通り、あの丘で入手した黄金バナナは結構な高所になっていた。しかしこの目の前のバナナは少年よりちょっと高いぐらいにある。なので、手を伸ばせば届く。

 と、その時。黄金バナナの輝きが増した。それは二人を包み込むまでになり、思わず少女は目を閉じる。

 

 少女が目を開けると目の前に、にんまりと笑う中年の男性がいた。彼はゆるい服装で、この山には似つかわしくない。

 

 「……やあ! 4日ぶりだね!」

 「なっ……」


 二人が黄金バナナだと思っていたもの(・・)は、なんとこの男性だった。

 まさしく彼が、この山に住み、二人が行き道で出会った仙人その人である。


 「2人が今までであった物の中で一番印象深いものに化けたんだけどねぇ。これになったって事はつまり……」


 仙人は期待の混じった顔で二人――の荷物を背負っている少年の方を見て言う。

 少年はあっけにとられながらも、仕方がないといった表情になる。そしてバッグパックから黄金バナナを出す。


 「はい。ちゃんと入手しましたよっと。……一房だけっすけどね」

 「おおー! 2、4、6、7本かい。では、1本!」

 

 そう言って仙人はすばやく黄金バナナ1本をくすねとった。


 「あっ! まだやるとは言ってない……」

 「いいじゃない。この人にはお世話になってたし、それに後6本あるんだし」


 少女がそう言っても、少年は残念そうに思う。

 その目の前で、仙人はすでに黄金バナナをほお張ろうとしていた。が、寸前になって何か思いついたように二人を見る。


 「そうだ。二人はこれもう食べたのかい?」

 「いや食べてないっすね」

 「じゃあ、僕が人類初の黄金バナナを食べた人間になるのか!」


 そう言って、ぱくり。さらに、ぱくり、ぱくり。

 無言で食べ続け、黄金バナナ1本は仙人の胃の中へと消え失せた。仙人は満足した表情だ。

 

 「おいしいねえ……これ。でも僕的には前に食べた君のお手製弁当が一番おいしいかなあ」


 そう言って仙人は弁当の作り手たる少女のを見る。少女は不服そうだ。

 それもそのはず、その弁当は行きの時少年の為に作ったものだったからだ。色々あった末に弁当は取られてしまったのである。

 仙人は少女のそんな表情を見て申し訳なく思ったのか。提案する。


 「よし、じゃあこっからは僕が送ってってあげよう! もう山くだりには行きの時に懲りたろう」

 「あー……お願いしまっす!」


 元気良く少年が返事すると、仙人はちょっとえらそうな顔をして、

 

 「まあ、僕がおくるわけじゃないけど。ほい! 山舟!」

 「えっ」


 二人はいつの間にか木製の小舟に乗っていた。いや、乗せられていた。山舟というのは仙人が自分の舟につけた名前で、そんなものはない。

 

 「じゃあ、山の船旅いってらっしゃーい!」

 

 仙人が小舟を押すと、二人を乗せたまま傾斜に沿って少しずつ動き出す。それは加速していき、猛スピードで山を滑り降りていく。


 「うわあああああああああ!」

 「きゃあああああああああ!」


 二人は悲鳴を上げるが、小舟は止まらない。遥か後ろで仙人の声が聞こえるが、少女はそれにいらっとする。

 途中岩にぶつかったりもしつつ、小舟は無事に、二人は有事にたどり着いた。

 なんとか二人は山を越えることができた。次は生き物の死に絶える凍土。

――バナナ、残り6本。

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